「乾杯」という鈴木さんのご主人の声がけとともに、四名はビールのグラスを合わせた。
「お互いの職業や年齢には触れず、無難にゴルフや旅行の話をしましたね。女性同士はネイルサロンや美容の話題で盛り上がっていましたよ。
奥さんが『アヤコさんは色白だから、ピンクのワンピースが映えるわね』と褒めれば、『奥さまもブラックシルクがお似合いで、お肌もツヤツヤで憧れてしまいます』という感じで、雰囲気は良かったです。
事実、鈴木さんの奥さんの肌はきめ細かでいかにも柔らかそうで、始終ドキドキしっぱなしでした。
そのせいもあって、食事中は料理の味がわからないほど、緊張してましたね。この後、アヤコは鈴木さんのご主人に抱かれ、僕は奥さんを抱く——もちろん、ベッドを断っても構わない。
決定のタイムリミットは、食後のデザートとコーヒーが出るまでだ。
僕は焦りました。横目でアヤコを見ると、鈴木さんご夫婦の話に楽しそうにうなずき、笑っています。
(アヤコ、いいんだな?)
僕は目で彼女にサインを送ると、妻はさらに笑みを深めたんです。鈴木さんのご主人の知的で紳士的な雰囲気に好感を持ったのでしょうね。
この後、僕たちはエレベーターで高層階に向かいました。
部屋は二部屋リザーブしており、鈴木さんご夫妻に『二組に分かれるか、一緒の部屋にするか』を問われました。
(いよいよだ……)
そう思った時、アヤコが『四人一緒の部屋がいい』と言ったんです。僕としては、てっきり二組に分かれたほうがお互いのためにもいいと思ったんですが、妻の希望通り同じ部屋に入りました」
二組の夫婦はこの後、どうしたのだろうか。後編に続く。
Text:作家 蒼井凜花
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