FASHION ― 男のおしゃれ不要論

荻山尚著「男のおしゃれ不要論」

第四回「ビジネスシューズは一択だけあればいい!」

2020.8.6 2020.8.6
2020.8.6
働く男を応援する装うことの理論と応用を網羅! 働く男におしゃれは必要ない、と著者は考えます。しかし人は裸では生きていけません。だから、服を着るのです。もちろん、やりすぎてはいけません。つまり、他者におしゃれだと感じられてはいけないということです。趣味としてのファッションと、日常着る服は異なるのです。

足元を見る、という慣用句があります。
これは街道筋や宿場などで、駕籠舁き(かごかき)や馬方(うまかた)が旅人の足元を見て疲れ具合を見抜き、それによって値段を要求し、客は法外な値段であっても疲れていればその金額で了承してしまうことから、相手の弱みにつけこむことを「足元を見る」や「足元につけこむ」と言うようになったそうです。

現在でも一流のホテルやレストランのスタッフはさりげなく、客の足元をチェックしているようです。現在の足元、つまり靴を見て客のバックグラウンドを見極めようとしているのです。海外のホテルはそれが顕著で、ジャケットを羽織り、革の靴を履いている者と、ジャージやスウェットにスニーカーの者では明らかに対応が異なります。両方の経験が私にはあり、こうまで違うのかとショックを受けたことを思い出します。

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1886年に靴の聖地・英国ノーザンプトンで創業したチーニーを代表するドレスシューズ「LIME(ライム)」。ラスト(木型)は、ややノーズが長く、ボールジョイントにゆとりをもたせた11028を採用。カーフ製、レザーソール、グッドイヤーウエルト製法。5万9000円/チーニー(ブリティッシュ メイド 銀座店)

つま先が長く細い靴はなぜダメなのか?
さて、みなさんはどのようなビジネス靴を履かれていますか? 私がよく見るのが、アッパー(甲部)のつま先から履き口に向かけて二本のステッチが入った靴。それらはたいていノーズ(つま先)が長く、反り返り気味で、ソールはゴム製ということが多いように感じます。

これらの靴は、おしゃれをはき違えて作られてものです。デザイン性が強過ぎなんですね。このような靴を選ぶ人は、他者に「私はおしゃれのことに気を払うように、あなたにも気を払っています」とアピールしたいのでしょうか。しかし、そのアピールは「物の良し悪しを知らない、軽薄な男。自己のアピールだけに終始しかねない調和の取れない男」と捉えられかねません。

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これぞキャップトウの代名詞と呼びたくなるクロケット&ジョーンズの定番モデル「KENT(ケント)」。伝統的なグッドイヤーウエルト製法によるものだが、アウトソールにはグリップ性の高い「シティ・ソール」なるラバーがプラスされる。ラストは丸味を帯びた小振りなエッグトウ、小さめのヒールなど、全体的に細身でシャープなシルエットながら、甲の高さも充分にとられ、フィット感も良く履きやすい341。7万6000円/クロケット&ジョーンズ(グリフィンインターナショナル)

では、どんな靴がいいのか。ご自身の足に合った、歩きやすい靴かどうかが一番大事なのはいうまでもありません。さらに、大げさなデザイン性がないものを選びたい。

まずアッパーのフォルムに注目してください。つま先はやや丸みを帯びていて長すぎないものを。そのつま先は極端に薄かったり盛り上がっているものはNG。ビジネスに過剰なデザインは求められていません。

そこから履き口に向かってなだらかに上昇していくフォルム。親指と小指の間の部分(ボールジョイント)、ウィズ(Width)も大げさに張り出していない方が好ましい。

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履き口からソールにかけて抑揚のついたフォルムで、かかとを包み込むように作られた靴がいい靴だ。

かかとを包み込むように小ぶりなヒールはよい靴の証です。アッパーのフォルムは、足をきちんとホールドし、歩きやすく、疲れにくいかどうかを決定する要素です。そこにトレンドや見映えが入る余地はほとんどありません。足の形は千差万別ですが、その平均を出したフォルムがここに紹介したものです。

ストレートチップだけあればいい!?
アッパーのデザインを見てみましょう。最もフォーマル度の高いものがプレーントウと呼ばれる何の飾りもないデザインです。トウとはつま先のことで、プレーンとは簡素なさまを意味します。具の入っていないプレーンオムレツ同様、シンプルこの上ない靴です。

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1919年にテデ・チャンドラによってインドネシアで創業した靴工場JALAN SRIWIJAYA(ジャラン スリウァヤ)。二代目はノーザンプトンで修業を積み、驚くほどの価格で本格製靴を生み出している。この「98321」モデルは、アッパーとウェルト、インソールを手作業によるすくい縫いで縫い合わせるハンドウエルテッド・グッドイヤー製法を採用。アッパーにはフランス「デュプイ社」のカーフレザーを、底材には ベルギー「アシュア社」のレザーを使用。3万円/ジャラン スリウァヤ(GMT)

次にビジネスマンに最も愛用されているのが、つま先に真一文字のステッチが入ったデザインが特徴のストレートチップ(またはキャップトウとも呼ばれる)が挙げられます。私もスーツの時には必ずこのデザインの靴を履きます。プレーントウもいいのですが、少しシンプル過ぎる、というか制服のような無味無臭な印象になってしまうように感じます。プレーントウは警察官や郵便局員の制服に合う靴でストイックで冷徹な印象、と言ったら言い過ぎでしょうか。

