FOOD ― いま食べるべき“カレーライス”

前代未聞!? 週に2日だけ「流しのカレー屋」のキッチンで絶品カレーが味わえる!

2018.8.31 2018.8.31
2018.8.31

今回は新代田「kitchen and CURRY(キッチン アンド カリー)」

現地完全再現の本格インドカレーからご当地カレーまで、百花繚乱な日本のカレー事情。そんななかから、いまも進化を続ける日本独自のカレーを「カレーライス」と定義し、個性溢れる「今食べるべきひと皿」とその作り手を、気鋭のカレーライター 橋本修さんが追いかけていきます。

今回橋本さんが訪れたのは、「kitchen and CURRY」。京王井の頭線・新代田駅から徒歩4分ほど。まるで避暑地にでも迷い込んだかのような緑あふれる閑静な住宅地に、この話題の新店はあります。

便宜上「店」と表現しましたが、kitchen and CURRY本来の姿は、週に2日だけ「開放」される、個人のキッチン。毎週木曜日と日曜日に、流しのカレー屋・and CURRYとして活動してきた阿部由希奈さんによる、“オルタナティヴな創作カレー”を味わうことができます。

流行りの“間借り”ですらない、前代未聞の“流し”というスタイルで自身のカレーを追求してきた阿部さん。一体どんな経緯で、この独特なキャリアを築いてきたのでしょうか。

はじまりはカレー情報を集めたFacebookページ

緑豊かな住宅地にひっそり佇むkitchen and CURRY。入居する建物は、星野リゾートの設計でも知られる建築家、東利恵が手がけたものだけに、外観からして雰囲気抜群です。

すでに存在している店の空き時間を“間借り”して営業する“間借りカレー”。そのムーブメントは関西から全国的に浸透し、現在では低リスクで店舗を構える合理的な選択肢として定着しつつあります。しかし、今回ご紹介する「kitchen and CURRY」の阿部さんは、自分の店を持たず、さまざまなお店のキッチンを渡り歩くという、“流し”のカレー屋。それはまるで、漫画「ザ・シェフ」の主人公、味沢匠を彷彿とさせます。

そのスタイルの目新しさも手伝い、各方面で話題を呼んでいたこの流しのカレー屋・and CURRYが2018年7月、「店舗」に限りなく近い自身の「キッチン」を構えたということで、早速お話をうかがってきました。“流し”というと、バックパッカーや流浪人、孤高の一匹狼といったイメージを勝手に抱いていましたが、意外や意外、そんなおじさんの連想とはほぼ真逆ともいえる、女子向けのカレー情報ページからキャリアをスタートしたんだそう。

「会社員時代、すごく忙しく働いていたんですけど、もうちょっと生活をちゃんとしようと、一回仕事をやめたんです。でも、いざやめたら手持ち無沙汰になってしまって、なにかやらなきゃって友達と話をしていたんですが、気がついたらその週に4回もカレーを食べに出かけていて(笑)。でもよく考えたら、カレー屋さんなら普通の飲み会より安く済むし、お腹いっぱいになるし、なにより楽しい。そんな『カレーっていいよね』『カレー屋さんで女子会とかできるよね』っていう話から、Facebookページをはじめてみようということになったんです。そこでは、カレー屋さんの情報だけじゃなく、一緒にレシピも載せようというコンセプトもあって、『はじめてスパイスカレーを作ってみた』みたいなこともやっていました」

スパイスがあれば、どんな食材でもカレーになる

キッチンの主、阿部由希奈さんは木村多江似の正統派美女。供されるカレーにも通じる、優しく朗らかな人柄が魅力です。

阿部さんはカレーやスパイスを使った料理に限らず、全方位で食べることが好きで、麻辣湯麺などにも造詣が深い、生粋の“食べ歩きスト”です。そんななかで、なぜカレーを選び、なぜ自分で調理するためのキッチンまで構えるようになったのか。阿部さんをここまでの“中毒者”にさせた、カレーの魅力とはなんだったのでしょうか。

