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BUSINESS 理想の男

ドレスウォッチとエレガントな男の関係

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時計は薄いほどドレッシーといわれます。

理由は、単純明快。薄いほど繊細でエレガントに見えるから。靴のソールや、メガネのフレーム、クルマの窓枠、シャンパングラスなどと、まったく同じ。薄く、細く、繊細なほど、エレガントでドレッシーに見えるのです。

また、薄い時計は袖口に隠れる。そこが大切です。

というのは、たとえば、パーティーや食事に招待されたとき。あるいは、仕事先を訪れたとき。はたまた、愛する女性とデートをしているとき。そんな大切なひとと過ごすときには、時計が袖口から覗き見えているのは、無粋なこととされる。

なぜなら時計が見えていると「時間を気にしているのだろうか」と相手に気遣わせてしまうから。だから袖口に隠れる薄い時計が、エチケットに適った、ドレスウォッチの正しいスタイルとされる。名門時計ブランドのドレスウォッチが、必ず薄型につくられるのは、それゆえなのです。

ちなみに、007の映画シリーズでは、ジェームズ・ボンドがタキシードの腕元にケースの厚いダイバーズウォッチを覗かせるのが、昔からのお馴染みの着こなし。そしてそれに憧れ、真似をする男性が、よくいますよね。

ですが、あの着こなしは、映画のなかだから成立していること。映画を観ている誰もが、ジェームズ・ボンドが、服も、クルマも、酒も、すべてに一流を求める一流の男であるというのをわかっていて、そしてそんなジェームズ・ボンドがあえてルールを無視してダイバーズを着けるのを洒脱に感じるから、その無法が許される。

だからジェームズ・ボンドではない普通の男がやっても、常識知らずか、時計を1本しかもっていない、という風に見えてしまうだけ。格好悪いのです。

それはさておき。もうひとつ、薄さと同じく、ドレスウォッチに大切なのがシンプルさ。ドレスウォッチはシンプルなほどエレガントといわれます。

針は時針と分針の2本のみ。インデックスはローマ数字や、バー型や、ドットなど、簡潔なデザインがよい。目盛りの数も、5分毎や、3・6・9・12時の4つだけなど、少ないほどエレガントに見える。

つまり、秒までわかる秒針のあるものや、時間の読みやすいアラビア数字のインデックスや、細かな目盛りで細かな時間までわかるのは、エレガントではない。ダイヤルに日付や曜日の表示があるのもエレガントではありません。

ですが、いうまでもなく、秒までわかったり、時間が読みやすかったり、細かな時間がわかったり、日付や曜日のあるほうが、より機能的で便利。そうですよね。

だから「シンプルなほどエレガント」とは「不便なものほどエレガント」ということでもある。

そしてそれは、実際、そのとおり。スーツやジャケットの脇ポケットのフラップは雨の入るのを防ぐための機能的な仕様ですが、しかしフラップがないほうがエレガント。ドレスシャツの胸ポケットはペンなどを挿すのに便利ですが、胸ポケットのないのがドレスシャツの正式。すぐに脱ぎ履きのできる便利なスリップオンよりも、紐を締めたり緩めたりする必要のあるレースアップシューズのほうがエレガントで正式なのは、よくご存じのとおりです。

さて。PCで書いた電子の手紙を手軽に素早く送ることができ、他者とのコミュニケーションはいつでもどこでも携帯電話ですることができる、今日。ペンやライターなどさまざまなものを100円ショップで気軽に購入でき、食料や日用品のほとんどは24時間いつでもコンビニエンスストアで買うことができる。スーツやジャケットは洗濯機で洗えたり、ナイロン製でシワにならないなど、取り扱いの楽なものが増えている。そんな風に、我々の日常は、あらゆるモノやコトが便利になっています。

そしてそれは、もちろん、素晴らしいこと。そうした便利さは人類の叡智ゆえなのであり、そのため便利さを享受するのは至極当然のことでもあります。

が、しかし。本来は、手紙は万年筆や筆で文字を書き、会話は互いの顔を見ながらする、というのが礼儀。ペンやライターは安物ではない、丁寧につくられたホンモノをもつのが、大人の矜持。24時間コンビニで買えるからと、いつも買い物の計画を怠っているのは恥ずべきこと。スーツやジャケットはウールなどの天然素材を、きちんと手入れして着るのが、ルールでマナーでエチケット。それが常識のことです。

そうしてそんな、かつては誰もが熟知し実践していた常識が、便利な世のなかだからこそ際立って見える。つまり便利さに溢れた今日だからこそ、それに抗った「不便なモノやコトほどエレガント」といえるのです。

だから、ときには不便さを選ぶのがおすすめ。すなわち、不便を愉しむ。そういうことのできる男がエレガントでドレッシーなのだと、そう思うのです。

Photo:Getty Images



Text : Yutaka Fukuda



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