FASHION ドクトル赤峰のレジェンド対談

戦中世代の菊池武夫が語る【コロナ禍の今が、戦時中と似ている理由】

『ドカベン』や『あぶさん』で知られる、1939年生まれの漫画家・水島新司さんが引退を発表したその日、水島さんと同年生まれのクリエイティブデザイナー、菊池武夫さん(81歳)と、ファッションディレクターでレーベル「AKAMINE Royal Line」を主宰する赤峰幸生(76歳)さんが、ZOOMを介して対談した。

ともに戦中世代として、戦後の混乱から令和の時代まで現役を貫いて活躍している2人は、「コロナ禍の今は戦争状態と似ている」と口を揃える。

コロナショックに揺れる、アパレル不況の活路とは? そして老境の域に入った2人の、「老人力」とは。

戦争体験者だから分かる、今は普通じゃない状態ですよ(菊池)

赤峰 大変ご無沙汰しています。モニター越しですが、顔色が良くお見受けします。

菊池 ありがとうございます。元気ですよ。今年はずっとリモートで仕事をしています。散歩以外は、ほとんど外に出ない生活をいまでも続けています。つらい時もありましたが、もう慣れましたね(苦笑)。

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オンラインが繋がった瞬間、エア握手する2人

赤峰 お互い、まさかこの年になってこんな目に遭うなんて、思わなかったですね。

菊池 ワクチンがちゃんと効いて、感染者が減らないと平常生活は難しいでしょうね。

赤峰 ワクチンが本当に効くものなのか、効果はこれからですからね。新型ウィルスの蔓延は、私には「地球が怒っている」ように思えるんですよ。地球的な人口増加や環境破壊など多くの問題を抱えていますからね。

菊池 戦中世代の私がいま切実に思い返すのは、この状態が、戦争のときの空気感に似ているということ。自分は戦争体験者だから分かるけど、戦争状態に入ったときは普通じゃないんです。ちょうど、いまみたいな先の見えない、希望の見えない、当たり前のことが当たり前にできなくなるような、息苦しい毎日が続いていたんです。

赤峰 いまはこんな私も、その当時はまだ乳飲み子でしたから、先輩の言葉は胸に染みます。

菊池 いまの皆さんは、あまり緊張していないよね。私がコロナを戦争状態に例えるのは、繰り返しになりますが、戦時下では「当たり前のことが当たり前にできない」。終戦して初めて、深い水の中からぷはっと顔を出すように、希望を吸い込むことが可能になった。今のコロナ禍は、希望や可能なことがものすごく少なくて、日常生活に大きな制限が加えられています。ほとんど何もできずに耐えるだけですが、今は我慢しながら、自分の未来を思い浮かべながら、戦争が終わったら爆発すればいいんです。いまは、戦後のために、力を溜めておく時期なのではないかと考えているんです。

赤峰 おっしゃる通り、今はストレスがありますが、これまで当たり前だと思っていたことを疑って、思いと行動を「溜める時期」なのでしょう。溜めるだけ溜めた方が、コロナが終息してからの爆発力が強いかもしれませんね。

菊池 そう、マグマのように溜まっていないと大きな反動が出ないからね。コロナさえ収まれば、景気もあっという間に良くなりますよなんて無責任なことを言っても、ある......程度許してもらえるのは、年の功かな(笑)。

FORZA STYLE読者から2人に質問
「今後のアパレル市場はどう変化しますか?」

赤峰 タケ先生とFORZA STYLEでリモート対談をすると告知したら、love flowerさんという方から、「現在のマーケットを見渡すと、デジタルなものとアナログなものの二極化が進み、どちらにも振り切れていないモノやブランドは消えていっているように見えます。BIGI時代より長くモノ作 りと軽々に携わってこられたタケ先生の目線では、今後のアパレル市場はどのように変化していくのでしょう?」という質問をいただきました。

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菊池 アパレルの今後は正直大変ですよ。構造的な問題をはらんでいるから、対処療法が効くとは思えません。赤峰マーケットの数字は元に戻っていないし、ドンドンECに移行している。残っていくのは、「顔が見えるブランド」なんでしょうね。

