貧困か、無関心か?「ちーちゃんはノートも持ってないから…」
ある通信教育関連企業が小学生の子を持つ親を対象に実施したアンケートによると、子供の学校の持ち物の用意を習慣的に手伝っていると答えた親が全体の6割程度を占めたという。自主性を育てるために過保護は禁物、という意見も一定数あるようだが、一方で子供が準備したくても持ち物を与えない親がいるという現実もある。
危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏は、貧困・ネグレクト・ヤングケアラーなどさまざまな社会問題が、子供たちの学校の持ち物にも影響しているようだと指摘する。
「子供の持ち物に無関心なだけでなく、準備してほしい、買ってほしいと言われても聞き入れない保護者、買い与えることができないほど困窮している保護者がいるという現実があります。こうした事実を知った場合、周囲の大人はどうしてあげるべきなのか、なかなか悩ましい問題です」
シングルでお子さんを育てている方の生活実態について取材を進めていると、ある女性がご自身の子供と同じクラスの子の親について話したいと申し出てくれた。
「うちの娘と同じクラスのちーちゃん(仮名)の親は、とにかく子供の持ち物・忘れ物に無頓着なんです。無頓着なのか買うことができないのか、実際のところはわかりませんが」
こう話すのは、パート従業員の沖塚亜里沙さん(仮名)。現在小学5年生の「ちーちゃん」は亜里沙さんの娘さんとクラスも通学班も同じだという。
「うちの子たちは1学年2クラスしかないので、ちーちゃんとは何度も同じクラスになっています。これまでにも数えきれないほど『ちーちゃんは忘れ物が多い』という話を聞いていますし、近所では有名な話です」
その子の保護者はシングルマザーだという。シングルマザーは他にも学年に数人おり、「シンママだからどうのこうのという偏見はない」とした上で、亜里沙さんはちーちゃんのママを「無責任すぎる」と批判する。
「同じ町内に住んでいますが、ちーちゃんのママとは2回ほどしか話したことはありません。年齢は45歳くらいだと思います。彼女は子供が小学校に入学した頃にご主人と離婚。そのあと実母を呼び寄せたそうです」
母親と祖母の3人暮らしになったちーちゃんだが、どうやら祖母はちーちゃんの世話係として呼び寄せられたわけではなさそうだ。
「少なくとも5年生になった今は、むしろちーちゃんがおばあちゃんの心配をしていると娘は言っています」
近所に住んでいながら、亜里沙さんは問題となっている子の祖母の顔を見たことがない。娘が訊ねると、おばあちゃんはいつも寝ていると答えるのだそう。
いずれにしても、子供の学校の持ち物に注意を払わない家庭であることは間違いがないということだ。
「先日、うちの娘が『ねえママ、月曜日に調理実習があるんだけど、多分ちーちゃんは材料持ってこないから私が用意してあげていい?』と言ってきました。頼まれたの?と聞くと、そうではないが、先生に怒られるのが可哀想だから、あらかじめこっそり持っていきたいと言うんです。持ってきたなら持ってきたでいいから、念のためだと」
亜里沙さんの娘は大人しく心優しいちーちゃんが大好きなのだとか。
「ちーちゃんは普段から忘れ物が多いのですが、娘が見る限り、ノートや消しゴムを使い切ってもしばらく買ってもらえず、それで持ってこれない場合があるようだと」
調理実習で必要なのはご飯と味噌汁の材料。班で分担を決めて各自材料を持参するというものだ。亜里沙さんの娘は油揚げと豆腐を、ちーちゃんはネギと出汁用のにぼしを持っていくことに決まったらしい。
「私が子供の頃の調理実習では学校で食材が用意されていた気がしますが、うちの子の学校は各自で用意するよう言われるんです。そもそも衛生的に心配だし、ちーちゃんみたいに持ってこられない子もいるので、できれば学校で準備してもらえるといいと思うのですが」
亜里沙さんはまた別のママ友が、ちーちゃんの母親と忘れ物のことでトラブルになった過去を知っているため、できれば娘のこの打診を受け入れたくはなかった。
「娘からのお願いに即答できなかったのは、その出来事が頭にあるせいかも」
ちーちゃんの母親がママ友と起こしたトラブルとは何だったのか。後半では、その詳細についてレポートする。
取材/文 中小林亜紀