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FOOD 日本独自のカレーを探れ

【カレー×魯肉飯!?】その幸福な出会いを今すぐ味わって!

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現地完全再現の本格インドカレーからご当地カレーまで、百花繚乱な日本のカレー事情。そんななかから、いまも進化を続ける日本独自のカレーを「カレーライス」と定義し、個性溢れる「今食べるべきひと皿」とその作り手を、気鋭のカレーライター 橋本修さんが追いかけていきます。

今回は大久保「SPICY CURRY 魯珈(ろか)」

現地完全再現の本格インドカレーからご当地カレーまで、百花繚乱な日本のカレー事情。そんななかから、いまも進化を続ける日本独自のカレーを「カレーライス」と定義し、個性溢れる「今食べるべきひと皿」とその作り手を、気鋭のカレーライター 橋本修さんが追いかけていきます。

今回橋本さんが訪れたのは、大久保の「SPICY CURRY 魯珈(以下、魯珈)」。JR大久保駅南口から続く雑多な飲み屋街を進むこと約2分。雑居ビルの一階奥ながら、営業日であれば必ず発生しているであろう行列を目印にすれば、まず迷うことはないでしょう。

本格的なカレーと、台湾名物である魯肉飯(ルーローファン)をあいがけにした「ろかプレート」で好事家たちをうならせ、2016年の開店からあっという間に都内屈指の人気店となった魯珈。素敵な笑顔でひとり切り盛りする店主・齋藤絵理さんに、個性的なプレートが生まれた経緯から今後の展望まで、さまざまなお話を伺いました。

「本格カレー +魯肉飯」であっという間に行列店へ

JR大久保駅から徒歩2分ほど。いかにもこのエリアらしい路地の雑居ビル奥に魯珈はあります

2016年の末にオープンし、翌年にはブライテスト・ホープとして時の人ならぬ、行列の絶えない“時のカレー屋”となった「SPICY CURRY 魯珈」。カレー業界の関係者から近所の常連まで、多くのファンから愛される店主・齋藤さんのキャラクターや、オープン以来一度として同じメニューを出したことがないという週替りカレーなど、人々を虜にする要因は多いですが、なんといっても、カレーと魯肉飯をワンプレートでフュージョンさせた「ろかプレート」の存在が、一番の“引き”となっています。

「やっぱり、スパイスカレーと魯肉飯の融合っていうのがオリジナリティというか、看板になっていると思います。女性ひとりで切り盛りしているのが珍しいとも言われますね。実際、女性の方がひとりでやっているお店はまだまだ多くはないですし」

物心ついた頃から生粋のカレー好き

好きなカレーと魯肉飯をワンプレートにできる魯珈の名物、その名も「ろかプレート」。950円(ラムカレーはプラス100円)

齋藤さんは、幼少期から両親に連れられカレーの名店を食べ歩いていたという、いわばカレーのサラブレッド。プロダンサーとして活躍していたという時期をはさみつつも、漠然と「カレー屋を開く」というビジョンはずっと抱いていたんだそう。

「とくに意識していたわけじゃなかったんですけど、気づいたら仕事はバイトも含め、飲食しかやってこなかったんです。鬍鬚張魯肉飯(ひげちょうるうろうはん。一時期は渋谷や六本木に店舗を構えていた、台湾発のチェーン店)でバイトをはじめたのも、魯肉飯が好きだったというわけではなくて、“まかない付き、髪型自由”という条件が一番のポイントでした(笑)。そもそも、その時点では魯肉飯のことなんて知らなかったんです。はじめて食べたときは不思議な味だと思っていたんですが、知らないうちにハマってしまって。

でも、その前から将来はカレー屋さんになりたいと、ずっと思っていたんです。その頃だとめずらしいかもしれないですが、外食でカレーを食べ歩く家だったんで、両親の影響で物心ついた頃にはカレーが好きで。とはいえ、大学生だった頃はまだそのビジョンがぼんやりしていて、(カレーは)今じゃないと思っていたというのもあって、じつは新卒でCoCo壱番屋に内定をもらっていたんですが、それを辞退して、ダンサーとして活動する道を選びました。

