潰れるのがコワくて あまり履かない、儚いシューズ
さて、第14回めはエルメスのスニーカー「TURBO(ターボ)」です。これも間違いなく、藤原ヒロシさんの影響。ご紹介されたときは、同世代の服好きたちがザワつき、エルメスに行っては、その価格にノックアウトされ、諦める者、無理して購入する者、サイズでの争奪戦に負け苦虫を噛み潰す者などに分かれたのを覚えています。もちろん自分もOne of Them。ただ、おいそれとは買うことができず、コツコツ軍資金を貯める日々が続きました。少しが時間が経ったことが功を奏し、カラーや革のバリエーションも増え、ライバルも減ってきたので、お財布との綿密な相談を終え、左のタバコスエードを無事購入することに。あっ…、もちろん清水ダーイブ!
じつは当時、スムースレザーを買うか、スエードを買うかで紆余曲折がありました。とにかく高額なので、長く履くことを考えたらスムースレザーが得策ですが、見た目はスエードの方が圧倒的にイケてる。とは言え、スエードは痛みが早く、喜び勇んで履き過ぎると、すぐに潰れてしまう…。悩みに悩んでスエードを選んでみたものの、やっぱり もったいなくて履く回数を抑えてしまい、20年近く経った今も こんなにイイ状態。あんまり履かない、儚いスニーカーになってしまいました…。
なんて、しょーもない話はさておき、この「ターボ」は本当に使い勝手が良いんです。モカ縫いのスリッポンなので、カジュアルな着こなしに抜群にハマるのは当然なのですが、そこはエルメス! 上質なレザーなので、ジャケット×パンツでもまったく問題ナシ。よく穿いているグレーパンツとの相性なんて完璧なんです。じつはショーツにも合うんですが、スエードの靴って秋に履きたくなるので、状態をキープするために夏はお休みいただいております。
なぜ、こんなに大切に履くかには理由がありまして、長らくエルメスの定番としてリリースされてきた「ターボ」なんですが、今やディスコン(廃盤)…。もう欲しくても、新しいものを買うことができないんです。買えなくなる前に探したんですが、マイサイズで買えたのは、右の黒スエードのみ。それでも後で後悔するよりは…と購入し、ストックしておきました。
本当にエルメスの「ターボ」は名作で、言葉通り一生履きたい靴のひとつ。あと30年生きられるとして、1足にかかる負担は単純計算で15年。1年に10回履くとして、150回。1回8時間履くとして、約1,200時間。直しながら履いたとしても、耐えられるのかしら…。こんなモヤモヤを繰り返しながら履くのは正直シンドいので、ぜひ復活させていただけませんかね?
Photo:Ko Maizawa
Text:Ryutaro Yanaka

『FORZA STYLE』シニアエディター
谷中龍太郎
さまざまな雑誌での編集、webマガジン『HOUYHNHNM』編集長を経て、『FORZA STYLE』にシニアエディターとして参画。現在までにファッションを中心に雑誌、広告、カタログなどを数多く手掛け、2012年にはニューバランス初となるブランドブックも編纂。1976年生まれ。