さまざまな要因から、かつて一般的だった葬儀のあり方が様変わりしている。「全葬連」のある調査結果によると、家族の理想の葬儀を問われた人の7割近くが「家族葬」と答えたそうだ。
葬儀の小規模化について、危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏はこのように指摘する。
「家族葬は必要最小限の参加者がアットホームな雰囲気の中で故人を送ることができ、なおかつコスパにすぐれるセレモニーとして人気が定着しています。
しかし、他方ではかつてのように費用をしっかりとかけた重厚な葬儀を重んじる年齢層や土地柄もあるようです。葬儀は故人の意向に沿うのが理想。
たとえ親戚関係にあっても、よその家庭の価値観にはあまりクチバシを突っ込まないことが賢明ですね」
現代の葬儀のリアルを取材していくと、「家族葬」を選択したことにより親類縁者から猛攻撃を受けたという都内在住の女性が話を聞かせてくれた。
「昨年母が亡くなりました。コロナへの警戒感が薄れてきた頃でしたし、田舎の価値観に照らすと、最近多い家族葬にしていいのか、無理してでも従来の一般葬にすべきなのか、ぎりぎりまで悩みましたね」
こう話し始めたのは48歳の会社員、角島みどりさん(仮名)。未婚のみどりさんは都内で一人暮らしをしながら、同じく田舎で長年一人暮らししてきた母を見守ってきたという。
「実家は田舎ですが、10年ほど前から幹線道路沿いにいくつも家族葬専門の葬儀場ができ、帰省するたび目に留めていました。
母が病気がちでしたので葬儀のことはいつも頭の片隅にあり、そうした小規模な施設も視野には入れていたんです。でも、実際そうなってみると、やることも多くて悠長に検討する時間はありませんでした」
病に伏し、小康状態にあった母の訃報を受けたのは突然のことだったという。みどりさんはその後、悲しみに暮れる間もなく、役所への問い合わせや関係者への連絡など、仕事の傍らさまざまな手続きに追われた。
「大変でしたが、ある意味ベルトコンベア的に『次はこれ、その次はあれ』と目の前にやるべき作業が現われました。考えている暇も余裕もなかったです」
一番悩んだのは葬儀をどうするかだった。一人娘であるみどりさんは、折りに触れて親の葬儀をどんなものにするか考えてきたが、結論はいつも先送りしていた。
「母の身内は大半が地元に住んでいて、5人のきょうだいのうち3人はまだまだ皆さん元気。近い親戚の葬儀は、母が2例目でした」
先に亡くなったのは母の実兄だった。その「伯父」の葬儀はかなり盛大に執り行われたという。
「伯父は商売をしていて顔が広かったですし、自治会長なども何度もやっていたのでご近所とのつき合いも深く、葬儀には200人はいらしたと思います」
田舎は人づき合いにうるさい、とみどりさん。亡くなった母も、会えばそんな愚痴ばかりを口にしていた。
「同じ町内でご主人を亡くされた方は『コロナ禍なので来てくれるなとわざわざ断っても香典を持って葬儀場に現われる人も1人や2人じゃなかった』と母は言っていました」
後にこの言葉の意味を思い知ることになったみどりさんだが、田舎では「葬儀は盛大にするもの」と考える人はまだまだ多いという実感はあった。