彼女の後輩たちにも同じような言葉をかけているそうだが、反応はさまざまだそうだ。
「今や、『後輩を指導する』ということ自体が受け入れられる時代じゃないのでしょうね。私は指導しているというよりは、『生成AIやネットは上手に使えばいいと思う』というアドバイスをしているだけのつもりですが、小言にしか聞こえないのかも」
桃子さんは、そこまで言ってから、仕方がないとでも言うように笑ってみせた。
「私たちの頃とは、教員になっている人たちの心構えや考え方が違うのかもしれませんね。新しいものを取り入れることが悪いというわけではありませんけど、推薦書や志望理由書が生成AIで簡単に作ってしまえて、それを教員や生徒が利用しているのが当たり前という時代になったら、
生徒を入試で試している大学側は、そんな志望理由書や推薦書に重きを置かなくなるでしょうね。ということは結局、試験当日に試験でどれだけ得点できるかという、超学歴社会になっていくのかしら」
恵理子さんは、日本の未来というものを憂えている。
「もしくは、少子化が進んでいるから、一人一人を面接するのかもしれませんね。そうなると、面接中に生成AIは使えないから、生徒も教員も、『人間力』を磨かなければいけなくなる。どっちにしても、なんらかの変化はまた近いうちに起きるのかも」
そんな恵理子さんとは対照的に、丈一郎さんは、明るい未来を見ている。
「どんどん便利になって、教員が、教科指導だけに専念できるようになるべきだと俺は思っていますよ。生成AIもネットも、活用してダメな理由がわからない。
『心からの指導』なんて、時間に余裕がないとできません。生成AIやネットを利用して不必要な作業が省けるようになれば、はじめて心から生徒と向き合えますよ」
取材・文/八幡那由多
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