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LIFESTYLE 女たちの事件簿

「普通の人が、傷つけてくる…」38歳、トランスジェンダー男性が語る「私が受けたトラウマ性被害の実態」

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不倫や浮気、DVにプチ風俗……。妻として、母として、ひとりの女性として社会生活を営み、穏やかに微笑んでいる彼女たちが密かに抱えている秘密とは? 夫やパートナーはもちろん、ごく近しい知人のみしか知らない、女たちの「裏の顔」をリサーチ。ほら、いまあなたの隣にいる女性も、もしかしたら……。

ジャパニーズポップ界の偉人•山下達郎氏のラジオでの発言が物議を醸した。誤解を恐れずに言えば、炎上である。事の発端は山下氏と同じ事務所に所属していた松尾潔氏の契約解除問題だ。松尾氏のSNSでの発言に対して、山下達郎氏がラジオで見解を述べたという構図だ。

内閣府の男女共同参画局の調査によると性暴力被害にあった男性の7割が誰にも相談していなかった。しないのではなく、おそらくできないのだろう。加害者の多くは交際相手や配偶者、職場の関係者など、そのほとんどが知った顔。男性が性被害にあったときの状況については、「相手との関係性から否定できなかった」「驚きや混乱等で体が動かなかった」「相手から、脅された」という回答が多かったという。

話を戻そう。山下氏が炎上した一因は、この性被害の首謀者かもしれない人物を擁護したとも取れる発言をしたことにある。真意はわからない。しかし、先の調査結果からもわかるように多くの性被害者たちは、相談することを躊躇い、じっと押し黙っているのだ。傷ついた心を抱えて。その事実への配慮、そして想像力の欠如が多くのファンたちを落胆させたことはいうまでもない。

今回のこの一件を見て連絡をくれた人がいる。
彼はトランスジェンダーであり、性被害体験者でもある人物だ。

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近藤ケイさん(仮名・38歳)は、都内で会社を経営している実業家だ。

「身体の性別と心の性別に違和感を覚えたのは、小学生高学年。もともとスポーツが得意で男の子たちと遊ぶことが多かったんです。背も高かったですしね。バスケ部に入ることになったんですけど、身体の性別が女だったから、もちろん女子部にしか入れなかったんです。初めは納得いきませんでしたが、入部して活躍を始めたら、女の子たちからかっこいいと言われるようになり、ハッとしました。自分で言うのもあれですけど、かなりモテました。試合のたびに黄色い声援が飛んでましたよ」。

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©gettyimages

徐々に自身がトランスジェンダーなのでは?と思うようになったという。

「とはいえ、その頃はそんな言葉知らなかったのでレズビアンに該当するんだと思っていました。今のようにスマホでいろんなことを調べるなんてことできなかったんで、不安もすごく多かったです。まるで自分だけが違う生き物のようで。でもそんな気持ちを受け止めてくれる存在ができたんです。それが最初の彼女です」。

中学生に入ると付き合うようになったという。

「密かに、ですけど。周りからは仲のいい親友的に写っていたかもしれません。でも、やることはやっていました。彼女の方がすごく積極的で、完全に引っ張られる形でしたね」。

しかし、半年くらい経つとよからぬ噂を流されるようになった。

「彼女に告って振られた男子が僕らの関係を疑って、レズって呼ぶようになったんです。腹いせですよね、きっと。その一言で今まで普通に話していたクラスメイトたちがだんだん話をしてくれなくなってしまって、結構ひどいいじめに合いました。その仕打ちに彼女の方が先に耐えられなくなりました。でも彼女が学校に来れなくなって、正直、僕ほっとしたんです。そのときは彼女を守るほど強くいられなかったので。そもそも自分自身が何者かもこの一件でわからなくなってしまった。地獄のような日々でした」。

彼女とは結局、自然消滅。今でも後悔は消えない。謝りたい気持ちがあるんだという。

「守りきれなくて傷つけてごめんねと。彼女もきっと地獄を見たはずだから」

こうして、ケイさんは高校生になり、本当の自分を隠すようになったと話す。

「あんな生活をするくらいなら、無かったことにしようって。まるで当たり前みたいに短いスカートを履いて、女子高生になりました。彼氏も作りましたよ。キスをしたり、セックスをすればするほど、虚しくなって、自分で自分のことが本当に嫌になりました。紆余曲折ありましたがいじめられるより、自分を偽ることの方が辛いと知って、そこから海外留学の道を選びました」。

