BUSINESS ― 男のおしゃれ不要論

荻山尚著「男のおしゃれ不要論」

第一回 ジャケット選びの真実 「趣味で楽しむファッションと、仕事のための装いはまったくの別ものだ!」

2020.6.11 2020.6.11
2020.6.11
働く男を応援する装うことの理論と応用を網羅! 働く男におしゃれは必要ない、と著者は考えます。しかし人は裸では生きていけません。だから、服を着るのです。もちろん、やりすぎてはいけません。つまり、他者におしゃれだと感じられてはいけないということです。趣味としてのファッションと、日常着る服は異なるのです。

黒がダメな理由とは?

上下衣が共地のスーツに代わって、ビジネスウエアの主役となっているジャケットとパンツのセパレート・スタイル。通称ジャケパン。

クールビズを旗頭に、より仕事に集中できるよう快適な装いが許されるようになった時流により、これまでスーツしか着てこなかった人が着用する、着用できる仕事環境になり、主流となったスタイルです。まずは仕事に活かせるジャケットの選び方を考えてみます。

色はネイビーとグレイ以外考えられません。ビジネス街や電車内でよく見かけるブラックはだめなのです。なぜ黒ではだめなのか。そもそも日本では、黒のジャケット(スーツ)は冠婚葬祭以外見かけないものでした。

が、2000年頃からリクルートスーツとして主流の色となり、それがそのまま就職しても着用されはじめたという経緯があるようです。2000年当時は、不況の影響で就職活動は困難を極め、できるだけ真面目に見えるであろう黒を学生たちは選んだのでしょう。

黒は確かに最もシックな色ですが、スーツには重すぎます。働く男にとって最も大事なのは成果ですが、その成果を上げるにはコミュニケーションは不可欠。それを円滑に進めるためには黒よりネイビーやグレイが優れています。真面目さの中にも親しみやすさがこの色にはあり、黒はどこまでも冷たい。

また黒のジャケット(スーツ)とは本来、ホワイトタイ(燕尾服)、ブラックタイ(タキシード)に用いられる色です。それらはドレスコードを示すものであり、それ以外では他者を不快にさせてしまいます。不快な気分だけですめばいいのですが、それがそのままあなたの、またはあなたが所属する企業なりの評価となってしまうのです。

ホワイトタイ、ブラックタイよりもカジュアルなドレスコードである平服は、ダークトーンのスーツが決まりです。ダークトーンとはネイビーとグレイ。黒でも間違いではないようですが、厳密にはネイビーとグレイを指します。

たとえば下のベルヴェストの一着は、完璧なネイビーを発色しています。一枚仕立てで、下に着たシャツが透けるほど薄い。ゆえに、白シャツをあえてグラデーションさせて、清涼感を醸し出すのが策といえるでしょう。

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裏地や副資材を一切使用せず、ガーゼのようなタッチがこれからの季節に最適な一着。明るめのネイビー地は、ウール100%。15万9000円/ベルヴェスト(八木通商)

季節によって濃淡を変える

さらなる選びのテクニックとして、季節によって色の濃度を変えることをおすすめします。

春夏は淡い色合い、つまりブルーやスカイブルー、ライトグレイを。秋冬は逆に深いネイビーやチャコールを。

この濃淡はそれぞれの季節の太陽光や気温に映えるよう考えられています。強い日差しや蒸し暑さに清涼感を与える淡い色、曇天や気温の低い中でどこか温かい気持ちにさせる頼りがいのある濃い色を選べば、それがそのまま着用者の印象へと導かれます。

これは和装の世界でも同じことが言えます。四季のある日本では誰もが親しんできた感覚といえるでしょう。

生地はウール100%がベストですが、最近では天然素材100%の見た目と肌触りをもったポリウレタンなどがウールに数%ブレンドされたものも多く、それらはストレッチが効いて着心地が楽な場合もあります。

