彼女はうつむいたまま、「フラれたんです、ジュンさんに」。そう言った。
「私、彼と同じ会社に勤めているんです。中途採用で慣れない業務を任されて困っていた時、ジュンさんは優しく声をかけてくれたり、残業して手伝ってくれたり。気づけば彼を好きになっていました。二ヵ月ほど前、残業で2人きりになった時、思い切って告白したんです。奥さんがいてもお子さんがいても好きですって……」
「もしかして、不倫の関係にあったんですか?」
ミサキさんが訊くと、彼女は首を振った。
「逆です。私は不倫でもいいから愛されたかった。でも、『妻と子供がいるから、付き合えない』ってきっぱり断られて。それ以来、会社では避けられるようになりました。目も合わせてもらえないほど嫌われてしまいました。
だから、せめて行為中の動画が欲しいって、探偵事務所に依頼したんです。もちろん、奥さんにバラして家族を壊そうなんて思いません。ただ、彼の行為中の姿を見たかった……」
そこまで言うと、彼女は一礼して足早に去っていったという。
事情を知り、ミサキさんはしばらく呆然とした。依頼には、かなりの金額を払っているはずだ。愛情と言うよりも執念を感じてしまう。
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