「この前のキャンプで気づいた? 夜、大人だけで飲んでいたとき、藤井さんのパパが奥さんの腰にさりげなく手を添えていて、いやらしさもなくてすごく自然で素敵だったよね〜」
洗濯物を畳みながら、小百合(仮名・39歳)は夫の隆(仮名)に話しかけた。
「そうか?人前でベタベタしてて、むしろ格好悪いって俺は思ったけど」
「そんなことないよ。奥さんと手分けしてテキパキ料理しながら、『ありがとう』『お、さすがママ』なんてほめてるし。きっといつものことなんだろうね。
料理を配るときも『これ、うちのがキャンプで必ず作るスープなんですが、本当に美味しいんですよ。ぜひ食べて!』な〜んて、奥さんをちゃんと立ててるのが素敵だと思ったわ。いいなぁ、藤井さんの奥さん、愛されてるなぁ。
……パパは私がごはん作っても、ありがとうとか、美味しいとか、全然言わないよねぇ」
「いや、ちょっと待てよ。いっつもごはんは完食してるし、おかわりだってしてるじゃん。旨くなかったらおかわりなんてしないよ。掃除や洗濯だっていっつも感謝してるよ。たださ、結婚して10年もたって、いまさら照れくさいし、改めて言わなくてもわかるでしょ?」
言わなくてもわかるでしょ。
言わなくても伝わっているよね。
なに? その自分にだけ都合のいい解釈。
感謝の気持ちなんて、きちんと言葉にしないと伝わらないよ……。
あなたは、ごはんを作るのも、掃除をするのも、洗濯をするのも、私がやるのは当たり前って態度で、“今さら” 感謝を伝えようなんて努力はしない。というより、そんなことを思いつきもしていない。
そのくせ、自分がたま〜に料理をしたり、家事をしたりすると、これみよがしに「すごいだろ俺、感謝しろ」アピールをしてくる。
はぁ、なんだか、疲れちゃったな……。
もう、いっか……。
小百合は独り言のように、でもきっぱりと隆に言う。
「もう疲れちゃった、私。隆、離婚してくれない?」
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果たして、小百合が「離婚したい」と言いだした理由は? 隆はどこで、何を、誤ったのか?
【後編はこちら】「まさかそんなことで……」小百合が離婚したいと言いだした理由
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