男性の服装においてパンツの重要度が年々高まっています。ビジネス用のパンツといえば、グレーのウール製パンツがその筆頭でしょうか。
選びのポイントは、ネイビーのジャケット同様に季節によって濃淡を変えること。暑い時季には淡いライトグレーを、寒い時季には濃いチャコールを、ということです。また、ウール生地も暑い季節には肌触りがさらっとしていて、通気性もいい薄手のものを。寒い季節には保温性が高く見た目も温かみのあるフラノなどの起毛または厚手の生地をおすすめします。
日本人には四季を愛でる習慣が古来からあります。世界規模での経済活動が常識となっていて、国際感覚をもつことが仕事にも生きてくる世の中ではありますが、だからこそ一層、日本人ならではの感覚も大切にするべきだという風潮もあり、装いで四季を感じさせることはビジネスでも有効なのは間違いありません。小さな変化を感じ取り、自分以外の何かを愛でる気持ちが衣替えにはあるように感じます。
仕事ではくべきチノパンとは?
一方、カジュアルなアイテムを仕事に使える機会が増えました。例えば、ベージュのコットンパンツ。チノパンとして幼少のころからなじみのあるアイテムです。こちらもウールパンツ同様に季節によって色や生地を変えることをおすすめします。
また、コットンはウールに比べてシワが取れにくいので、膝の裏や腰回りのシワに注意しましょう。午後から大事な打ち合わせなどがあるならば、コットンパンツを避けるのが賢明です。
コットンパンツは休日にもはけます。つまり、着回しが利く便利で費用対効果も高く、しかも快適かつ品も損なわない、本当に優れたアイテムです。が、だからといって着用しすぎるとコットンにアタリ(擦れたり、色落ち)が出てしまい、ビジネスの場にはそぐはないものとなってしまいます。一石二鳥はお得ですが、その分劣化も早いということをお忘れなく。
また、デザインはデニムのような5ポケット仕様、つまりL字型ポケットやパッチ型のバックポケットを避けるのが無難で、切り口仕立てのものを選んだ方がドレッシーでビジネス向き。なおかつ休日にもそれははけます。つまり、ドレスパンツと同じデザインのものがいいということです。
どんなシルエットがビジネス向きか?
次に、パンツで見るべきはシルエットにあります。ファッション雑誌などで、裾幅は00㎝が絶対、という記事をよく目にします。私自身もそういう記事を作ったことがあります。が、これは間違いです。人の体型は千差万別。同じ身長、体重でもバランスがことなれば同じパンツでも見た目もはき心地も違ってきます。
裾幅の明言はパンツのシルエットのトレンドを示すものであって、それが万人に似合うとは限らないのです。裾幅17㎝ならテーパードもしくはスキニー、裾幅20㎝であればストレート、それ以上ならワイド、というシルエットを示す。その程度の認識で、とにかくはいてみて、ご自身に合ったシルエットを探すのが正解です。
ただし、トレンドに流される男はなんとも軽薄。裾幅18~20㎝のストレートもしくは軽くテーパードしたシルエットのパンツが大人の男には適していると考えます。もちろん、裾幅はあくまで目安。裾上げしてどこでラインが切れるか、それによって腰回りと腿のバランスはどう見えるかを考慮する必要があります。つまりディテールを見ながらも全体のシルエットがもっとも大事ということです。
では、全体のシルエットをどうチェックすべきか。ディテールとのバランスを見ながら考えていきたいと思います。まずははいてみなければ始まりません。パンツをはき、裾を適正の長さまで店員さんに上げてもらいます。裾の長さにもトレンドがあります。くるぶしがすべて見えるほど短いのが流行りですが、当然やり過ぎはやらないのも同然。適性の長さは靴に触れるかふれないかの長さがいいでしょう。すねにたわみが軽くできる程度。
このたわみがなく、すっきりとシャープなラインを描くパンツは確かにスタイリッシュで脚長効果もあるのですが、品や格のようなものが減ってしまいます。たっぷりとした生地が放つドレープ(うね)は装いに陰影を生み、それが着る人の立体感や奥行きになるという考えもあります。その両方の利点を、靴に軽く触れる程度の裾丈は実現できると私は考えます。
次に腿から脛にかけての線、これはセンターに入った線、業界用語ではセンタークリースがそれぞれの脚のほぼ中央にあるかを確認しましょう。この線は脚をすらりと見せる効果があるのでできるだけ中央にあるのが好ましい。
線の終点、つまり裾では親指と人差し指の中間くらいにあることも大事。これが大きくずれているということは脚に問題があるか、パンツが正しく裁断されていないことを意味します。
さて、腰回りをチェック。最近は脚長効果のある股上が浅いパンツが多いのですが、これも浅すぎはよくありません。股上が浅いパンツは少々セクシー過ぎるのです。それを個性として発露したいのであれば否定しませんが、いい年をした男はそこで勝負はしません。大人の色気は、渋みや貫禄、妙齢が生み出すもの。ゆえに、過度に浅いものは避けるべき。数値で言うと、ファスナーの上部から股ぐり(縫い合わせ)までが20㎝くらいが適していると言えましょう。もちろんこれも体型によって変わってきます。
腰に合わせてはいてみて(張り出した左右の腰骨の下あたりにベルトラインが来る位置がベスト)、股間が過度に突起しないもの、と理解すれば探しやすいかと思います。過度に盛り上がるものは、股上が浅くセクシーに見せるために窮屈さを強いられます。また、そのようなパンツをはいている人は、セクシーに見られたい、と勘違いされてしまう恐れがあります。プリーツ(タック)はあってもなくてもいいのですが、ある場合は下腹から腿にかけてゆとりが多少できます。肉付きのいい方にはおすすめできますが、着用してこのプリーツが開いてしまうパンツはサイズがあっていないので、ご注意を。
裾はダブルかシングルか?
最後に、裾の処理について。つまり、折り返しのあるダブルにするか、折り返しのないシングルにするか。まず、シングルはフォーマル用の処理だとされています。だからビジネスの場でシングルにしていても何ら問題はありません。
が、グレイやネイビーのスーツもしくはジャケパンはフォーマルよりも少しくだけた装いになるので、ダブルの裾でもOK。スーツまたはジャケパンの場合はダブルの方がバランスがいいという意見もあります。個人的にはダブルがおすすめです。その理由は、ダブルにすることで裾が重くなり、パンツ全体を下に引っ張ります。つまり、汚いシワが入りにくく、シルエットがきれいに見える、と考えるからです。折り返した裾の内側にコインを忍ばせ、その効果をさらに助長する洒落者がイタリアにはいたりします。
軽装となる夏に向け、パンツの重要性がさらに高まってきます。細すぎたり、太すぎたり、と極端なシルエットのものは好奇の目は集めますが、信頼性や誠実さに乏しい印象を与えかねませんのでご注意を。あなたの体形に合ったものを見つけてください。
Photo: Ryouichi Onda
Styling:Takahiro Takashio
Text:Takashi Ogiyama
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