――でも、売れ筋の本を置かないと売り上げが伸び悩んでしまうのでは?
内沼:その代わり、うちでは複数の収入源を持つことにしています。本棚や机、椅子、照明もヴィンテージ家具で、使用しながら販売もしています。実際に本を入れているので、自宅に置いた時にイメージがしやすいでしょう。家具は月に1つは売れてくれますね。
内沼:収入源はさらにあって、
これは共同経営者の嶋浩一郎(博報堂ケトル代表取締役社長)が、
——本が売れないと言われて久しいですが、「本屋だから本を売ってお金を稼ぐ」という考えを華麗に捨て去ったのですね。
内沼:捨ててはいません(笑)。あくまで本を売りたい。
僕たちにとっては「
——ブックコーディネーターという、耳慣れない肩書きについて教えてください。
内沼:この店を開くまでは、
——アマゾンでどんな本でも簡単に買える時代です。ネットの普及で「わざわざ本屋に行かなくても」という声も聞かれます。リアル書店という、一昔前では考えもつかないような言葉が市民権を得ていますが、そのあたりはどうお考えでしょうか。
内沼:使い分けだと思っています。「この本を買う」、と欲しいものが決まっていたらネットの書店ほど便利なものはないでしょう。実際、僕もSNSを見て、誰かのオススメの本で、『面白そうだな』と思えば、その場でネットの書店から購入します。また、電子書籍になっていれば、すぐに読めるので、その利便性はすごいと思う。検索すれば手に入るネット書店は便利で、これ、と決まっていれば、大概の消費者はわざわざ書店に行かないでネットの書店で済ますでしょう。この流れに逆らおうとは考えていません。
内沼:リアル書店の役割は、「欲しいものは決まっていないけど、
ネット書店では、これまで購入した本の傾向から、「
けれども、本屋をくまなく歩けば、
表紙が気になって、「
——本屋はブラブラしているだけ楽しいですよね。新宿の紀伊国屋のようにビルまるごと書店であれば、1日中楽しめますが、小規模書店の魅力とはなんでしょう。
内沼:店は小さいけれど、広い世界を凝縮させている、との自負はありますね。
——次に、実用的なお話を聞かせてください。40代のビジネスマンが本屋をうまく活用するには、どうしたらよいでしょう。
内沼:ビジネスの最前線で働く人であれば、
ビジネス書の棚に直行して売れ筋の本を買い漁って帰るのではなく
そういう本と出会うためには、時間の制約はあるでしょうけど、
——本と一口に言っても、その中身は千差万別です。著名人のブログをまとめた本がバカ売れしたり。
内沼:そういう軽い本も否定はしませんが、一方で、
また世界の僻地に赴き、
これらの良書を手にとらないのはもったいない。
——ビジネスマンであればこそ、他人と同じ情報を得ても競争力はつきませんね。
内沼:いかに人と違うものを自分の血肉にし得るか。
——最後に、内沼さんにとって読書が持つことの意味を教えてください。
内沼:世界のあらゆることについて、
答えを導き出すのはAIのほうが得意ですが、
「偶然の出会い」が演出された書店という空間。そこに足を運ばないのは、自分の世界を狭めていることになりはしないだろうか。「書を捨てよ、書店へ行こう」。新しい問いが、きっとあなたの中で目覚め始める。
Photo:Yuji HIrose
Text:Daisuke Iwasaki
Edit:栗P
内沼晋太郎(うちぬま・しんたろう)
1980年生まれ。一橋大学商学部商学科卒。卒業後、外資系見本市主催会社に入社するも、2ヶ月で退職。東京・千駄木の「往来堂書店」でアルバイトする傍ら、ブックコーディネーターとしてライブラリーのプロデュース、本にまつわるイベントやコンサルティングを手掛ける。2012年、東京・下北沢に「本屋B&B」を博報堂ケトルと協業でオープン。著書に『本の逆襲』、共著に『本の未来を探す旅 ソウル』(共に朝日出版社)などがある。