日本で自動運転のクルマは走ってるの?
新型コロナウイルスの陰に隠れてあまりトピックになっていないようだが、4月1日、日本のクルマのルールが新しい一歩を踏み出した。自動運転レベル3の車両が、公道を合法的に走れるようになったのだ。昨年5月に成立した、道路交通法と道路運送車両法の改正法が施行されたからである。
昨今の自動運転開発競争をリードしているのは、2009年から実験を始めたGoogleだと言われている。現在、同社の自動運転部門はWaymoとして独立していて、2018年からライドシェアでのサービスを導入。昨年は運転手がいない無人運転も実用化している。
欧州ではアウディが2017年、高速道路で60km/h以下という限定的なシチュエーションではあるが、公道上で自動運転レベル3が可能な世界初の市販車A8を発表している。ただしこちらはドイツにおいても法整備が整っていなかったことから、今もレベル3を公道上で試すのは第一回で紹介したセグウェイの状況に似ていて、不可能だ。
そんな中、日本が公道での自動運転レベル3をOKした。自家用の乗用車による自動運転については欧米に先駆けての合法化である。
自動運転レベル3とは?
そもそもレベル3って何? という人もいると思うので簡単に説明しておこう。現在の自動運転のレベル分けは、米国のモビリティ専門家による非営利団体である自動車技術協会(SAE)が制定したもので、レベル0〜5の6段階になっている。
詳細については上の「官民ITS構想・ロードマップ」が作成した表を見ていただきたいが、現在実用化されている、衝突被害軽減ブレーキや前車追従クルーズコントロールなどを備えた車両は、人間のドライバーが運転主体なのでレベル2。レベル3は自動運転システムが運転すると位置付けていることが最大の違いだ。
ただしシステムが運転困難になった場合には、ドライバーが即座に運転を引き受けるければいけない。つまり飲酒や居眠りはNGで、自動走行中に助手席や後席に移ることもダメ。OKなのはスマートフォンを見るぐらいになりそうだ。
しかも今回解禁されたのは乗用車による、高速道路での同一車線内の低速走行に限定されている。つまりトラックやバスは含まれないし、100km/hで流れているときには使えず、渋滞時に限定された機能で、アウディA8の発表内容に近い。
ちなみにその上のレベル4は常にシステムが運転主体になるので無人運転も可能になり、レベル5ではレベル4までにはあった限定領域という条件がなくなるので、いつでもどこでも無人運転可能という状態になる。
実は自動運転先進国だった日本
日本政府は以前から、2020年に乗用車については高速道路でのレベル3、移動サービスについては限定地域のレベル4実現というシナリオを発表していたので、前者については今回の法改正で有言実行が果たせたことになる。
車両についてもホンダがレジェンドに搭載予定というニュースを何度も目にしているし、以前から自動運転の研究開発に積極的だったテスラ、そして導入待ちの状況になっているアウディなどが参入してくるだろう。
僕はテストコースの中であれば、ホンダをはじめ自動車メーカーが開発した自動運転車に乗った経験が何度もあり、いずれも問題なく走ることを確認している。
もちろん公道はさまざまなシチュエーションがあって、現時点ですべての状況に対処する技術レベルではないようだが、歩行者や自転車がいない高速道路の渋滞時に限定したのは、はじめの一歩として納得できるものだ。
もうひとつの移動サービスというのは、Waymoがすでに実用化しているようなタイプで、日本でもバスやタクシーを想定した実証実験を各地で行っている。こちらも何台かに乗って問題ないことを確認しているので、今年中に実用化に向けてのアクションが起きるかもしれない。
つまり、自動運転については、日本のクルマ社会はヘンだとは思わない。おかしいと感じるのは、これまでこの分野は欧米が先行し、日本は遅れているという誤報を流し続けてきた一部のメディアだ。
自動運転の導入は、新型コロナウイルスの対策と同じで、国ごとに進め方が違う。たしかに欧米のほうがアピールは上手だが、日本も地道に取り組んできた。ところが一部のメディアは目立つ情報だけをすくい取って報道するから、日本は遅れているという内容になりがちだった。
今回の件についても、「日本は欧米より遅れていると見られていたが、ふたを開けてみると世界を引っ張る形になっていた」と、自分たちも驚いている様子で綴っている記事があった。
まだこれは正直に釈明しているからいいけれど、自己否定になってしまうので黙っておこうというメディアもありそうだ。大きなニュースのわりにあまり取り上げられないのは、そんな事情もあるのではないかと思っている。
Text & Photos:Masayuki Moriguchi
森口将之プロフィール