外出先のレストランでも「ケンジの基準」に満たない対応をするスタッフには容赦なく文句を言った。知識や経験を織り交ぜながら雄弁に説教する様子は、どこか気持ち良さそうにも見えた。
ミホはその横で成す術もなくうつむくのみ。
かつて「あそこまで言わなくても……」とやんわり伝えたところ、ケンジが目くじらを立てて怒り出したからだ。
少しでも批判されると、自分勝手にこじつけた理由をくどくどと半日も語って聞かせ、挙句「社会経験のないやつには分からない、黙って横で勉強しろ」と最後に言うのがケンジのお決まりのパターン。
社会経験が少ないながらも、親の後ろ姿をしっかりと見て育ったミホにはケンジの言葉や行動がおかしいことくらい分かった。そう思っていても反論する機会は与えられず、次第に意見を言うことさえ無駄に思え、ケンジを怒らせないよう従順になっていった。
RANKING
3
4
5
2
3
4
5