菊池 アパレルはハイブランド系と廉価なコンビニ型の二極化が進むんでしょうね。

赤峰 そんな時代だからこそ、タケ先生には、面白いものをいっぱい作ってほしいですよ。

菊池 今だからこそね。

赤峰 タケ先生の目線で、「どうだ、若者。こういう服を着こなせるかな?」というものを作ってほしいですね。

菊池 やりますよ(笑)。頑張りますよ、行動を起こすしか、ないからね。

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赤峰 レーベル「40CARATS&525」で 一緒に仕事をして、フィレンツェで合流していろいろ回 ったりしましたよね。また一緒に新しいことをやりたいですよ。まだまだ若い人たちには任せられない(笑)。

菊池 いまの若い人はとても誠実で、一生懸命やっている。でも、どこかのんびりしているようにも映りますね。

赤峰 そう、締まっていないんですよね。自分の小さな世界で満足している感じで、もっと引きで物事を見て、大きいところでムーブメ ントを起こすような面白いヤツがいないんですよ。こういうことを言うから、私なんかは老害だなんてYouTubeのコメントに書かれたりするのですが(笑)。

菊池 それはたぶん、周りが望んでいないからやっていないのかも知れませんけどね。

赤峰 今は、大手アパレルも百貨店も苦境に立っていますが、提案はありますか?

菊池 SNSの世界もそうなんですが、みなさん、「刺激のある何かを望んでいる」んですよ。私たちは、もっと直に感じるデザインのイマジネーションを出していかないとダメだと思いますけどね。70年代がそうだったように、それまでのモノをほぼ否定して、音楽、環境、アートなどをひっくるめた感覚でファッションを提案するスタイルを、今またやってもいい感じはあるんでしょうね。

赤峰 70年代に堤清二さんが率いた西武渋谷店にあった、倉俣史朗デザインの空間のセレクトショップ「カプセル」や、高田賢三さんのブティック「ジャングル・ジャップ」とか、当時は「挑戦の時代」でした。

菊池 今また、そういう時代に入っていると思いますよ。

今は気持ちがどんどん溜まって、来年良いことが起きるような気がします(菊池)

赤峰 タケ先生も長く服作りに携わってきて、今も「こういう服を作りたい」と感じ取るものはありますか。

菊池 それはずっとありますよ。一年前に作った服はつまらないし、自分がピッとくるモノを作りたいといつも思っているし、やっていることにすぐ飽きるし(笑)。常に変化しているし、飽きっぽいのは、僕の特徴かも知れない。

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赤峰 今はモノ作りも大変で、産地が疲弊しているのも心配です。

菊池 でも、洋服って、人がいる限り、絶対になくなることはないと思うんですよ。マーケットの形は変わるでしょうが。

赤峰 今は、どんな着こなしが気分ですか。

菊池 今は70年代の最初の頃のことを思い浮かべているんですよ。というのは、洋服は時代と共にフォルムが変わっているだけで、原型は変わっていない。今流行っているものはすでに出きっているスタイルだから刺激がないですよね。

赤峰 どういうところに刺激を求めますか。

菊池 今は資料をほとんど見なくなりました。なぜ70年代を思い浮かべるのかというと、当時は情報がたくさんあったわけじゃないし、自分たちが望んでいた時代ではなかったけど、何かを「生み出したい」という思いは強かった。今は「鎖国」みたいな感じで、すごくいいチャンスだと思っています。

赤峰 60年代、70年代、安保の時代でしたが、面白いことをやっている連中がいっぱいいました。

菊池 ベトナム戦争もあったしね。

赤峰 戦争や政治の背景は直接的なものじゃないですが、そこから起きる様々な現象がアパレルやアートの世界にも大きな影響を与えますね。

菊池 今がチャンスだと思ったのは、戦時下状態で、活動もできないから、気持ちが溜まる。気持ちが溜まることはすごくいいことで、来年良いことが起きるような気がしますけどね。鬱憤は、創作活動にはなくてはならないエネルギーでもあると思うんです。