「インド料理やカレーというよりは、スパイスにはまっている、というほうが近いかもしれないです。スパイスとの組み合わせで素材が活きたり、どんな素材でもカレーになる、というところですね。基本的には、いつも食材を送ってくれる農家さんから届いた食材を見てから料理を考えるんですが、それ以外にも自分が見たことのない、使ったことのない食材があったら使ってみたいと思うんです。それと同時に、“意外な組み合わせ”というのをひとつのテーマにおいているんですが、それはなぜかというと、食への興味というか、食べることの楽しさのひとつだと思っているから。『これとこれを組み合わせると、単体で食べるよりももっと美味しくなるんだよ』っていう発見を共有したい。だから、インド料理らしさ、みたいなこだわりは案外ないんです」

元々料理は苦手だった

「店ではなくキッチンなので、自分の家のように仕上げた」という内装。とても居心地の良い空間です。

先のFacebookページをスタートするまで、阿部さんは料理が苦手だったといいます。わずか4年ほど前のことですが、そんな阿部さんが現在のように、食材からイメージしてカレーを作っていく、手練手管の料理人になれたのも気になるところです。

「本当に料理ができなくて……自炊はしていたんですけど、謎の料理ばかり作っていました(笑)。卵とうどんが好きなので、それを使って、でも野菜も摂らなきゃいけないので、適当に野菜を入れたりとか、急に炒めてみたりとか(笑)。でも、その自由さはいまにつながっているかもしれない。堅苦しくなく『なんでもカレーにしちゃえ!』っていう自由なところがフィットしたんじゃないですかね。調理法なんかも含めて、自分のなかでの線引きは、美味しそうか、そうじゃないかくらいしかないんです」

「待ち」の姿勢は性に合わない

取材当日にいただいたのは、豚バラ軟骨のカレー(1,100円)。季節の野菜を用いた副菜との相性も当然抜群です。

たこ焼き屋の間借りから、下北沢「カレーの惑星」で週に3日カレーを作るようになり、その後いくつもの企画やコラボレーションを経て、kitchen and CURRYをかまえた現在でも、阿部さんはフリーランスとして人事やウェブディレクターの仕事にも携わっています。そして、kitchen and CURRYに関しても、あくまでお店ではなく「キッチン」。その仕事のスタンスには、どんな意図があるのでしょうか。

「カレーの惑星さんでカレーを出しているときに、『私、自分のお店を持つのは無理だな』と気づいてしまったんです。お店をやるのは好きだし、いまも楽しいんですけど、ちょうどお花見のシーズンの週末にすごく暇なときがあって。普段の自分なら、そのお花見会場にカレーを売り込みに行くんですけど、お店を開けているから離れるわけにいかない。それでうずうずしてしまって、そのときからわたしには“流し”のスタイルのほうが性に合ってるんだな、って思いました。

キッチンをかまえたのも、以前見学させていただいた(料理家の)青山有紀さんのキッチンがすごく素敵で、いつか自分もキッチンを持ちたいな、とは思っていたんですが、イベントが増えてきて試作や撮影をする環境が必要だったり、そこにちょうど今の物件をご紹介いただいたりと、いろんなタイミングが揃ったのがきっかけです。でも、ここはあくまでもキッチンだと思っていて、営業日ではなく"開放日"としているのもそうですけど、お店って言っちゃうと、ここはお店になっちゃうので、そこはあくまでも"開放日"にしています。開放日はいまのところ日曜日と木曜日の週2日で、あとは余裕があれば……という感じですが、イベントやコラボのお誘いも増えてきていて、本来の“流し”としては、できればそっちのほうを大事にしていきたいんですよね。なので、開放日や開放時間については、今後変わることもあると思います」

コラボも基本はふたつ返事

シンプルな店内でアクセントになっているカウンターのタイルとゴールドのカトラリーは、とくに阿部さんがこだわったポイントだそう。

「流しのカレー屋」は阿部さん発案による自身のコピーですが、いまでは間借りやイベント出店、同業他店とのコラボだけではなく、他ジャンルの飲食店とのコラボや、大手企業との共同レシピ開発やレシピ提供など、「カレー屋」という括りを飛び越え、最早「カレーの人」となっています。“流し”としての共同作業や協業にあたり、その相手選びの基準はどこにあるのでしょうか?

