熟年夫婦には様々な問題がのしかかってくる。お金、住居や相続の問題に加えて、「夫婦生活」の変化も穏やかだった関係をかき乱す要因になりがちだ。「性欲減退」という他人に相談しづらい内容であればあるほど、家庭内で問題は大きくなっていく。
危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏は、男性の性欲減退について、こう語る。
「男性ホルモンと呼ばれるテストステロンは、筋骨増強や体毛の成長などに深く関わるほか、仕事などでの競争意識や支配欲を高める作用もあるとされています。
加齢などによってテストステロンが減少すると、発汗や不眠、何事もやる気が起きない、性欲が減退するなど、さまざまな心身の不調が起きます。『更年期障害=女性のもの』という認識をなさっている方は、ぜひこの機会にその考えを改めていただきたいですね」
昨今、話題になっている「男性の更年期障害」について取材を進めるなかで、更年期症状に苦しんでいることを妻に理解されず、むしろ誤解されて夫婦の関係がぎくしゃくし始めた、という男性に話を聞くことができた。
「49歳になる直前あたりから、急に性欲が減退するのを感じました。頭のどこかで『たまにはしたいな』と思うことがあっても、『どうしてもしたい!』と思うことが、全くなくなりました。毎朝あったアノ部分の反応もなくなってしまい…」
こう話すのはメーカー勤務、49歳の新垣征也さん(仮名)。
「他にも、汗をかく場面じゃないのにびっしょりと発汗したり、仕事に対するやる気がなかなか起きなかったりと、ザ・更年期な症状に見舞われています」
こう語る征也さんには1歳下の妻がいる。夫婦は再婚同士で、結婚10年目だという。
「実は今の妻は、ダブル不倫の末に結婚した相手なんです」
30代半ばにさしかかった頃、お互いに配偶者がありながら、スポーツジムで意気投合した2人は「道ならぬ恋」に燃え上がった。
「僕も彼女も子どもがいなかったので、いざとなったら離婚すればいい、という気持ちもあったと思います。当時のパートナーに『バレてもいいや』くらいの勢いで、連日、会いまくっていました」
大人しく控え目で、性に対してもあまり意欲的でなかった前妻に比べ、今の妻はとても積極的だったと征也さんは言う。
「30代ってまだギンギンなので、僕もつい肉食な彼女に惹かれて、すっかりのめりこんでしまったんですね」
勤め先や誕生日が近いこともすべて「運命」にこじつけて、2人はそれぞれ元のパートナーと別れ、少し後になって結婚することになった。
「彼女との間には子どももできました。今、小学生です。妻は50前になった今もポジティブで色気もある魅力的な女性です。同性の友達からもよく色っぽいと言われています。信じてもらえないかもしれませんが、今でも妻に惚れています」
そんな愛妻家の征也さんは40代後半になってから徐々に性欲の衰えを実感し始める。
「40代の前半までは、妻と最低でも週に2回はしていたんです。でも例の「症状」に伴って、僕から誘う回数は減っていきました。機能そのものが著しく低下していき、ついには月に1回もしんどい、と思うようになりました」
最近あまりしたがらないね、と妻から初めて指摘された時、「ちょっと疲れているかも」とドラマでよく耳にするセリフを口にしてしまった…と征也さん。
「他に返事のしようがなかったんですよ。ドラマでよく聞く『ごめん、疲れているんだ』はある意味、凄くリアルなセリフだったんですね」
月に1度の行為でさえ苦痛になってきた征也さん。ダブルベッドで、隣にいる妻の吐く息が少しずつ頬にかかってくるのを感じながら、寝たふりをすることで行為を拒んだ。
「僕が全くやる気を見せないので、え、なに?なんなのその態度、と妻は怒りました」
征也さんが「しようとしてもできないだ」と告白すると、妻は夫の「勇気ある告白」に耳を貸すどころか、いきなり怒り出して暴言を吐いたという。
スウェットをしっかり着込んで脱ごうともしない夫を前に、半裸の状態で怒り狂った妻。その暴言の内容とは? 予想だにしなかった「家庭内モラハラ」のゴングが鳴った... 後編で詳報する。
取材 / 文 中小林亜紀
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