赤峰 今は「溜めの時期」ですね。さて、ここからは持病の話……ではなくて、「年を取ること」について、お話をお伺いしていきたいと思います。

FORZA世代、必読! 歳をとることは、諦観なのか、達観なのか

赤峰 4つ下の私がタケ先生に言うのも変ですが、お互いに歳をとりましたね。

菊池 2021年で、私も82ですよ。でもね、楽しんでいられるときまでは、仕事が面白いからやりますよ。

赤峰 私も息を引き取る寸前まで服を触っていたいですよ。

菊池 それができるならやってみたいね。

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赤峰 「歳をとる」ってどういうことでしょうか。

菊池 歳をとってからのほうが、若い頃よりも充実感が増した気がしています。50代、60代までは、まだがむしゃらで「噛みしめている時間」なんてなかったですからね。最近は、自分がやっていること、周りや人がやること、自分との差が自覚できるようになって、人生を俯瞰で見て、味わうことが増えました。

赤峰 タケ先生にとって、歳をとることは、諦観ですか、達観ですか。

菊池 達観というとおこがましいですけど、達観しているのかもしれない。怖いものがほとんどなくなった感じもします(笑)。

赤峰 でも、山の高さを100合目だとすると、まだ81合目ですからね(笑)。

菊池 まだ登っていきますけどね、満足なんか一回もしたことないし、頂上なんて見たこともないし。

赤峰 先生とまたフィレンツェで合流したいですね。

菊池 「戦後」になったら会いましょう。来年の後半だったらリアルに会えるかな、どうだろう。

赤峰 老後2人のデート、楽しみにしています(笑)。では最後に、40代を中心とするFORZA STYLEの読者にメッセージをください。

菊池 若い人は賢いから、現状の中で何をやって、世の中が何を求めているのか、分かっていることでしょう。でも分かっているからこそ、「分かっていないところで何かをやる」には、すごいエネルギーが必要ですが、ぜひ「分からないこと」をやってほしい。

赤峰 衣食住を同じ目線で見られるチカラも必要ですね。

菊池 服だけが単独であるわけではないので、音楽、食事、環境など、いろんなものをひっくるめて考えてほしいと思います。

赤峰 長い時間、ありがとうございました!

【リモート対談を終えて】

タケ先生、お元気そうでなによりでした。「今から先、時代が動く」ことはタケ先生と自分の共通の認識で、タケ先生なりの見方を知ることができました。アジア全体を見ても、「インバウンドであの夢をもう一度」というビジネスはもうないし、近隣諸国は日本より豊かになっています。そういう中で、仕掛けられる人間がいるのか。

自分は「これからを引っ張っていく坂本龍馬になりそうな20代」を探していて、面白いヤツが出てくるのを期待しています。まさに維新前ですよ。(赤峰幸生)

 

菊池武夫(きくち たけお)
クリエイティブディレクター
1939年東京都千代田区生まれ。61年文化学院美術科卒業。62年原のぶ子アカデミー卒業。64年注文服の制作をスタート。コマーシャル用のコスチュームデザインやファッション写真の衣装制作を手掛ける。70年パリでの海外生活などを経て友人と株式会社BIGI設立。75年株式会社MEN’S BIGIを設立。84年に「TAKEO KIKUCHI」を設立。80年代に全盛期を迎えた"DCブランドブーム"の火付け役。現在もTAKEO KIKUCHIの運営総指揮を担当。

TAKEO KIKUCHI

赤峰幸生(あかみね ゆきお)
ファッションディレクター
1944年東京都目黒区生まれ。74年「トラッド」、82年「グレンオーヴァー」設立。90年「インコントロ」を設立し、98年よりイタリア生産による紳士服ブランド「Y.Akamine」を立ち上げ、2008年にカスタムクロージングのブランド「Akamine Royal Line」をスタート。大手アパレル、百貨店、セレクトショップのコンサルティングも手がけている。

インコントロ

Text:Makoto Kajii



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