化繊特有のチープさを感じさせないものならそれもOKでしょう。また、光沢感があまりないもののほうが落ち着いて見え、ビジネスには向いているでしょう。生地のベースとなる毛糸は細くなればなるほど高価な生地になる場合が多いです。

それはそのまま光沢感へとつながり、ステイタスの高いジャケット(スーツ)となります。

ビジネスに成功した経営者のスーツが輝いて見えるのは、そんな高価なジャケット(スーツ)を着ているからです。

が、光沢の強いスーツは糸が細いので切れやすい。通勤は運転手付きのハイヤーで、基本ワークはデスクで会議か捺印というステイタスの人にはいいのですが、現場であくせく働くビジネスマンには向きません。

実用と見映えを考慮すると、スーパー100'Sから120'Sという糸の細さがビジネスマンにはおすすめ。スーパーに続く数字は、撚った糸となる前のもの、つまり原毛または繊維の太さを表す数字。スーパーに続く数字が多くなるほど高級な生地になります。

そして、ビジネスマンにおすすめなのが下のネイビージャケットです。名作ジャケットを作り続けるブランドのこちらは、ベーシックな生地感とデザインをもつので長く着られる、働く男の強い味方となることは間違いありません。

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数々の名作ジャケットを生み出してきたブランドから、シンプルな2Bの前合わせに、両腰のパッチポケットを配したネイビージャケットを。長く愛用できる一着です。8万3000円/ボリオリ(三崎商事)

正しくボタンを留めていますか?

次にチェックすべきはボタンです。前合わせは3つ、または2つのシングルが定番で、それを選べば間違いない。

というか、それ以外を探す方が難しく、あったとしても遊び用のジャケットと捉えるべきです。3つボタンの場合は真ん中のボタン、2つボタンの場合は上のボタン、ここのみを留めるのが正しいジャケットの着方です。

日本人に限らず、まじめな人にとってボタンを外すという行為は、くだけた、くつろいだ印象を他者に与えると勘違いしているようです。テレビのキャスターでさえ2つボタンの両方を留めてニュースを読んでいたりします。ヨーロッパのハブ空港で巨躯に羽織った大きなジャケットの3つボタンすべてが留められているのを見かけたりもします。ヨーロッパで誕生したジャケットですが、彼らの着こなしがすべて正しいとは限らないのです。

ジャケットは、諸説ありますが今から200年ほど前に現在の形になったといわれます。その原型は、英国の貴族が領地であるカントリーサイドで過ごすための、乗馬服にあると言われます。

それまでフランスの貴族のようなヒラヒラとした襟飾りや着丈の長いコートに、ハーフパンツ(ブリーチズという)、ロングソックスという着こなし、マンガ『ヴェルばら』のような服装が主流でありました。

が、ルイ16世やマリー・アントワネットのギロチン処刑を見てもわかるとおり、市民革命によって貴族たちの豪華絢爛な時代は幕を下ろされました。そこでフランス貴族が目を付けたのが、英国の貴族たちの着こなしです。

英国貴族の質素で実用的な服装こそ、市民を納得させるのに適していたのです。そしてこの実用服、つまり乗馬服は当然馬にまたがりやすよう前合わせの裾がカーブして開いています。

さらに、そこにあるボタンを留めておけばちぎれてしまうので、外すのが道理。結果、現代のジャケットの一番下のボタンは外すのが正しい、となるのです。

3つボタンの上をはずすのは真ん中のみを留めているので、その上下を外して調和を取るためだといわれています。

しかし、かつては4つボタンが主流で、その場合には真ん中2つを留めるのが普通でした。その後、ボタン数は簡略化され3つに、さらに2つに、と減っていきました。また、3つボタンが登場した際には上2つを留めるのがよしとされていて、現在も上2つを留めることは間違いではありません。

ただし、それは当時のクラシカルなデザインや仕立てのものに限ります。例えば、ブルックスブラザーズが最初に作ったジャケット(スーツ)のようなもの。イタリア製の3つボタンの場合、一番上のボタンは最初から留めないよう、段返りというめくれた仕立てになっているので、この場合は当然真ん中のみを留めるのが正しいのです。