「『やりましょう』って、孫正義さんばりにすぐ言っちゃいます(笑)。あまり考えず、基本的にはふたつ返事。そこから詰めていって、設備の関係なんかで流れてしまうことなんかもありますけど、あまりにも脈絡がないようなものでもない限り、こちらからお断りすることはほとんどないですね。基本的にはなんでもおもしろそうって思っちゃうし、特定の場所だったりお題だったりがあることで、作る料理の幅を広げることができますし。例えば、チョコレート屋さんからお声がけいただいたら……とか考えると、ワクワクしますよね」

「流しのカレー屋」はどこへ流れ着くのか

うつわは、淡路島の窯元「あわびウェア」の作品を中心に、あえて統一せずさまざまなものを用意。これも「あくまでキッチンである」ということへのこだわりのひとつだそう。

食材やスパイス、仕事に対するスタンスまで、阿部さんが一貫しているのは、常に好奇心をもって挑み、それを楽しんでいるというところ。自身の居城とも言えるキッチンを構えるという、“流し”としてはひとつのターニングポイントを迎えた今、今後をどのように考えているのでしょうか。

「人事の仕事だと、目指す将来像から逆算してキャリア形成を考えていくんですけど、カレーだけは行き当たりばったりで、正直、目の前のことや食材しか考えていないんです。そんななかでも、ひとつずつやってみたいことはあって、例えば、南インドのミールスを日本の食材だけで作る、テーマとして日本風にアレンジするっていうのはやってみたいですね。それ以外にも、ゆくゆくは本も出してみたいし、日本全国まわってカレーを作ってみたいし、あとは若い農家さんが増えてきているので、そういうところと一緒になにかやりたいとも思っているんですが、とにかくテーマとして“食べることは楽しい”っていうことを伝えていきたいですね」


カウンター席の他に、テーブル席も用意されています。2018年9月は阿部さんがスリランカに渡るため変則営業になるそうなので、and CURRYの公式サイトやSNSでご確認を。

ここ10年くらいの間で、カレーに限らずさまざまな業態・スタイルの飲食店が増えてきていますが、そんななかでも阿部さんのスタンスはとてもパーソナルで独特。ビジネスの成功、みたいな大きなビジョンではなく、目の前や頭のなかの、自分が楽しそうと思うことをひとつずつ形にしていって、それを共有したいというのは、とても納得がいくお話でした。きっとこれからも、見たことのないようなおもしろい企画がどんどん飛び出してくることでしょう。そんなサプライズこそが、「流しのカレー屋」の醍醐味に他なりません。日々アップデートされる阿部さんのカレーの現在形を、まずはkitchen and CURRYで味わってみてはいかがでしょうか。

Photo:Takuya Murata
Text:Osamu Hashimoto
Edit:Yugo Shiokawa

今回訪れた店

kitchen and CURRY(キッチン アンド カリー)
住所:東京都世田谷区 羽根木1-21-24 亀甲新 1F
営業時間:
[木]11:30~15:00、18:00~21:00
[日]11:30~売り切れまで
定休日:月〜水曜日、金〜土曜日
http://www.andcurry.com/
https://www.facebook.com/andcurry/
https://www.instagram.com/yukinaa.m/

筆者プロフィール

橋本修(はしもと おさむ)
スパイスディーラーとしてストリートで名を馳せ、2017年からはカレーに特化した食ライターとしての活動を開始。先日、ライムスター宇多丸氏がパーソナリティを務めるTBSラジオの人気番組「アフター6ジャンクション」のカレー特集にも出演。電波の上でも日本のカレー事情をスムースにオペレートした。DJ、音楽ライターとしても活躍中。(イラスト:@animamundi_)
KEYWORDS
カレー

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