日本の服飾業界の重鎮として活躍している、ファッションアドバイザー・赤峰幸生氏。
御年76歳でInstagramのフォロワーは3万3000人超、服飾のみならず、アートや歴史の分野にまで及ぶ博覧強記で、老若男女を問わずたくさんの方々に支持されています。
そんな赤峰氏が語る、誰も教えてくれなかった「紳士服の教科書」。第1回目は、スラックスのサイズ選びについてです。
スーツ初心者の方はもちろん、もう何年もスーツを着ているという方も、正しいサイズの選び方をきちんと知っている人は多くはないのかも知れません。
ウエスト・裾丈・裾上げ幅・裾口幅・わたり幅……と、サイズ選びをする上でチェックすべきところはたくさんあります。トレンドに左右されない、ファッションの基本を知り尽くした赤峰氏のサイズ選びを学んでいきましょう。
【1】ウエスト
そもそも、私たちが普段「スラックス」と呼んでいるトラウザーズですが、昭和や大正の時代にはベルトではなくサスペンダーを使用していたため、「吊りズボン」と呼ばれていました。
英国ではサスペンダーのことを「ブレイシス」と言います。クリース(スラックスの中央の折り目)がストンと垂直に美しく入るようにブレイシスで吊るのが、本来のスラックスの穿き方なのだと赤峰氏は語ります。
そのために重要なのが、スラックスは腰履きせず、しっかりウエスト位置でフィッティングすること。腰回りで、一番くびれたところがウエストです。ウエスト位置がズレてダボついていると、ウエストから足元までの距離がきれいに見えません。
【2】裾丈
次に大事なのがスラックスの丈です。
上の写真のように、靴の甲と裾のあいだに、わずかな隙間が入る程度にしましょう。「殿中でござる」みたいに長過ぎるのはもってのほか。
ポイントは横を向いたときに、シルエットがヒップから裾にかけてキレイに落ちているかどうか。シワやだぶつきがあると汚く見えるので注意してください。
最近はワイドなシルエットなものも多いですが、レディースとは違い、メンズはワイドすぎないものを選びましょう。
テーパードのシルエットも、スラックスの丈を決めるのはブレイシス(サスペンダー)。ストレッチ素材ではなく、フェルトのブレイシーズで、ワンクッション入るところがほどよいでしょう。
【3】裾上げ
裾上げにはシングルとダブルがあります。シングルとは裾に折り返しがないもののことで、ダブルとは折り返しがあるもののこと。
どちらが良いのか迷われる方もいるかと思いますが、基本的にはダブルの裾上げで、裾上げ幅は5cmだと間違いがないと心得てよいでしょう。
シングルにするのは、ドレススーツを着るときくらいです。
ドレススーツでは、裾を後ろ斜め下へカットしたモーニングカットと呼ばれるシルエットにします。しかし、このままだと生地に重しがなく、しわになってしまいます。
スラックスの生地がまっすぐきれいに落ちるようにするためには、内側にテーピングをしなければなりません。
一方、ダブルなら自然と生地に重しがついてまっすぐなシルエットになるので、基本的にはダブルで裾上げをします。
裾上げ幅は5cmが基本のキです。これは身長に関係なく、股下がかなり長い方でも同様です。
よほど背の低い方の場合のみ、4.5cmにしても大丈夫です。裾口幅が19cmくらいから23cmくらいのスラックスなら、裾上げ幅は5cmと考えるのがいいでしょう。
ちなみに夏物の薄い生地の場合は、裾に重しをつけるために、いわゆるヘム(裾の折り上げ)を1.5cm~2cm、ヘリンボーンテープで押さえると生地がきれいに張ります。
【4】裾口
かっこよく見せたい、スリムに見せたい、と細いものを選ばれる方が多い裾口。しかし、細ければいいというものではなく、ある程度の太さがないとシルエットがきれいに見えません。
例えば身長174cmの方なら、スラックスの裾口は最低でも20~21cm、場合によっては22cmです。
身長の低い方でも、一番細くて18~19cmでしょう。細すぎるのはNGです。
【5】わたり幅
わたり幅(太腿の部分の幅)も自分のサイズに合ったものを選ぶことが重要です。
スポーツをやっていて、腿の部分がかなり張っている方がいます。そういった方が、わたり幅が細いものを穿いてしまうと、椅子に座ったときなどにパツパツになってしまうの注意が必要です。わたり幅は適度にゆとりがあるかどうかも、要チェックです。
スラックスのサイズを正しく選ぶと、全体の印象が段違いによくなります。
ぜひ参考にしてください。
Text:FORZA STYLE
プロフィール
赤峰幸生
イタリア語で「出会い」を意味する、インコントロ代表。大手百貨店やセレクトショップ、海外テキスタイルメーカーなどの企業戦略やコンセプトワークのコンサルティングを行う。2007年から『真のドレスを求めたい男たちへ』をテーマにした自作ブランド「Akamine Royal Line」の服作りを通じて質実のある真の男のダンディズムを追及。(財)ファッション人材育成機構設立メンバー、繊研新聞や朝日新聞などへの執筆活動も行う。国際的な感覚を持ちながら、日本のトラディショナルが分かるディレクター兼デザイナーとして世界から注目を浴びる日本人のひとり。