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つま先に切り替えのあるデザインがストレートチップ、またはキャップトウという。

一方、ストレートチップはシンプルでいながら、プレーントウよりもどこか親しみやすさを感じさせます。とはいえ、この真一文字のステッチ位置がつま先の、前の方にあったり、逆に履き口近くにあるものは演出過多。指の付け根よりややつま先よりの配置がバランスよく見えます。

その他にビジネスで使える靴は、つま先が鳥が羽ばたいているような形状のウイングチップや、シューレース(靴ひも)のないローファーなどもありますが、とにもかくにもストレートチップさえあればいい。あれこれ揃えるよりもこの靴の黒と茶を持っていればすべてに事足ります。

靴底はゴムとレザーどちらがいい?
次にソールをチェックします。レザーかゴムか。
どちらも正しいです。ただし、アッパーとソールがどのように接合されているかが大事。

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きれいめカジュアルに欠かせないパラブーツのストレートチップがこの「MONTAIGNE(モンテーニュ)」。アッパーはデュプイ社のカーフ、ソールはラバー「ACTIV」がおごられている。オンはもちろん、オフでも活躍する一足といえるだろう。7万円/パラブーツ(パラブーツ 青山店)

靴の接合方法には大きく分けて2種類があります。ひとつは接着剤で接合する方法。もうひとつは糸で縫い付ける方法。前者の利点は軽く作ることが可能で、手間が後者に比べてかからない分、価格も手頃な物が多いところにあります。ただし、接着剤による接合は、日本のような高温多湿の気候によってはがれやすく、はがれてしまった靴を修理することは基本的にできません。

一方、後者は、糸でしっかりと縫われているので耐久性が高く、またソールがすり減ってもこの糸を抜いて新しいソールと接合できる点。

前者に比べて重いのですが、歩行には多少の重さがあった方がいいという研究もあり、どちらが歩きやすいかは個体差や好みによるところが大きいように思います。ただし、個人的な好みは間違いなく後者です。使い捨てになってしまう物よりも長く使える物の方が結局は得で、幸福度も高いと考えるからです。

糸で縫われた靴の製法にグッドイヤーウエルトというものがあります。
グッドイヤーという名称は、米国のチャールズ・グッドイヤー2世という人が開発したことに由来します。
ウエルトとは、アッパーとソールを接合する際に、その中間(仲底)に縫い付ける細い帯状の革をウエルトということに起因します。

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チャーチを代表するドレス靴がこちらの「Consul(コンサル)」。領事というその名のとおり、英国の大使や政治家が好むデザインを持つゆえに付けられた。ステッチや木型に英国の伝統的な作りが見て取れる。ウォールナット色を配したネヴァダレザーの風合いも魅力。8万3000円/チャーチ(チャーチ 表参道店)

このウエルトがアッパーとソールそれぞれに縫い付けられることによって、アッパーとソールが直接接合せず、結果、履き心地と耐久性の向上をもたらすこととなるのです。

この製法は主に英国やアメリカの靴に使われています。ちなみに、イタリア靴に多く使われるマッケイという製法はこのウエルトを廃し、アッパーとソールを直接縫合します。

接着剤のみによる靴より耐久性が高く、グッドイヤーウエルトより軽量になるのが特徴です。足馴染みもよいので窮屈な靴は嫌だ、という人にはおすすめです。

が、ビジネスで履く靴の一流はグッドイヤーウエルト製法のものだということもおぼえておいてください。いずれにせよ、接着剤だけで作られた靴は、安価ですが長持ちせず、また見た目もカジュアルなものが多いので避けた方がいいでしょう。

グッドイヤーウエルト製法の靴は初期投資としては高価ですが、長く履け、アッパーの革の質もいいものが多いので磨くことでより上品な印象になります。ゆえに結果得をするという考えをもつこともできます。価格は日本やイタリア製のものだと3万円台からあります。

いずれにせよ、靴を手入れすることは上記以上に大事なこと。過剰にピカピカさせることはありません。ほこりやくすみをブラシやウエスで取り払い、傷がついたり、色が抜けてきたらクリームを塗る程度でOK。足元を見られて損をしないように。しかし、足元を見せつけすぎるのもまた無粋。禅問答のようでありますが、おしゃれ過ぎるのは働く男には不要なのであります。

Photo: Ryouichi Onda
Styling:Takahiro Takashio
Text:Takashi Ogiyama

【お問い合わせ】
ブリティッシュ メイド 銀座店 03-6263-9955
グリフィンインターナショナル 03-5754-3561
GMT 03-5453-0033
パラブーツ 青山店 03-5766-6688
チャーチ 表参道店 03-3486-1801

Author profile

荻山 尚
荻山 尚
Ogiyama Takashi

青山学院大学卒業後、商社に勤める。その後、雑誌編集の道を目指し、20代はCar Ex、カーマガジンなど自動車雑誌に在籍。30代はセンス編集長、レオン副編集長をはじめ数々の男性ファッション誌のエディターを歴任。ファッション、クルマ、時計、食、旅、そして家族が大好きな1972年東京生まれ。

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