空き家問題の深刻化が叫ばれて久しいが、その実態は我々の想像をはるかに超えているのかもしれない。住宅・土地統計調査(総務省)によれば、全国の空き家の総数は2018年までの20年間で約1.5倍(576 万戸→849万戸)に増加したのだという。
空き家問題は、建物の老朽化による景観の悪化や倒壊の危険、犯罪の温床となるリスクなど、所有者以外の地域住民にも影響が及ぶため、他人事ではない。2018年の調査において判明した全国の空き家率は13.6%だったが、総務省の調査は5年おきに実施されているもので、まもなく数値が更新される。最新情報を注視し、当事者意識をもってこの問題を考えたい。
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佐和子さん、利律子さん(いずれも仮名)は年子の姉妹。3年近く前に母親を亡くし、2人は40代にして両親との今生の別れを経験した。父親は母が逝去する4年前に亡くなっていた。姉妹はともに20年ほど前に結婚し、それぞれ遠方に移住。両親は長きにわたって2人で暮らしてきたという。
「父親はクリーニング店を経営していました。夫婦で店を切り盛りしていて、私たちが子供の頃は、町内だけではなく近隣地域からもたくさんのお客さんが通ってきてくれて、繁盛していましたね」
姉の佐和子さんは、昔を懐かしむように語り始めた。妹の利律子さんが言葉を継ぐ。
「実家は2階建てで、1階部分がクリーニング店、奥に台所と水回りがあり、居住スペースは2階でした。大きな家ではないですが、広い物干し台があり、姉とそこで遊んだり家族でお月見をしたりするのが楽しみでした」
姉妹が独立した後も、両親は勤勉にクリーニング店を続けた。父はどんな汚れも丁寧に落とす真面目な職人で、お客さんからの信頼は厚かったという。さらに利律子さんはこう続けた。
「父は店で亡くなりました。倒れているのを母が見つけて救急車で運ばれたんですが間に合わなくて。脳梗塞だったんです。母親はその日1日中出かけていたらしく、発見が遅れたことが命取りだったようで......」
夫婦二人三脚で営んできたクリーニング店は、その後母が引き継ぐことになったが、それまで配達や事務を担当していた母には、父と同等の仕事をすることはできなかった。雇用も検討したが、うまくはいかなかったという。
「続ける方法をいろいろ考えましたが、結局店は閉店し、母はパートに出て働くようになりました。クリーニング店舗部分はそれ以来遊ばせてきたんです」
姉の佐和子さんは、思い出したようにこう言い出した。
「父と母は仕事人間でしたが、唯一の趣味が庭いじりでした。母は店を継ぐことはできなかったですが、父と一緒に世話した自慢の庭だけは、店の閉店後も大切にしていました。母には申し訳ないんですけど、今私たちが実家の売却を検討するなかで、売るにしても活用するにしても、どのみちこの庭は解体しなければなりません」