「高子さんがお帰りになったと思っていたんでしょうね。高子さんに対しても、いいかっこしいだとか、男好きだとか、友達がいないから赤ちゃん連れのお母さん達にいい顔しただとか…。周りには他の人もいるのに、みなさんの声はどんどん、どんどん大きくなっていました。この姿を見て、私、ちょっと歳を重ねることが怖くなってしまいました。こんなにも周りが見えなくなってしまうんだなって」。
ひとしきり、文句を言い終わった初江さんたちはバスの時間が来たのか急いで体育館から出ていった。
「これ以上、悪口を聞かずに済んでよかったと胸を撫で下ろしていると高子さんがどこかから現れて、ロビーの椅子の端に腰掛けて、本を読み始めました。その姿がなんていうか、とても上品で、私にはかっこよく映りましたね」。
高子さんは帰り際、和子さんにこう耳打ちしたという。
「あなたは言わなくていいからねって。またあんな状況になったら、私が言うからっておっしゃったんです。高子さんは、これ以上嫌われてもなんともないと笑っていました。なんだか、胸が熱くなりました」。
それからも相変わらず、初江さん達は体操教室では高子さんの陰口をたたき、ロビーでは大声でおしゃべりを繰り広げた。そんなある日のことだ。その日も赤ちゃん連れのお母さん達が集まる体操教室と高齢者の体操教室が重なっていた。
「その日は晴れていたので、少しほっとしました。雨だったら、またバトルが起きかねませんから。ところが、初江さん達が、雨でもないのにお母さん達に噛み付いたんです」。
初江さん達が言い出したのは、お母さん達のトイレの使い方についてだ。
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