まりこは、お話し会を主催するメンバーとして活動をしていた。
「1か月に2回、未就学児の子どもとご両親を対象にしたお話し会があるんですけど、私はそこで絵本を読むボランティアをしています。息子たちは手が離れてきたので、何かやってみたいなと思っていたときに誘ってもらいました。
すごく楽しいです。小さい子どもたちを見ていると、昔を思い出してちょっと切なくなることもありますけど」
あるとき、自分の同年代くらいの男性が子どもを連れてお話し会に来たという。
「平日のこんな時間におやすみなんて……訳ありかな?と思いました。それに見た目も派手で、どこか危険というか。あの、刺青じゃなくて、タトゥー?が入っていたし、ちょっと怖いなと思いました。そんな人が図書館に来るなんて意外、というのが正直な感想でしたね」
彼は3歳くらいの男の子を連れていた。
「すごい元気な子で、図書館内を走り回って職員の人たちに嫌な顔をされてました。そういうところもやっぱりガラの悪い人の子だからかな?なんて思ったり。偏見ですよね。すみません」
まりこは、てっきり彼らが暇つぶしに来ているのだと思っていた。しかし実際は違ったという。
「月2回必ず来るんですよ、お話し会に。絵本を読んでる間はその元気な男の子もじっと座って聞いてくれるんです。すごく驚きました。2人とも本がとても好きなようで、毎回何冊も本を借りていくんです。それもまた意外でしたね」
半年経つ頃には、まりこも図書館の職員もすっかりその親子と打ち解けて、世間話をするような間柄になっていた。
「話を聞くと彼、1人で子育てをしているそうなんです。しかも、土曜日も仕事で寂しい思いをさせることが多いからと、自分の休みを返上してこのお話し会に来ているそうなんです。
話してみると、なんていうんでしょうか、すごく穏やかで実直で……見た目で判断して悪かったなと心の中で思いました。きっと周りの職員の方もそう思ったんじゃないかな」
お話し会は第2・第4火曜日の10時30分から。しかしその親子は、図書館が開く9時には来館して、本を読んだり、ロビーや外の公園で遊んだりしていたというが、2人の関係が発展していくことになろうとは、この時は本人も予想だにしていなかったという。
後編では、モラハラ夫との熟年離婚を決意したまりこさんの、現在の生活について詳報する。
取材/文 悠木律