中古車販売『ビッグモーター』のとんでもない不正が連日報道されている。不適切な保険請求に始まり、故意に車体やタイヤに傷をつけるなどの不適切行為、店前の街路樹に除草剤散布など、出るわ出るわのオンパレード。さらに副社長からの恐ろしすぎるLINEや上司から部下への罵声など、パワハラ体質も露呈した。
今はSNSで誰もが情報を拡散できる時代だ。上層部の面々が社員や元社員にこのような醜態を晒されることになると1ミリも思っていなかったと思うとそちらもまた恐ろしい。完全に旧時代で止まってしまった、化石のような会社体質だったといえよう。
2023年になってもこのような会社があることに恐怖を感じざるをえないが、これが現実なのだ。しかもこれはビッグモーターだけに限ったことではないらしい。
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高山信彦さん(仮名・42歳)は、運送会社で働いて半年になる。元々は食品会社で営業として働いていたがリストラを促され早期退職。再就職でこの会社に入った。
「営業として採用されました。食品会社とは畑が違うこともあり、戸惑うことが多いというのが卒直な感想です」。
業務内容はもちろんだが、なにより驚いたのは会社の体質だったという。
「ビッグモーターが話題になっていますけど、正直驚きませんでした。うちも大して変わりませんから」。
高山さんが初めてパワハラを見かけたのは、入社して1週間ほど経った頃だったという。
「ドライバーのみなさんは、営業とは異なる詰所にいます。その詰所を訪れたときに少し見たんです」。
20代の社員に対して部長クラスの社員が詰め寄っていたというのだ。
「こんなこともできないのかよ!って言ってるのが聞こえて、ああ…と思いました。これくらいならまだ許せるというか、まあよくあるシーンだなと思っていたんですが、次の瞬間、ぎょっとしました」。
なんとその上司が部下の胸ぐらをつかんだというのだ。
「昭和っていうか、こんな古典的なパワハラがまだあることに驚愕しました。前いた会社でも嫌味を言われることはありましたが、ここまで威圧的なものはありませんでした。そういう意味では初めて見たパワハラだったのかもしれないですね」
高山さんの視線に気がついたのはその上司は、手を離して、ちゃんとやれよと言い残し、その場を離れていったという。
「パワハラを受けていた社員も小走りでその場を去っていきました。なんだか、嫌なもの見ちゃったなと言う感じで、その日は少し沈んだ気持ちになりました。でもそんなことはすぐに忘れてまた日常に戻ったんですが…」。
次に詰所を訪れるとその部下は仕事を辞めていたというのだ。
「びっくりしました。ドライバーの人と飲みにいった先で、その話を聞かされたんですが…。なんでもあの上司、もう10人以上、辞めさせているっていうんですよ。詳しく聞くとそのやり口が結構ひどくて…」。
その上司はまず、ターゲットを決めるんだという。
「僕から見るとその上司は静かそうで、お世辞にも強そうとは言えません。狙う相手は大抵新人。自分で教育係を名乗っています」。
上司のやり口は、まずはLINEでの嫌がらせから始まるらしい。
「例えばね、遅刻とか、車を少しこすっちゃったとか。確かにそれらは常習化するとまずい案件です。とは言えね、ネチネチネチネチそのことを言い続けるらしいんですよ。例えば…」。
ーこの前こすったところ、修理おわった?
こんな優しいトークから始まるそうだ。
「しかもこれは部署のグループLINEで行われるそうです。個人攻撃されるよりマシなのかもしれませんけど…。気にしている素振りのラインから徐々に、〇月〇日以来何度目の事故だねとか、運転のセンスがないんじゃないとか、終いには向いてないから、早く辞めれば?とか。これ、労基とかに訴えられたら一発アウトって気がするんですけど」。
しかし、部下たちが訴えたことはこれまで見たことがないという。
「面倒臭いって思っちゃうんじゃないかな。ここにいるドライバーさんたちのなかには学歴や職歴、それからこれまでの人生にコンプレックスを持っている人も多くて、そういう人は他人に相談することをもはや諦めている節があるんですよね」。
グループLINEでの攻撃は大抵、他人の一言で終結を迎える。
「見てる他の人も嫌になりますよね。それでたいてい、誰かが別の話題を投入するそうなんです。どこそこのパーキングのアレが美味しいよとか、あそこのトイレが回収されましたよとか。そうするとその上司も共有ライン攻撃は諦めるんです」。
これを合図に上司は個人LINE攻撃を仕掛けるという。
「それこそビッグモーターばりに罵詈雑言を羅列してくるらしいんです。クズ、役立たず、馬鹿…こんな言葉から、さらにひどいものまで。この攻撃で心が折れて辞めちゃう子が多いみたいです」。
会社側は何も言わないのだろうか?
「その上司は運航管理者という国家資格を持っているんです。この会社は人数がさほど多くなく、この資格を保有しているのは彼ともう1人だけ。営業所ごとに必要な選任数が2名なので、彼が辞めてしまうと会社的には困るため、辞めさせることができず、黙認という形になってしまうみたいなんです」。
高山さんが冒頭で見たのは、この上司の最終手段だ。
「暴力というか、ぐっと体で詰め寄るというか。この話を上司のやり口を聞いて、次その現場に出くわしたら、一言言ってやろうと思いました。同じドライバー同士だと言えないことでも、僕なら言えるんじゃないかって…それが間違いというか、不幸の始まりでした」。
ある日、詰所によると25歳の新人ドライバーがまた例の上司にどやされていたという。
「この日は言葉攻撃だけでしたけど、ネチネチ、ネチネチ、ネチネチ言われていたんです。僕は意を決して、言うことにしたんですよ」。
ー今の時代、そんなことやっていたら、誰かに必ず訴えられますよ。
「上司はギロッと僕の顔を見て、睨みつけてきました。そして無言で去っていきました。やってやったと思ったんですが…」
パワハラ上司を成敗したと思った高山さんの身に起きた想像もしなかった悪夢のような出来事とは?後編ではその恐ろしいやり口を克明にリポートしていく。