美容整形外科が「美容皮膚科」「美容クリニック」と呼ばれるようになった昨今、整形に対してのイメージは、かなりポジティブなものとなった。
しかし、美を追求するあまり、大金を費やす女性も少なくない。彼女たちの美への欲望はもはや病的と言っていいかもしれない。
まさに「整形依存症」だ。
今回は美容整形に3000万円を投資した銀座の高級クラブ「A」の元ナンバーワンホステスのエミリさん(仮名・33歳)に取材させて頂いた。
目鼻立ちの整った正統派美人の彼女は、一線を退いた今も、圧倒的な美のオーラを放っていた。
誰もが振り向くエミリさんだが、観衆の視線を浴びることは彼女にとって何よりの「賞賛」であり、同時に「美しくあらねばいけない義務」という重いプレッシャーにもなっていた。
まずは水商売に入ったきっかけを訊いてみた。
「きっかけはスカウトです。美容の専門学校に通っていた20歳の時に、恵比寿で声をかけられました。ちょうどお金も欲しかったこともあり、黒服やママと面接後に体験入店を経て、夜の世界に入りました」
北関東出身の彼女は、幼いころから「お人形さんみたい」と言われるほどの美貌の持ち主だった。思春期になると、男子生徒から告白されることも多かったという。
エミリさんは語る。
「モテる女子って同性に嫌われがちですが、私は嫉妬されないよう、あえて女子の前では女芸人のように笑いを取っていましたね。10代の少女ながら気を遣っていたと思います」
彼女が整形に興味を持ったのは、ホステスとして本格的に働き始めた21歳の頃だ。
「当時は日給2万円(5時間勤務)で、ホステスとしては底辺レベルです。ドレスは店のレンタル、ヘアメイクは店に通いの美容師にお願いしていました。
夜の世界に飛び込んで真っ先に思ったのは『世の中には、こんなに美人がいるんだ』ということです。多くのホステスがモデルや芸能人並みにキレイ。聞けば、本職はモデルをやっていたり、タレントの卵だという子もいて、田舎出身の私はかなりコンプレックスでしたね。
しかも、正統派美人じゃなくても、垂れ目だったり、口が大きかったり、キャラが立ってる子も人気なんです。何よりも、物おじせずにトークができてお酒もガンガン呑める子はママや先輩ホステスに可愛がられていましたね」
店には、オーナーママを筆頭にチーママが3名、総勢20名の華麗なホステスたちがいたという。エミリさんは、「新人だけど、負けてはいられない」と意気込んだ。
「毎日アフターをして、指名を増やすことに専念しました。日給が徐々に上がったころ、小百合(仮名22歳)というホステスが他店から引き抜きで入ってきたんです。
年齢は1つ違いですが、私のようにヘルプホステスではなく、「売り上げ」のホステス。入店初日から「祝・入店」と書かれた祝花が飾られ、店は満席。驚きましたね」
和風顔の小百合は目立つ美人ではないが、気配りとトーク術は群を抜いていた。しかも、彼女のお客様は経営者や一部上場の企業幹部など大物ばかり。当然、売り上げも大きい。
店側はあからさまにえこひいきをしていた。
「まず、オーナーママの態度が変わりました。『小百合ちゃん、今月も期待してるわよ。これ、私のおさがりだけど、よかったら着て』と高級ブランドのドレスを渡していたんです。小百合は丁重にお礼をしたあと、そばにいた私に歩み寄ってきました。
その時、彼女から言われたひとことは、当時の私にとって人生で最もショックなものでした」
――アンタ、目の下の小じわが目立つわよ。私のお客様にブサイクづら見せないで!
エミリさんは続ける。
「唖然としました。私がブサイク? 確かに私の目は大きくて涙ぶくろもふっくらしていますが、まさかそんな酷いことを言われるなんて……」
結果、エミリさんは美容クリニックの門を叩く。芸能人も通うことで評判の青山にある美容クリニックだった。
「最初は、目の下のシワを目立たなくする『ヒアルロン酸注射』でした。麻酔を塗った眼下の皮膚に数か所、注射するんです。痛みはゼロではありませんが、キレイになることのほうが優先でした。
せっかくだから唇もふっくらさせようと唇にも注入し、頬のほうれい線を消すために、口周りにも……。トータル20万円かかりました」
エミリさんは「20万円で美しさが買えるのなら、安い方」だと笑う。
「私自身が商品ですから。リンゴだってキレイに磨いてツヤを出し、箱に入れたら一気に価値が上がりますよね。それと一緒。
生まれ持った美しさに、手を加えるだけで価値が上がり、自分自身も居心地よく生きられるなら、お金は惜しくありません」
エミリさんは続ける。
「ヒアルロン酸注入後、お客様からは『表情が優しくなった。洗練された』と大好評。それを機に、定期的にクリニックに通うようになったんです。目はぱっちりしていたので、次はもっと高くキレイな鼻を手に入れたくなりました」
隆鼻術の費用は血液検査や薬代も含め50万円だ。美容医療は保険適応ではないため、医師個人が自由に価格を決められる。エミリさんの通うクリニックは腕の良さでも評判だった。どんなに高額でも、他のクリニックに変える選択は無かったという。
「隆鼻術にはシリコンプロテーゼを入れました。鼻の穴から入れるのですが、これがかなりキツかった……ドロドロした液が鼻から口に流れこみ、息をすることすらままならない状態になりました。私が苦しんでいると、ナースが『液体は飲んでください』と指示してきて……。
成分も分からない苦みのある液体を必死に飲みくだしました。局所麻酔のせいで痛みはありませんが、とにかく苦しくて『早く終わって』と心で叫んでいましたね」
術後は顔面がかなり腫れるため、あらかじめ「祖父が入院することになり、その手伝いのため」と偽って、一週間ほど店を休んだという。
「手術後は腫れて変形した顔を見て『本当に綺麗になれるの?』と悪夢を見るほどの不安に包まれました。鼻の両脇が盛り上がって紫色に変色し、まるで化け物です。でも医師が言った通り徐々に腫れも引き、8日後には店に復帰しました。
お客様やホステスは『すごくキレイになった』と大絶賛。周囲には『看病疲れで、5キロ痩せたの』と言いました。
実際、腫れが引くまで食事も摂れませんでしたし。整形した個所が目だないよう、ロングヘアをアップにして雰囲気をガラリと変えたことも良かったです」
完璧な美貌を手に入れたエミリさんは、店内を歩くだけで「あの子を呼んで」と指名が増えたという。
しかし、客たちに「美しい」と称賛されるたび、美への追求は加速した。
エミリさんは続ける。
「小百合に言われた『ブサイク』という言葉が私の心から消えることはありません……。その頃、小百合はナンバーワンになっていました。『絶対トップになる』という野心を胸に脂肪吸引、リフトアップと続けざまに手術をするようになったんです」
【後編】では美に取り憑かれたエミリさんの「美容整形遍歴」を詳しくお伝えしたい。
取材/文 蒼井凜花