先日の「四国犬が12人を襲った事件」にはビックリでしたが、渦中の飼い主が狂犬病の予防注射を打たせていなかった、というドン引きレベルの続報にも驚かされましたね。
狂犬病のワクチン注射は、やる、やらないではなく法律で定められた義務。違反すれば罰金もあり、犬を飼っているマトモな人の感覚なら「打っていない」とかちょっと有り得ない話なんです。が……
「ワクチン」と聞けば毎度ワラワラと集まってくる方々がおりまして、今回もさっそくSNSで狂犬病ワクチンに噛みつきフェイクを拡散し始めました。地獄です。
例えば【日本には狂犬病が存在しないのに、ワクチンを強制するのは国家の陰謀】というデマ。実際、発症未確認の状況が半世紀以上続いていますが、その理由は予防接種を義務化し、徹底を管理しているから。頑張って維持しているんですよ。
ウイルスはいつどこから入り込んでいるか分かりません。しかも監視すべきは犬だけじゃない、幅広い野生動物たちも対象です。厚労省が未だ海外からのウイルス流入に神経を尖らせ、時にタヌキやキツネといった国内の野生動物まで調査するのは、狂犬病がそれだけ恐ろしいリスクだからです。
また【狂犬病は人間に感染しない】なんて投稿も。凄いフェイクですね、感染しますよ。動物から人間に普通に感染します。しかも発症したらほぼ100%死にます。平成18年には、フィリピンに滞在していた日本人2名が帰国後に発症、亡くなりました。狂犬病を抑制できていないフィリピンで、感染した何某かの動物に噛まれたんでしょう。
ちなみに狂犬病の動物に噛まれても、発症前なら「暴露後ワクチン」と呼ばれるワクチンの接種で発症を抑えることが出来ます。よかった。
その他【狂犬病のワクチン接種は任意】なんて書いている方もいましたが、最初に書いた通りデマです。「狂犬病予防法」に基づく義務。接種していない犬は捕獲され、飼い主は20万円以下の罰金です。
自治体への飼い犬登録や、年1回の狂犬病予防接種は社会に対する責任であり、打つ打たないを個人で決めることは出来ません。深く考えずに投稿したデマによって、狂犬病のワクチン接種をやめちゃう人が現れたらどうするんですかね、責任取れないでしょうに。
認知バイアスに踊らされない方法とは
そう言えば【実は狂犬病と犬は無関係】とか【イベルメクチンで治る】など、ナナメウエ過ぎて笑いを取りに来ているとしか思えない噴飯フェイクもありました。スマホかPCか判りませんが、そのフェイクを投稿した機器を使えば、厚労省のページにアクセスできますよね。狂犬病の話、メチャクチャ詳しく、分かりやすく、具体的に書かれていますけど……見ないんでしょうか。見ないんでしょうね。
マトモな人は「ちょっと調べればわかるのに」と不思議に思われるかもしれませんが、今回挙げたようなフェイクを「本気で」信じている人たちって、たとえ根拠を示しても「その根拠自体がフェイクだ」とか「法律が間違っている」「国家による陰謀だ」みたいな反応を示すので、驚くほど対話が成り立ちません。
なぜなら彼らの多くは「認知バイアス」と呼ばれる、人間が持つ特性にどっぷり浸かっているから、です。
私たちは日頃、物事を合理的に判断している、と思い込んでいますが、実際は単に「信じたい方」を選んでいることが多いんですね、しかも無意識に。そして選んだ後にナゼそれを選んだのかの理由を探し始める、これが認知バイアスです。
この認知バイアスって「意外だ」「許せない」「だったら良いなあ」「誰も知らない」みたいな情報に対して特に発動しやすい=信じたくなっちゃうのですが、タチの悪いことに、これらは大抵のフェイク情報が持っている要素でもあります。
認知バイアスは人間なら誰もが持っている特性です。つまり私たちは誰もが騙される可能性を秘めているということ。この事実を受け入れるだけでも、少しはフェイクニュースに対抗できるかもしれません。
フェイクニュースに騙されにくいのは「自分は騙されるかも」と身構えている人ですからね。
Text:小木曽健(国際大学GLOCOM客員研究員)
※本記事のタイトルはFORZA STYLE編集部によるものです。