ジャケットには袖ボタンもあります。左右3または2つずつというのが基本です。が、現在は4つのものも多く見かけます。本来4つ(または5つ)ボタンは王侯貴族のものであったとされます。ボタンが多いほど上流階級用のジャケットとなりますが、それをデザインとして捉える傾向もあり、モード&ラグジュアリーブランドのスーツでそれらを見ることができます。ビジネスの場に、やり過ぎは必要ありません。もちろん、1つというのもおしゃれ過ぎます。

ちょっとした変化を出すのにメタルボタンを選ぶのもいいでしょう。ボタンの色は金か銀の二択のみ。時計のケースを同じ色で合わせると調和が取れるのでぜひお試しください。

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メタルボタンが印象的なこちらは、ヴァージンウール100%のスーパー110'S地を使用。表地を内側に裁断する台場仕立てゆえ、軽いのに構築的。8万9000円/タリアトーレ(トレメッツォ)

ポケットは不要か?

ポケットは左の胸と両腰、計3つが基本。袋状のパッチポケットはややくつろいだ印象を与えます。

昨今のクールまたはウォーム・ビズの浸透により、パッチポケットを配したジャケットはビジネスでも通用するディテールだと言えます。

が、ハレの場、例えばクライアントとの面会、上司へのプレゼンテーションなどでは、よりドレッシーなポケットが好ましい。胸はウエルト・ポケットという細い帯状の切りポケットを、左右の腰は切りポケットにフラップを配したものがいいでしょう。

このフラップは元々、外出時にホコリや雨から内包物を守るためのものなので、室内では切りポケットの中に入れておくのが正しい。また、3つのポケット位置でもご自身の体型は異なった印象を与えます。胸ポケットは垂直よりも外側が上がっているものの方が胸に立体感を生み、立派に見える。腰ポケットは上部に配した方が足が長く見えます。が、これもやり過ぎはいけない。あくまでご自身の体型に合ったものを探すことの方が優先されます。

では、いいジャケットかどうかを判断するのにはどこを見ればいいのか。それはとくにかく着てみることです。肩、着丈、身幅、背中、袖、それぞれのフィットを確認して、ご自身に合ったジャケットを見つける作業が必須です。

ジャケットを着て、前合わせのボタンを留める。留めたボタンの位置はおへその数㎝上、ウエストが一番くびれているところにあるのがベスト。ボタンを留めた位置を中心として、体の動きにジャケットがバランスよく付いてくる。花魁のように後襟が抜けていないよう、しっかり首と肩に乗るように着ることも大事です。

留めたボタンの下にどれくらいゆとりがあるかを確認してみましょう。握りこぶしひとつが収まるのがベター。きつすぎてもゆるすぎてもいけません。

次に肩のフィット。袖との縫い境が腕の付け根に合っているかどうか。最近のジャケットは肩パッドがほとんど入っていないものが主流です。つまり体型に正直だからしっかりとフィットしたものを選びたい。鏡に映るご自身を見ていただきたい。胸の開きは湾曲することなく胸に沿っているでしょうか。両肩下にたすきがけしたかのようなシワが入っていたら、それはご自身の体にフィットしたジャケットとはいえません。

さらに、脇の下に手を入れ、大きく生地がダブついているものも避けたいところ。タイト過ぎるのもよくないのですが、腕をぐるぐる回してみてフィット感と見た目のバランスのいいものを選びたい。

そして、まずは下のような最高峰を試着してみることをおすすめします。トップ・オブ・トップを知ることで、ご自身のジャケット選びのレベルアップがはかれるでしょう。たとえ今すぐ買えなくても、頂点を知っておくことは何事でも必要といえるのではないでしょうか。

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北イタリアを代表するテーラー、カナーリのジャケットは着る者に威厳を与える。上品な光沢を放つウール100%地で、トラベル仕様ゆえ、とにかく軽い。17万円/カナーリ(コロネット)

半ケツはチャラい!

