高校の文化祭といえば、焼きそばやたこ焼きなどの模擬店があり、体育館では演劇や有志バンドの演奏が繰り広げられるイメージだろう。
「昭和の文化祭はそんな感じだったけど、令和はもう全然違うでしょ?」なんて声が聞こえてきそうだが、実は、やっていることにはさほど違いはない。
模擬店が校内に並び、舞台上では演劇やバンドの演奏が繰り広げられる。やや違う点と言えば「ダンス」を発表内容とするクラスが、昭和の頃よりは多いくらいだろうか。
「やっていることは同じですが、クオリティーが全然違いますよ。生徒たちのセンスがかつての子どもたちよりも磨かれているし、準備もなんといえばいいか、かなり便利な世の中になっているなあという感じです」
そう話す美由紀さん(仮名・59歳)は、自身が学生の時に、舞台発表で同じクラスの生徒たちが着る衣装を、徹夜して縫ったことがあるそうだ。高校で家庭科を教えながらそんな思い出話をすると、生徒たちはみんな笑うのだとか。
「今はもう、そんな努力は全く必要ないし、縫う方が費用はかかっちゃうらしいですよ」
そう笑う彼女は、令和の高校生たちの合理的なやり方をかなり好意的に捉えている。
「『買った物を使うなんて、文化的じゃない。売っている物を使わずにどう見せるか、どんな風に作るかが文化祭の正しいあり方だ』なんてことをおっしゃる先生もいらっしゃいますけど、時代は変わりましたからねえ。ある物を便利に使いこなすことの何が悪いんだろうかと、私なんかは思ってしまいます」
そう言って穏やかに笑う彼女が担任しているクラスの生徒たちは、カラープリンターから分割して印刷したアニメのキャラクターを貼り合わせて顔の部分をくりぬき、たくさんの顔ハメパネルを展示する展示会場を作った。
「好評でしたし、便利な物を利用はしましたけど、工夫をしていないわけではないし、努力もしていましたので、私はいいだし物だったなあと思っています。文化的なのかとか、文化とは何かみたいなことを言われてしまうとなんとも言えませんね」
たしかに「文化祭」というのは、その定義をたどれば、「教育課程の一環として」開催される物であるし、「学習指導要領上の特別活動」に位置づけられているので、何をやってもいいというわけではない。
そもそもは「生徒が各教科における日頃の学習や活動の成果を総合的に発展させ、発表し合い、互いに干渉する行事」という考え方があるようだ。しかし、「模擬店」が認められている時点で、各教科での学びを生かす場=文化祭という基本の定義は成り立っているといえるのだろうか。