クラシックのルールに則りつつ、遊びを加えて個性を演出
僕が、現時点で“これさえあれば!”と思う3着を使ったカシミアスーツの着こなし提案も、いよいよ3回目。今回は、1回目で紹介したネイビースーツの上着と、2回目のグレースーツのパンツを組み合わせたスタイルに挑戦します。
せっかく、極上の素材が手に入ったんだから、いろんな着方がしたいと思うのは当然のこと。こんな荒技がピシッと決まるのも、同じブランドのスーツだからこそできるバランスなんですよねえ。
アイテム
スーツ(オーダー)/ブリッラ ペル グル イスト ※ネイビースーツの上着
パンツ(オーダー)/ブリッラ ペル グル イスト ※グレースーツの組下パンツ
シャツ/アルコディオ
ネクタイ/ブルネロ クチネリ
チーフ/マリアーノ ルビナッチ
メガネ/モスコット
ベルト/ジャン・ルソー
時計/セイコー
ソックス/グレン・クライド
靴/WH
段返り3ボタンのネイビースーツは、そもそもこんな風にジャケパンスタイルでも着こなせるようにと、いつもより明るいネイビーで、しかも腰ポケットをパッチ式にしてオーダー。「ブリッラ ペル イル グスト」ディレクターである無藤和彦さんの教えに従い、何も足さない、何も引かないという考え方を踏襲しました。
例えば、キュプラ繊維「ベルベルグ」の裏地は、表地と同じ色合いに。袖ボタンはあえてイタリアのサルトリアに多いキスボタンにせず、ボタンを重ねない仕様にしました。ボタンの色にもこだわっていて、黒靴にも茶靴にも合う色の水牛ボタンを選んでいます。
生地が飛び抜けていいのに加え、リングヂャケットの美しい仕立てを際立たせるためにも、ディテールはシンプルに徹するのがいいと考えたんですよ。
いまの時代、これ見よがしなディテールはトゥーマッチ。自意識過剰の自己愛が激し過ぎるオジサンに見えてしまってはイタイだけなので注意してくださいね。そう、わかりやすく言えばお下品(笑)。どんなに良いものを着ていたとしても、周囲にわかってもらいたい気持ちをグッとガマンして、紳士に振る舞うのが正解だと思うのです。
リングヂャケットの仕立てに関して、僕が特に気に入っているのが肩のライン。アイロンワークによるいせ込み、傾斜の美しさは世界でも有数のテクニックをもっていると断言できます!
で、今回の着こなしでは、グッとイタリア的な方向に寄せています。この着こなしで証明したかったのは、メンズのスタイルに欠かせないネイビースーツとグレースーツも、着方によっては個性を出せるという点。色の選び方然り、小物の使い方然り。僕は最近、シャツは白ということが多いのですが、ここでは品位のあるイタリア人をイメージしてサックスブルーを選んでいます。
というのも、ネイビージャケットとグレーパンツ、サックスブルーのシャツというのは、クラシックな着こなしの鉄板コーディネイト。特に、イタリア人のオジサンが好きですよね。
でも、それだけだと少し真面目過ぎするかなとも思い、ペイズリーのポケットチーフやクロコダイルの時計&ベルトで少しアクを加えました。上着の前ボタンを開けたときに見える、ウエスタン調のベルトやパンツの2プリーツもいいアクセントになっていると思います。
あと、この着こなしで僕がイタリア男に倣ったのは、クラシックのルールは知っているけど、自分らしさや快適さを求めるという彼らの特徴。そこで、僕のオリジナルとして足元には厚底のスエード靴を合わせてみました。
スエード素材はイタリア男の大好物ですが、厚底となるとクラシックの範疇から外れてしまうので、コンサバな彼らは手を出さないでしょうね。ただ、僕たちは日本で生きているわけですから、そのへんは自分のいいように取捨選択すればいいと思うんですよね。
クラシコイタリアがブームになった時代には、“こうでなければならない”といった不文律が存在しましたが、あれは日本のファッションメディアがつくったひとつの幻想。本場はもっとおおらかだし、最低限のルールを知ったうえでのハズしなら逆に面白がってくれます。
であれば、日本人の僕は、僕が暮らす東京に似合うクラシックを追求するのが自分にとっての役割。取り留めなく話を続けていきましたが、こんなことを最近ずっと考えています。
今回のスタイルのキモは……。
●3着まとめてオーダーはバラしても着られるはずというのが本心。
●それぞれ単品でも着られるようにあらかじめ色合いやディテールに配慮。
●鉄板の組み合わせに小物で遊びを加えるのが初心者には簡単かも。
●クラシックのルールを知ったうえでアップデートするのが重要。
●新しい生活様式は、無理せず、油断せず、続けることが大切。
Photo: Ikuo Kubota (OWL)
Styling&Model:Yoshimasa Hoshiba
【エロサバ】-Hoshipedia
「エロサバ」とは、エロいコンサバの略で、干場の哲学により生まれた造語。シンプルでベーシック、コンサバティブな洋服を着ているのに、なぜかエロく見えるスタイルのこと。例えば喪服の女性。成熟した大人の女性が喪服を着ていて、メイクもナチュラルで抑制しているのに、不思議と色っぽく見えるスタイル。例えば、普通の白いシャツを着ているのにも関わらず、胸元のボタンの開け方や袖口のまくり方でSEXYに見えるスタイル。粗悪な素材でデザインが変わっているシャツでは駄目。上質な素材でベーシックなシャツだからこそ、崩して着こなしても上品さが保てるのです。男性で例えるなら、仕立てられたグレーの無地のスーツを着て、上質な白シャツに黒の無地のネクタイのような極めてコンサバティブなスタイルをしているのに、内側から大人の色気が香るスタイルのこと。