デートの場所に選んだのはB級グルメの食フェスだ。香織は初対面の日とはうって変わってカジュアルな服装だった。
「可愛いかった。正直めちゃくちゃ可愛いと思いました。久しぶりに、初恋のように胸がときめきましたね。妻には感じたことがない魅力がありました」
「餃子や唐揚げ、焼きそば、甘いもの。色々買ってシェアしました。昼間からビールも飲みましたね。そのときの香織の飲みっぷりは、品がありながらも豪快で、見ていて気持ち良かった。その日はお酒の効果もあって、好きな異性のタイプの話なんかもしました。香織のタイプは、温厚で包容力があって、周りから慕われる人。自分に当てはまってるんじゃないかって、期待したりして」
最後のデートと決めていた隆士だったが、香織から『隆士さんに会いたいです』と連絡が来ると、まんまと次の約束をしてしまった。隆士の決意はあっさりと破られたのだ。
頻繁に会うようになった二人。毎回お茶やランチを楽しんだあとに散歩する程度の健全な付き合いだったが、万が一知り合いに見られてはいけないので会うのは香織の住む神戸と決めていた。
「ショッピングをしたり、時にはゴルフの打ちっぱなしをしたりと、デートを楽しむ関係になりました。遠い昔の記憶の片隅にあった恋愛感情がふつふつと沸き起こってきてそれはもう、毎日がハッピーでしたね。」
香織は不動産会社の事務員として働くOLで、社会人になってからは神戸で一人暮らしをしている。
父親の暴力が原因で小学校の頃に両親が離婚。母親に引き取られ、社会人になるまでは母親の実家で祖父母と共に暮らしていた。
母や祖父母からは惜しみない愛情を注がれた。しかし、父親がいないことで生じた心の隙間のようなものがあったのではないかと隆士は言う。
「香織には父親から受けた愛情の記憶がないんです。本人は、はっきりとは言っていませんでしたが、自分の知らない父親の愛を探すためにパパ活で年上の男性と出会っていたのではないかと、そう思いますね。私にも父親の姿を重ねていたのではないかと……」
出会って二ヵ月が経った頃には、夕食も共にする機会も生まれた。
「私から夜に誘うのは気が引けたのですが、香織が誘ってくれたので嬉しかったですね。二人で居酒屋によく行くようになりました。職場の悩みはもちろん、香織には不思議となんでも話せるような気がしたんです。香織はお酒が入ると少しずつ、私に体を寄せてきたり自然と手を握るようになったりして。ボディタッチも増えていいムードに。そりゃあ私も男ですから、自分を制御することに必死でしたね」
隆士は、香織が明らかに、自分に父親以上の役割を求めているように感じていたという。
「香織に聞いてみました。今もパパ活の仕事で別の男と会っているのか。本当かは定かではありませんが、私と会うようになってから、パパ活の仕事は辞めたと言っていましたね。香織が嘘をついているようには見えませんでした。」
必ず終電までには帰る。体の関係は持たない。会う頻度が増えても、絶対に一線は越えないと固く誓っていたという。
だが、その誓いは破られることになる。
☆次回、若い香織との本気の恋愛に目覚めた隆士を襲った悲劇を詳報する☆
ライター 成宮つむぎ