開場になると太鼓が「ドントコイ・ドントコイ」
今回は上野の鈴本演芸場を例に、寄席という場所がどんなところか詳しく説明しましょう!
鈴本はビルになっていますが、チケット売り場と入り口は1階にあります。
まずはチケットを買います。そのすぐ後ろに櫓があり、開場時間になると前座さんが大太鼓を長バチで打ち始めます。昼の部の開場時間は12時、夜の部は17時。これを一番太鼓といいます。お客さんが入ってくれるように願いを込めて打ち込むんです。
開演5分前には高座脇の鳴り物の席で、二番太鼓を打ち鳴らします。二番太鼓には、締太鼓、大太鼓に能管という笛が入り、お客様は福の神なので「お多福来い来い」と打つんですが、これがけっこうむずかしい(笑)。太鼓は前座の必須科目。太鼓がうまいと重宝されて、先輩の落語会などに呼ばれることもあります。
寄席が終わってお客様がお帰りになるころ、またチケット売り場後ろの櫓で、前座が追い出し太鼓を鳴らします。ハネ太鼓とか打ち出しと呼ばれることもあります。お客様はいろいろな場所へてんでんばらばらにお帰りになるので、「デテケ、デテケ」「テンテンバラバラ、テンテンバラバラ」と打ちます。最後に太鼓のヘリをバチでギーッとこすって木戸の鍵を閉める音を出すのですが、昼の部の終わりのときはまだ夜の部があるので、ギーッとはやりません。
中に入ったらエスカレーターで

てけつ(切符売り場)でチケットを買ったら、もぎり(受付)で半券を切ってもらい、プログラムを受け取ります。そのまま奥へ行くとエスカレーターで3階の客席に連れていってもらえます。1階から3階までの長いエスカレーターで俗世間を忘れるということでしょうか(笑)。

3階にはスタッフがいるので、席がわからなければ案内してもらえます。
鈴本ではお弁当を食べたりビールを飲んだりしながら寄席を楽しむことができます。なんと出前をとる強者もいるようです(笑)。


売店にはいなり寿司やお菓子などもあるので、ぜひのんびりくつろぎながら笑ってほしいなと思います。前の背もたれのところに小さなテーブルもついているんですよ。そこにお弁当や飲み物を載せられるので便利です。テーブルをしまうときに戸惑っている方もときどきお見受けしますが(笑)。でもそれでいいんです!

寄席は10日ごとに番組が変わる
寄席は「上席(かみせき)」「中席(なかせき)」「下席(しもせき)」に分かれています。毎月1日から10日までが上席、11日から20日までが中席、21日から30日までが下席です。31日がある月は、それぞれの寄席が趣向を凝らして特別番組を組みます。これをわれわれは「余一会」と呼んでいます。余った1日ですから。
番組は各寄席や落語協会のホームページなどで確認することができます。ただ、寄席は代演なども多いので、当日行ってみたら発表されている演者と違うということもあるかもしれません。当日の顔付けもホームページで確認できますが、知らないままに行ってしまって代演があっても、それはそれでおもしろいじゃないかと思ってくださるお客様が多いのも寄席の特徴。すべてがゆるやかというかのんびりというか……。
寄席囃子も楽しんでみてください

寄席は常に生演奏がついています。客席から見て高座左奥の「下座」に演奏者が控えていて、御簾越しに客席の様子を見ながら演奏しています。演奏するのは噺家の「出囃子」や、ときには落語の背景として(これをはめものと言う)、あるいは色物さん、たとえば手品や曲芸、紙切りなどを演じている間(地囃子)など。
楽器は三味線、太鼓、笛、当たり鉦くらいでしょうか。太鼓や鉦(かね)は前座が担当しますが、三味線はプロの「おっしょさん(師匠)」が受け持ちます。下座を担当する人たちを一般的には「お囃子さん」と呼ぶこともあるようです。
噺家の出囃子は、ひとりひとり決まっています。だから通のお客さまになると、出囃子の最初を聴いただけで、「あれ、プログラムとは違う噺家が出てくるな」とわかったりする。ちなみにボクの出囃子は「おさるのかごや」です。ほんとですよ。
だいたい二ツ目になるとき出囃子を決めるんですが、うちの師匠(春風亭小朝)が、「リズムがいいし、高座に上がりやすいから、おさるのかごやがいいんじゃない?」と勧めてくれたんです。前に使っていた人が真打ちになって出囃子を変えたから、今はあいているって。同じ出囃子は使えませんからね。それでその方に許可を得て「おさるのかごや」がボクの出囃子になりました。
楽屋