卒業後はフリーターをしながらダンサーをやっていたんですが、2年間で自分の納得いくところまでやりきったので、『さて、カレーに戻ろうかな』と、日本人で厨房に入ることができるカレー屋を探して見つけたのが、前職のエリックサウスだったんです。やっぱりインド人の方がやっているところだと、厨房は彼らの聖域みたいな感じで、なかなか入れてもらえないんですよね」

退路を断ち、大好きな場所から意を決し独立

店主の齋藤さん。明るく丁寧な人柄にファン続出

齋藤さんは独立するまでの間、南インド料理の名店、エリックサウスの厨房で7年にわたって腕をふるってきました。その影響は、現在魯珈で提供されている3種類のレギュラーカレーにも、色濃く感じることができます。都内屈指の人気店で忙しく調理をするなかで、なにをきっかけに独立することになったのでしょうか。

「ある頃からはもう、いつ独立してもいいと思っていたんですが、エリックサウスがすごく好きで、居心地がよくて長居してしまっている状態だったんです。ずっとここに居てもいいかな、と考えていた時期もあったんですが、このままいたら甘えてダラダラしてしまうのはやっぱり良くないと思いたち、『2ヶ月後にやめること』を決心しました。それを決めてしまえば、あとは物件を探すしかないじゃないですか。だから、まだ何も決まっていないタイミングで、辞めて独立することを会社に伝えてしまったんですけど、当時の上司や社長からは『とうとう独立か! いいじゃん』と後押ししてもらえて。なので、独立のきっかけというのはあまり無くて、思いついて急に追い込んだ感じなんです」

そもそもはミールス屋のはずだった

魯珈のメニュー。カレーはチキンとラム、野菜コルマがレギュラーで、そこに週がわりの限定カレーが加わります

エリックサウスといえば、ミールスやドーサ、ワダのような軽食であるティファンといった南インドの料理を、日本に広めた店のひとつ。提供されるメニューも比較的オーセンティックなものが多いのですが、そこから魯珈のスタイルには、どのようにしてつながっていったのでしょうか。

「独立を決めたあたりからイメージはありました。というのも、ちょうどそのくらいの時期に自分が鬍鬚張魯肉飯で働いていたことを思い出して(笑)。『カレーと魯肉を合わせたら面白いんじゃないかな?』って試作したら、やっぱり美味しかった。それまで、独立するときはミールスを定食スタイルで出すお店にしようと思っていたんです。吉野家のミールス版みたいな感じで。ミールスが定着してきたことをエリックサウスで実感したので、いけるかな、と考えていたんですね。でも、いざ独立するって決めたときに、なぜか頭がミールスから離れたんです。ちょうど大阪のカレーが盛り上がっていたこともあって、自分自身あっちのカレーも好きだったし、ワンプレートにしたくなったんですね」

学生時代のアルバイト、関西カレーからのインスパイア、そしてタイミング

入口から続く長いカウンター席。奥の厨房前にも2席ほどカウンター席があります

まさにろかプレートは、ワンプレートに複数のカレーや副菜を盛り込んだ、関西スパイスカレーの様式美ともいえるビジュアルを踏襲していて、タイミング的にもピタっとハマりました。副菜にはインドの漬物であるアチャールに加え、魯肉飯のお供に欠かせない高菜をつかったものが取り入れられているのも、カレーと魯肉飯のフュージョン度をより高めています。

「最初に関西のカレーの影響を受けたのは4~5年前、はじめてボタニカレーさんで食べたとき、ワンプレートの盛り付けがかっこよくて。独立するときにこういう盛り付けはいいな、というインスピレーションを得ていたんで、そこはインスパイア系ですね。独立するころ、大阪ではそういう盛り付けがすっかり主流になっていたんですが、東京ではまだあまり見かけなくて、今この盛り付けでやったらいける、っていうタイミングだったんです。あと、関西だとご飯の上にキーマを乗せているものが多かったんで、そのキーマの部分を魯肉にしたらおもしろいかなと思ったのも、ろかプレートのひとつのきっかけでした」

あくまでもカレーありき

厨房前に積まれたスパイスたち。Z派なのか、ハンブラビ、キュベレイ&MK-2、百式といったMSも並びます

そんな経緯でうまれた看板メニューの ろかプレートですが、カレーと魯肉飯という一見奇抜なフュージョンをより美味しく仕上げるべく、ただのあいがけでは終わらない工夫もされています。