最後に後ろ姿をチェック。裾の下から尻が大きく出ているものを選んではいけません。過度に短丈や細身のものは流行に沿っているジャケットで、費用対効果が悪いばかりか、トレンドに流される軽薄な男と見られかねません。尻を包み込む着丈を選びたい。

ジャケットのサイズM(イタリアサイズ46または48)で75㎝を基準にご自身の体型に合ったサイズを探し出しましょう。数値は大事ですが体型は人それぞれゆえ、あくまで目安とするのが懸命です。

また、袖の長さも既製品では修正ができないものも多いのですが、手を下ろして手首の骨が突起している部分に少しだけかかる長さが好ましい。ジャケット単体で見るともう少し長いものがいいと思いがちですが、ジャケットの袖からはシャツの袖をのぞかせるのが正しく、美しい着こなし方ゆえ、ジャケットの袖はこの長さがいいのです。

ここまでジャケットの生地、そしてディテールを見てきましたが、次に見えない部分である作りのことを考えたい。ジャケットは布を縫い合わせるだけでは完成しません。表と裏の生地の間には副資材と呼ばれるパッドのようなものが入っていて、それによりジャケットが体に沿うよう、立体感を生んでいます。が、10年前に比べてもその量は減ってきています。その理由は軽量化とコストダウン、そして技術の進歩が挙げられます。

いずれにせよ、着てみることが肝心です。試着して、ご自身の体型をよりよく見せる一着と出会えるよう。先に挙げた定番ブランドのものをはじめ、日本のセレクトショップのオリジナルにもチャレンジしてみましょう。日本のものは当然ながら日本人の体型や、日本の気候を熟考したうえで作り出されています。

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〈CLOTH Ermenegild Zegna〉とトゥモローランドの共同開発による“TRAVELLER+SPHERE PROJECT”により誕生した一着。ウール・シルク地は 圧倒的な軽さと、優れた撥水性・防汚性・温度調節機能を兼備。7万4000円/トゥモローランド ピルグリム(トゥモローランド)

かつてのジャケットは筋骨隆々、男の体躯を立派に見せることを優先させていました。しかし、ジェンダーレスやスポーティで軽やかに、優しげに見せることの方が現代では理想の男性像となっているように思います。

また、副資材により重量が増えることで、ジャケットを着ること自体が億劫に感じ、結果ジャケット離れを助長することも避けたい、という声に応える形で、現在のジャケットは副資材を多く使用しない、アンコン(unconstructed)ジャケットが主流です。

肩に触れて見ると一目瞭然。かつてのジャケットほどパッドが入っていないことがわかるはずです。とくに裄綿(ゆきわた)という肩先から腕の付け根に配したパッドはほとんど見受けられません。しかし、これら副資材を使わないとジャケットはシャツのように平面的で、ペナペナの印象に終始してしまいます。

が、裁断と製品化してからのアイロンがけによって、少ない副資材だけで立体感を生み出すことに成功しています。とくにイタリア南部で作られたジャケットにその特徴が見られ、クオリティとともに称賛されていますが、日本ブランドのものもそれに倣い、低価格ながら品質のよいものも出回っています。

軽いのに立体的なジャケットは、着心地と見た目に優れ、仕事への集中度を高めてくれるでしょう。

ジャケットは服装全体の半分以上を占めます。今回ご紹介した基本をベースに、ご自身に合った一着を見つけてください。

Photo: Ryouichi Onda
Styling:Takahiro Takashio
Text:Takashi Ogiyama

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Author profile

荻山 尚
荻山 尚
Ogiyama Takashi

青山学院大学卒業後、商社に勤める。その後、雑誌編集の道を目指し、20代はCar Ex、カーマガジンなど自動車雑誌に在籍。30代はセンス編集長、レオン副編集長をはじめ数々の男性ファッション誌のエディターを歴任。ファッション、クルマ、時計、食、旅、そして家族が大好きな1972年東京生まれ。

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