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ノーベル文学賞「日の名残り」に考える、紳士の着こなしとは?

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良い男になるために、知っておくべき心構えとは?

長崎生まれの日系イギリス人小説家、カズオ・イシグロ氏がノーベル文学賞を受賞。いやぁ、素晴らしいことです。カズオ・イシグロ氏の小説は、日本語ではなく英語が原文ですが、やはりどこか親しみが感じられます。ですからノーベル賞の受賞をとても嬉しく思っているのですが……。

そんなカズオ・イシグロ氏の名を広く世界に知らせたのが、1989年にイギリス最高の文学賞であるブッカー賞を受賞した、第3作目の長編小説『日の名残り』でした。英国貴族の邸宅に仕える老執事を主人公にした物語で、1993年には名優、アンソニー・ホプキンスの主演で映画化もされました。ホプキンスの演技が素晴らしく、主演男優賞などいつくものアカデミー賞にノミネートされた良作で、ご覧になった方もきっと多いのではないでしょうか。

その映画化の際、ホプキンスは実際のイギリスの老執事に会い、執事の心得や、所作や、正統のしきたりなどを教わったそう。そうして、そのとき、こう言われたのだそうです。

「よい執事のいる部屋は退屈なものです」と。

すなわち、正統を身につけた正しい執事は、静謐に、静穏に、まるでそこにいないかのように佇んでいるもの。決して目立つことがないのです。

で、この話を聞いたときに大いに納得しました。格式あるイギリスの貴族に仕える執事が、誰もいないかのように控えめであることは、当たり前のことにように思えたのです。ですが、すぐに疑問も沸きました。それは執事の服装のことです。

ご承知のように正統の執事の服装は、モーニングコートやイブニングコートなど、第一礼装が正式です。でもそれだと、屋敷に来客を迎えるパーティなどのときには、執事がゲストや主人と同じ服装をしていることになってしまう。それなのに、執事は控えめでいられるのか? ゲストや主人は華やかに楽しめるのか? それはいったいどういうことなのか? 不思議に思ったのです。

そしてその答えを言うと……。男は服ではなく中身が大切ということだったのです。イギリスの執事は、礼装で控えめに装います。イギリスの貴族は、礼装で華やかに装う。つまり礼装は、服自体が控えめなのでも華やかなのでもなく、執事のように控えめにすることも、貴族のように華やかにすることも、どちらにもできるということなのです。

礼節を重んじ、物静かな振る舞いに徹していれば、控えめでいられるし……。品良く知的に、明るい笑顔で気持ちよく人に接していれば、華やかになれるのです。

そんなふうに、自分の立場や、役割や、時や、場所や、目的などをわきまえていれば、正しい装いをすることができる。要するに、心構え次第ということ。そしてそれは礼装だけでなく、スーツや、カジュアルなど、どんな服でも同じことが言えるのです。

話を戻せば、イギリスの貴族と執事が、その好例でしょう。執事は礼服が通常着ですが、日常では貴族はスーツなどの平服で過ごすのが普通。

ヨーロッパのレストランやブラッセリーなどでも、スタッフは礼装で、オーナーはスーツというのがよくあります。そしてそれは、従業員はお仕着せの制服であるのに対し、主人は自由な服を着ることができるという図式なのですが、しかしそれだけに留まりません。それぞれ自分の役割をわきまえているから、礼服が制服にしか見えず、スーツでも礼服を凌ぐ気品や威厳を感じさせることができます。まさに心構えが重要ということなのです。

そしてそんなふうに、スーツでも、礼服でも、自在に着ることができるのが格好良い大人の男。ということで、これからの年末から新年にかけてのパーティなどが多くなる季節は、まさに腕の見せどころです。例えば、スーツを思いっきり華やかに着て主役になってしまうとか。はたまたタキシードを優雅に控えめに着て、エスコートした女性の美しさをよりいっそう際立たせるとか。

そんな着こなしができる男が本当に格好良いと思うのです。それこそ『FORZA』の理想の男なわけです。

Photo : Getty Images




Text : Yutaka Fukuda



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