鈴本の楽屋は二間続きの部屋を開け放して使っています。都内の寄席4件の中では広いほうじゃないでしょうか。他にはもっと狭いところがたくさんあります。出番が終わった人から帰っていきますから、それほど広い必要もないんですが。偉い師匠方は、だいたい座る位置が決まっていますね。ボクなどは、あの師匠はあのあたりに座るだろうなと予測しながら隅のほうにこそこそと……(笑)。
落語家は階級制!?
楽屋で働くのは前座です。東京の落語界には階級がありまして、見習い―前座―二ツ目―真打ちと上がっていきます。
落語協会でいえば、師匠がこの者を弟子にしようと決め、協会に履歴書を出したところで「見習い」となります。見習い期間は、上に前座がたくさんいるかどうかなどの状況にもよりますが、今は人が多いので1年近く見習いということもあるようです。見習いだけで20人近くいるんじゃないでしょうか。
見習い期間は、師匠の鞄持ちをしたり、着物の畳み方やしきたりを学んだりしますね。しばらくすると前座の何人かが二ツ目に上がりますから、見習いが前座として働けるようになります。こういったことは協会の理事会で決まります。前座になると寄席の楽屋で働くようになるんです。
楽屋で働く前座は2,3人。多いときは4人なんてこともあります。前座の中でもいちばん二ツ目に近い人が「立前座(たてぜんざ)」。3人いる場合、ボクらは上から「立、太鼓、高座」などと呼びます。

立前座は、楽屋に来た師匠方が必ず目を通すネタ帳を書くのが大事な仕事のひとつ。ネタ帳には、誰がどういうネタをやったかが全部書いてある。われわれは自分の出番の前にそれを見て、そこからその日にやるネタを考えるわけです。普通の寄席では、まず事前にネタ出しはしませんから。
もうひとつ大事な仕事は時間配分。タイムキーパーですね。あとの人が少し遅れているから、ここで時間を延ばしてほしいとか、逆に押しているから少し縮めてほしいとか、寄席全体がきちんと時間内におさまるかどうかは立前座の腕にかかっているんです。
二番目の「太鼓」というのは、先ほど言った一番太鼓や追い出し太鼓を打つのが重要な仕事となる前座です。
いちばん下の前座が、高座で座布団を返す「高座返し」をします。 それら自分の役目をきちんとやった上に、楽屋全体のこと、師匠方のお世話をするのが前座の仕事なんです。
たとえば師匠方が楽屋に入ってくると、前座が飲み物を運んできます。この師匠は熱いお茶が好きとか、この師匠は出る前は水だけど、高座から下りてきたらお茶だとか、いろいろ好みがありますから、前座としては師匠の好みをひと通り覚えるところから楽屋働きが始まるといっても過言ではありません。

師匠方の着物を畳んだりするのも前座の仕事。着物の畳み方は何通りかありますが、それも師匠によって好みがある。いつも二つ折りで畳んでいる師匠の着物を三つ折りにしたら折り皺が変わってしまうでしょ。
さらにその着物や小物を風呂敷に包むんですが、その包み方も人それぞれ。普通はいちばん下に帯を敷いて羽織、着物の順に重ねていくんですが、帯は上という人もいますしね。実はボクも帯を上にする。だからボクは着物は畳んでもらいますが、風呂敷に包むのは自分でやります。そうやって自分でやる噺家も他に何人かいるので、そういうことも覚えておかないといけませんよね。

着物の着方も人によって習慣が違いますし。ボクは寄席に出ているときは何着か着物を楽屋に置きっ放しにするんですが、そういう荷物の管理も前座の仕事ですね。もちろん、各師匠の出囃子も覚えなければなりません。
こう聞くと、覚えることばかりで大変だと思うでしょうけど、楽屋にいればなんとなくわかってくるものなんですよ。最初は師匠方や先輩たちが教えてくれますしね。ただ、とにかく気働きは欠かせない。ぼーっと生きてはいられません(笑)。

先ほど「ネタ帳」を書くのは立前座の仕事と言いましたが、一方で寄席に出る噺家は楽屋に来るとまず、そのネタ帳を見ます。同じ噺はしてはいけない、似通った噺も避けなければならないという不文律があるんです。
となると夜のトリをとる師匠は大変ですよ。昼と夜、どちらにも出てない噺をやらなければいけないんですから。今日はあの噺をやろうかなと考えながら家を出てきて楽屋に着いたら、すでに誰かがその噺をやっていた、なんてことはよくある。
がくっとしますが、その日は別の噺をやらないといけない。何をやろうか、高座に上がってもなかなか決まらないこともありますね。でもなんとかかんとか別の噺をしますけどね。融通を利かせることも必要な世界なんです。
──つづく──
photos:Shimpei SUZUKI
text:Sanae KAMEYAMA

五明樓 玉の輔(ごめいろう たまのすけ)
1985年4月、春風亭小朝に入門。同年9月、前座となる。前座名は「あさ市」。1989年5月、あさ市のまま二ツ目に昇進。1998年9月、真打昇進。五明樓玉の輔となる。2010年、落語協会理事に就任。サッカー好きで、サッカーイベントや番組司会等でジーコに浴衣をプレゼントしたこともあるが、現在入れ込んでいるのはゴルフ。シミュレーションゴルフには三日にあげず通い、日々スコアアップをしているとかいないとか。業界でも有名な手ぬぐいマニアで、デザインも多数手がけている。1966年横浜市生まれ。五明樓玉の輔の『噺家の手ぬぐい』https://tamanosuke.net/
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