「鬍鬚張魯肉飯で出していた魯肉飯は、単品で満足できる、粘度が高くてパンチのある魯肉飯だったんですね。それをエリックサウスで出していた南インドをベースにしたカレーと合わせてしまうと、魯肉の味が勝っちゃうんです。だから、魯肉は八角なんかを抑えたかわりに、クローブやシナモンあたりのカレーに使うスパイスを足したりすることで、南インドのカレーとのつなぎを良くしています。でも、カレーのほうはあまり魯肉に寄せたことはなくて。そういう意味では、魯珈プレートはあくまでカレーありきだと思っています」

物心ついたころからカレー屋を志していた齋藤さんだからこそのチューニング。そこでふと気になってしまったのが、カレーと魯肉飯、それぞれにかける想いはどれほどなのか、ということ。無粋と承知しながらの問いかけにも、ストレートに答えていただきました。

「正直に言っていいですか? やっぱり自分の熱量もカレーが9割なんです。カレーは日替わりでいろいろできるのに、魯肉はいままで一回しか変化をさせたことがないんですよ。一度だけ、一周年のとき、羊肉のキーマに花椒を効かせた中華風のものにカスタムしたことはあるんですが、その一回だけ。でも、それは自分でお店をはじめて再認識しました。魯肉飯は毎日食べられないし、私はカレーがこんなにも好きなんだって(笑)」

目指すは「スパイス女将」…!?

齋藤さんもイチオシのろかプレート。並ぶ甲斐はありますよ!

つくり手にも食べ手にも「カレーが好き! 愛してる!」という人はもちろん数多くいますが、齋藤さんのカレーに対する愛情も人並み外れたもの。だからこそ、自分のカレー屋を持つという目標のスタートラインに立てただけでなく、それが早くも都内屈指の人気店となるという現状につながっているのでしょう。そして、ちょっと気が早いと思いつつも、気になるのは魯珈および齋藤さんの今後。いったい、どんなプランを思い描いているのでしょうか。

「エリックサウスにいたときから『お店をオープンしても、半分以上は固定客になるんじゃないの?』って言われるくらい、キャラが濃いと言われることが多くて。本当は“スパイス女将”みたいなこともやりたいと思っていたんです。お店をはじめてもきっと暇なんだろうなと思っていたので、週に2日ある夜の営業は、2~3人くらいしかお客さんがいない想定だったんですね。だから、自分も飲みつつ、その日に思いつきで作るスパイスを使ったつまみなんかを出すことを考えていたんです。今はちょっと難しいですが、それはいまでもやりたいなと思っています。夜だけ屋号を変えて、本当にダサいですけど“スナック・エリ”みたいな感じでやれたらな、って(笑)。

今は、とにかく仕込みが大変なんですよ。あまり表には出さないようにはしているんですが、満身創痍です(笑)。お店の規模を拡大する気も全然ないですし、いまの常連さんが来てくれているうちはこのまま走り続けて、将来的に身体が動かなくなってきたら、お酒が飲めるスパイス・バルみたいな感じに移行するかもしれないですね。そのときになってみないとわからないですけど(笑)」

齋藤さんの切り盛りするバルを想像するとそれはそれで大変魅力的ですが、現在でもまだまだ使いたくても使えていない素材もたくさんあるということで、魯珈のポテンシャルはまだまだ未知数。名物の魯珈プレートはもちろん、まだ見ぬ未知の週替りカレーを楽しみに、入店待ちの列に加わってみてはいかがでしょうか。

Photo:Takuya Murata
Text:Osamu Hashimoto
Edit:Yugo Shiokawa

今回訪れた店

SPICY CURRY 魯珈(ろか)
住所:東京都新宿区百人町1-24-7 シュミネビル 1F
TEL:03-3367-7111
営業時間:[月・水・金]11:00~16:00[火・木]11:00~15:00/17:00~20:00
定休日:土曜日・日曜日・祝日
https://twitter.com/spicycurryroka

筆者プロフィール

橋本修(はしもと おさむ)
スパイスディーラーとしてストリートで名を馳せ、2017年からはカレーに特化した食ライターとしての活動を開始。先日、ライムスター宇多丸氏がパーソナリティを務めるTBSラジオの人気番組「アフター6ジャンクション」のカレー特集にも出演。電波の上でも日本のカレー事情をスムースにオペレートした。DJ、音楽ライターとしても活躍中。(イラスト:@animamundi_)

 



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