白黒つけない性格がアダとなり、白黒両方買うハメに…
さて、第10回めはエルメスの時計「ケープコッド(Cape Cod)」です。このケープコッドは、エルメスの専属デザイナーであるアンリ・ドリニーが、ブランドを代表的するブレスレット「シェーヌ・ダンクル」からインスピレーションを得て、“長方形の中に正方形をデザインする”という発想のもとに誕生させた腕時計。1998年に、ウィメンズのプレタポルテ デザイナーを務めていたマルタン・マルジェラが二重巻きのストラップ "ドゥブル トゥール(Double tour)"にアレンジさせたことで、ファッション業界をザワザワさせました。
そのザワザワした中には もちろん自分も含まれ、見事に欲しい欲しい病を発病。そこまで高額ではありませんでしたが、おいそれとは買えず、悶々とした日々を過ごしました。しかし、欲しい欲しい病を完治させるのは購入しかありません。頑張ったご褒美と かこつけて、恒例の清水からダイブ! 黒の文字盤にヴォーバレニア(雄の仔牛の革)の二重巻きストラップが付いた「ケープコッド」を手に入れたのです。
そして、30歳を迎えた際に、"記念"という華々しい言い訳を添えて購入したパネライ「ルミノール マリーナ」との2本柱で、さまざまな苦難を乗り越え、なんとか40歳を迎えることに。
どうにも、男というのは10年を境に大物を買いたくなる生き物らしく…、40歳になる2016年を迎えようとしていた頃には「どんな時計買おう?」という、愉しい逡巡を繰り返すことになるわけです。候補に挙がるのは、パテック フィリップ「カラトラバ」、オーデマ ピゲ「ロイヤルオーク」、カルティエ「タンク ルイ カルティエ」…。しかし、時計の価格は跳ね上がる一方。以前の価格を知ってる者としては尻込んでしまい、全然意欲が湧かず…。40歳は華麗にスルーして、50歳でパテック フィリップ「ノーチラス」をイっちゃうか?なんて、方向転換をしかけていました。
しかし、そんなある日、銀座メゾンエルメスにて運命的な出逢いを果たしてしまったのが、白の文字盤にアリゲーターの二重巻きストラップが付いた「ケープコッド」。誕生25周年を迎えて発表された限定の新作だったそうですが、エルメスのアリゲーターで二重巻きってヤバい! 時計としての価値はいずれでも、革の価値が…、ってことで即購入。白黒つけられぬ優柔不断な性格が災いし、見事白黒2色が揃うこととなりました(笑)。
ちなみに、白のドゥブルトゥールを購入した際に、黒い方のストラップを黒のオーストリッチ、シングルに変更。黒レザーでも輝きが少なく、スーツの際にもハマる、シックな一本にアレンジさせました。
そうそう、エルメスの「ケープコッド」って、時計としてというよりブレスレット的な側面が強く、アクセサリー的に使えるのが魅力なんです。ネックレスをまったくしない自分にとって、唯一飾れるのが腕周り。地味な自分をさり気なく飾ってくれるブレスレットやリングの類いはとても重宝するので、気に入ったアイテムに出逢えれば、それなりに投資します。
ただ、アクセサリー枠ならクォーツでも十分なのに、無駄なこだわりが邪魔して、どちらもオートマティック(自動巻き)を選んでしまい、費用がかさんでいるのはアホなオトコの性…。これじゃ、いつまで経っても散財は止まりませんよね。
Photo:Ko Maizawa
Text:Ryutaro Yanaka
『FORZA STYLE』シニアエディター
谷中龍太郎
さまざまな雑誌での編集、webマガジン『HOUYHNHNM』編集長を経て、『FORZA STYLE』にシニアエディターとして参画。現在までにファッションを中心に雑誌、広告、カタログなどを数多く手掛け、2012年にはニューバランス初となるブランドブックも編纂。1976年生まれ。