インフルエンザが例年にも増して猛威を奮っている。危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏はこう話す。
「各地で休校や学級閉鎖が相次いでいると報道されています。厚生労働省では全国約5000の定点医療機関を受診した患者数を集計しています。1定点医療機関あたり1人で流行の目安、10人で注意報レベルですが、10月23日から29日の時点ですでに全国平均が19.68人です。今はさらに増えていることが予測されます」。
例年ピークは年明けだ。
「今年は異例と言ってもいいかもしれません。昨年の流行から春夏になっても収束しないまま、だらだらと流行が続いているんです。今年はインフルエンザの A型はH1とH3の2種類が流行しているそうなので、B型と合わせて全部で3回かかる可能性もあります」。
インフルエンザにかかりたくない。多くの人はそう思うことであろう。しかし、より強く思う人がいる。受験生だ。今回は中学校受験のカウントダウンが始まった、あるご家庭でのリアルなインフルエンザ対策について話を聞いていきたい。
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畠山康二さん(仮名・54歳)は、1人娘の中学校受験を控えている。
「不妊治療の末にできたこともあり、とても大切に育ててきました。少し手厚すぎるかな、と思うほどです」。
特に妻の力の入れようは半端じゃないという。
「今回の中学受験も完全に妻主導です。妻はなんとしても娘を難関中学に入れるんだ!という確固たる思いを持っていて、これはもはや一大プロジェクト。さらにいえば、難関大学に入学、有名企業に入社、または医者や弁護士などの有資格職に就いてもらいたいと先々に至るまでプランがあります。子どもの生き方を親が決めるなんて今どき、ちょっと時代遅れだなと思う気持ちもあるにはありますが、仕事が忙しく、育児を任せきりなこともあり、なかなか言い出せないのが現状です」。
なるほど。ここまで入れ込んでいるとあらば、絶対に失敗はさせられないということなのだろう。
「塾には小学校1年生から通っています。この1年くらいは家庭教師も週1で来ていて、支払いもガツンと上がりました。妻自身も仕事をしているにもかかわらずかなり勉強をして、娘の伴走をしています。その努力はすごいなと思いますね」。
奥さんはご自身に学歴コンプレックスがあるんだという。
「出身校はそこそこ名の知れた大学なんですよ?でも彼女にとっては最難関校以外は、すべて同じなんです。僕が結婚相手に選ばれたのももしかしたら、学歴がよかったからかもしれません(笑)。それくらい学歴中毒なんです」。
そんな畠山家にはとにかく決まりが多くある。
「娘が6年生になってから、基本テレビは禁止です。スマホも娘の前では使うことを禁じられていますし、ソファーでダラダラなんてもってのほか。さらに以前から健康オタクの妻が選んだサプリを飲んでいたんですが、ここ数ヶ月はそれがエスカレート。飲む数がどんどん増えているんです」。
断る手段はないという。
「妻の言い分としては、娘が頑張っているのにテレビやスマホを見ているなんてそれでも親かって…」。
この1年、外食もほとんどしていないらしい。
「何かあるといけないからと家族での外食はしていません。娘は塾にお弁当を持っていくのですが、夕食は僕と妻も基本的には同じ内容。こんなこと言うとあれですが、妻は料理が下手なんです。味音痴なんだと思います。おそらく興味がないんでしょうね、食べることに。だからおかずはいつもローテーション。僕、実は料理が得意なんです。だからたまには作りたいんですけど、それは認められていません。ルーティンを崩すことは、受験が終わるまではできないと言うんですよ」。
徹底的だ。
「家での暮らしは、囚人のようです。そんな僕の息抜きになっているのがランチです」。
ランチは基本外食だ。
「好きなものが食べれるのがこんなに幸せだと感じたこと、これまでになかったかも知れません。毎度、何を食べるか考える時間も楽しいです。ただ…」。
妻から査定が入ることがあるんだと話す。
「例えば、ファストフードを食べたなんて言うと期限が明らかに悪くなります。体に悪くてコスパも悪いって。だから基本的には社食を食べているって嘘をついているんですが、先日うっかりコンビニで買ったレシートを捨て忘れてしまって…」。
娘の受験が終わるまで、家でダラダラすることも好きに食べることも禁じられている夫。【後編】ではインフルエンザ流行に伴い、さらに厳しくなる妻のルールについてさらに話を聞いていきたい。
取材・文/悠木 律