「妻は『お義母さんが浮気したっていう話自体、私はお義父さんの妄想だと思う』と言いました。母ほど家庭を第一に考え、わがままな親父を立てることができた人はいない、と妻は怒ったんです」
百歩譲って仮に浮気が真実でも、あのお義父さんと夫婦でいたら、誰でもストレスで不倫に走りそう、許せるわ、とまで妻は豪語。頑として亡くなった義母の肩を持ち、義父の認知症の進行を訴えた。
「妻は母に対する思い入れが強いから、父のことをちょっと大げさに言っているのかなと、私はまだ高を括っていました。だから入所の説得はじっくりやろうと……」
英紀さんの妻と母の間には、世間の嫁姑にありがちな険悪さはまるでなかったそうで……
「大学生の時に母親を亡くしていた妻は、私の母を大変慕っておりました。同居も二つ返事でオッケーしてくれたんです。母は70代中盤まで病院いらずのとても健康な人だったので、妻も先にくたばるのは親父の方だと思い込んでいたんだと思います。
しかし、フタを開けてみれば、母は75を過ぎると途端に老いて病気がちに……。体の自由が利かなくなった上に透析が必要になったことで、最終的に医療サービス付きの施設に入らなければいけなくなりました。そうなってからも、妻は時間を見つけては母の顔を見に行っていましたね」
その施設へ母の見舞いに家族で出かけるたび、父親がいつも口にしていた言葉があった。
「父は、『施設なんかに入ったら終わりだ、人間じゃなくなる』とよく言っていました」
母が職員に世話されている様子を観察した父は「あんなみじめな姿になるくらいなら死んだ方がマシだ」と近い未来の自分自身の施設入りを牽制し始めたという。
「母が『はい、おばあちゃん、ちょっとお股きれいにしますよ、恥ずかしいからおじいちゃんたちに出ていってもらいましょうね』なんて声かけられてるのを目にして、俺は死んでも入りたくない、と強く言ってましたね」
このような父に対し、英紀さんの妻はすでに「いずれお義父さんを施設で預かってほしいと思っても、お義父さんが受け入れてくれなかったらどうしよう」と不安を訴えていた。
☆父の認知症の傾向をさほど気に留めていなかった英紀さんだったが、妻の不満はとうとう爆発して『罰金システム』に移行していく。家族の行く末は次回で詳報する☆
取材・文:中小林亜紀