少子化の深刻化が叫ばれている。20~30代の将来の不安、低賃金などが言われているが、日本の夫婦の半数がレスだというデータがある。出典は性の大規模実態調査『ジャパンセックスサーベイ2020』だ。全国男女5000人を超える調査で、婚姻関係にあるカップルのセックスレスが51.9%という結果が出たのだ。現代の夫婦にとって、セックスレスは深刻なテーマの一つであることは動かし違い事実だ。
「結婚してからレスになるのはわかります。“家族”になったとたんにしなくなる。僕たちもお互いに31歳で結婚してからずっとレスでした」
そう語るのは、医師の田中武弘さん(34歳、仮名)だ。
武弘さんは顔も体も大きく、イケメンとは遠い容姿をしている。しかし、妻は元読者モデルかつ元客室乗務員。「美女と野獣」と揶揄されたカップルは、5年前に合コンで出会った。
交際期間の2年間は「体の相性がよかった」というだけあり、お互いに若く、寸暇を惜しんで体を重ねていた。
「でも、3年前に結婚したら冷めちゃった。“これからこの人とだけしか、肉体関係を持ってはいけない”という“重さ”に落ち込んじゃったんです。それに僕は“釣った魚に餌はやらない”タイプで、妻はそんな僕に幻滅したみたいです」
そして、コロナ禍が襲う。
武弘さんは勤務する大学病院に泊まり込みのような状態が続き、妻とほぼ1年半は顔を合せなかった。妻は勤務していた航空会社でリストラに遭い、専業主婦になっていた。コロナを恐れる妻は引きこもり生活に入り、タワマンの高層エリアの一室で、人に会わず、外にも出ない生活を続けていたという。
「久しぶりに家に帰ったら、ブクブクに太った妻がゴミだらけで薄暗い部屋の中で女性向けのエロ漫画をスマホで読んでいたんです。そんな姿を見てしまうとますますできなくなってしまう」
それから家庭内別居のような状態が続いていた。
武弘さんは毎日自宅に帰るようになり、夫は家に帰れば妻も掃除をしたり、洗濯をしたりするようになり、多少体は絞られた。
「それでも昔に比べると、太っている。髪も薄くなったし、肌も歯もボロボロ。臭いから抱くどころか近寄りたくない。
正直、美人だから結婚したのに、見る影もない。僕は医者ですよ。みんなが遊んでいるときに勉強ばかりしていた。それで医者になったのに、この程度の女としか結婚できない。子供も欲しいのに、作ることもできない。このときの人生の敗残者感は半端なかった」
妻を見下すようになったあるとき、高校の同級生にバッタリ会う。その男性は高校付属の大学に進学した、変わり者の劣等生だという。
「ウチの高校はトップレベルですが、大学の偏差値は低い。“付属に進学したら終わりだ”という雰囲気があります。友人はやればできるのに、高校時代から遊んで内部進学。卒業後はプログラミングの教育事業を立ち上げ、会社を売却して億万長者になっているとは聞いていました。
向こうから飲みに誘われ、気安さからいろいろ話すようになり、妻とのことをしゃべってしまったんです。かれはしばらく考えて、“奥さんと離婚したいの?”と聞いてきたんです」
改めて他人に「離婚したいか」と聞かれると、「別れたくない」と思った。それは妻を愛しているのではなく、また結婚するのがめんどくさいから。
「子供が欲しい。しかし、34歳の今から、“信頼できる女性”をと出会い、結婚するまでに気の遠くなるような過程がある。
その点、妻は名門女子大卒、米国留学経験があり、ブランド物などのバカ買いをしない。妻の家族も信頼できるんです。妻の父親はメガバンクの元役員、母親は地域福祉のNPOを運営している。兄は地元でイタリアンレストランを経営し、娘2人は名門女子中学校に進学している。妹はテレビ局に勤務しており、独身でバリバリ仕事をしている。言うことない家族です。産ませるのなら、彼女しか考えられません」
友人に妻との関係を改善したいことを打ち明けると、「僕の彼女と4人でメシを食おう」と誘われた。日時と場所は指定され、その日以外はダメだという。武弘さんは当直があったが後輩に代わってもらい、渋る妻を説得して広尾のレストランに向かう。
イタリアンレストランの個室で、友人は40歳くらいの女性を連れていた。会話も知的で優しく、妻も昔のような凛々しさを取り戻す。2時間程度の食事を終え、2次会に行こうという。妻も武弘さんも快諾し、武弘さんと友人、妻と女性の2台に別れてタクシーに乗り、次の店に向かう。
「タクシーの車内で、“次の店は夫婦交換の店なんだ。きっとお前たち夫婦にいい変化があると思うよ。奥さんには俺の彼女から話をしている。興味があるみたいだよ”と耳打ちされたんです」
夫婦交換とは、複数のカップルが一堂に会し、パートナーを交換して性交渉を楽しむことをいう。自分の妻や夫が別の人と体を重ねている所を見て、快楽を得たり、愛情を再確認することが目的だという。
「よくわからなかったけれど、断れる状況でもなかったので行くと、そこは都心のタワマンのパーティールーム。受付で5万円を現金で支払い、バスローブを渡されて、試着室のようなところに行き、身に着けている一切合切を大きな袋に入れました。リストバンドを腕に巻き、シャワーを浴び、ボディチェックを受けて会場に行く。30平米くらいのリビングには、30~50代と思しき20人くらいの男女がバスローブ姿でくつろいでおり、中にはキスをしている人もいました」
圧倒されていると、武弘さんの手を30半ばくらいのふくよかな女性が握って来た。そしてシャンパングラスを渡されたという。
「女性はとても肉感的でした。太っているけれど、体に金がかかっていることは、肌の滑らかさからもわかりました。女性からキスをされると、あっという間に戦闘態勢になってしまった」
しかし、その時妻はどうしていたのだろうか? さらに取材を進めると、そこには常識人の想像を超えた世界が広がっていた。次回では知られざる夫婦交換の実態を、さらに詳細にレポートしていく。
沢木文