海外では初めこそ苦労したが、徐々に自分自身の体と心の性別に隔たりがあることを受け入れられるようになっていったという。

「あの時期がなければ、今こんな風に生きていないかもしれません。それくらい留学で出会った人たちに救われました。周りと違う…日本にいるときはそれが苦痛で仕方がなかった。でもこちらではそれが当たり前。個人主義というのかな。それがものすごく心地よかった。だからこそ、あんなことになるなんて思っていなかったんです」。

語学学校に通うメンバーは国籍はもちろんジェンダーもさまざま。そのなかに同じ日本人がいた。

「せっかく留学に来たので日本人ではない人と仲良くなりたいと思っていたんですが、彼女がすごく懐いてくれて…無下にはできず、徐々に仲良くなりました」。

深い話をするようになって知ったのは、その彼女もまたトランスジェンダーだということ。

「そのことで絆がかなり深まったのは事実です。年齢もこれまで置かれてきた環境も近しいものがあって、いろいろ共感できることが多すぎて…。中学とか高校での辛かった話なんか、いくらでも話せましたね。留学はお金の都合もあって僕は2年で終えました。彼女も同じタイミングで日本に帰国したので、それからも変わらず遊ぶような関係が続いていました」。

そんな彼女があるとき、何人かで飲もうと誘ってきたという。

「彼女には、話によると5人の幼馴染がいました。同じ団地内に暮らしてきて仲間で気心もしれていて、彼女のジェンダーについても理解があると話していました。メンバー構成は男性が4人に女性が1人。恋愛関係などはまるでないれっきとした幼馴染だと彼女は話していました」。

ケイさんは正直、乗り気ではなかったものの彼女の幼馴染に紹介したいという気持ちを尊重すべく、飲み会に参加することにした。

「気が重かったです。物珍しいというか、奇異の目で見られるんじゃないかと思って。でもまぁ飲むだけだしと腹を括って参加を決めたと記憶しています。それに彼女がわざわざ紹介したいというくらいだから、そういうことへの理解がしっかりあるメンバーだろうと。すっかり安心をしてしまったんですね。それがまずかった」。

ケイさんの読みはある意味で大きく外れることになる。

「居酒屋の個室で5人で飲みました。予想に反してはじめはすごく楽しかったです。みんなが無理なく、輪に入れてくれて心地よかった。確かにジェンダーへの理解もあると肌で感じました。だから、二次会のカラオケに誘われたときも二つ返事で行くと言ったんです。カラオケを出る頃には結構酔いも回っていて、僕は次の日バイトが入っていたこともあり、帰ることにしました。そうしたら俺も!ともう1人男の子が帰ると言い出したんです」。

どうやら彼も翌日早朝からバイトがあるようだった。終電はすっかりすぎていたので、歩いて帰るか!そんな話になったという。

「話をすると家が結構近いことがわかったんです。カラオケから歩いて20、30分だったので、酔い覚ましもかねて歩いて帰ることになりました。はじめは当たり障りのない世間話をしていましたね。特に変な雰囲気ではありませんでした」。

深夜だったこともあり、人通りはかなり少なく、住宅街に入ると街灯はまばらで薄暗かったという。お互いにどのあたりに家があるか話しているときだった。彼の手が急にケイさんの腕にのびてきて…。

必死の思いでその腕から抜け出し、ケイさんは力の限り走ったという。

「生きた心地がしませんでした。玄関を開けて鍵を閉めて、そこでうずくまり、しばらく動くことができませんでした。1時間くらいしても誰かがくる気配はなかったので、追いかけてこなかったようです。夜中になってそいつからLINEが入ってきました。ごめんって。ちょっと興味がわいちゃった…って。愕然としました。全然わかってなかったんだって。でも彼女に確認することもできなかった。傷つけてしまうことが怖くて。結局それ以来連絡は取っていません」。

その日を境にケイさんはまた、自暴自棄な暮らしを始めることになる。

「トラウマ、でしょうね。それから人間不信。もう何もかもが嫌で生きていることが辛くて辛くて仕方がなかった。誰にも会いたくない。会えない。そんな暮らしが半年ほど続きました」。

ケイさんに突然訪れた出来事。「相手との関係性から否定できなかった」という性被害のリアルな実態について後編で詳しく話を聞いていく。

取材・文/悠木律



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