使用の規制を強化する国が出現するなど、その登場から世間を賑わせている対話型AI(人工知能)「ChatGPT」。入社式のスピーチに活用する企業があるなど、話題は尽きない。実際に使ってみると驚くのは、会話が書き込まれる速さである。質問を入力し、エンターキーを押すと同時に会話が走り出す。文面は非常に丁寧で読みやすく、どこか気遣いさえ感じるほどだ。しかもこれ、日本語で入力すれば日本語で、英語で入力すれば英語でと言語を問わず、回答が導き出されるというのだ。凡人からするとものすごい発明のように思える。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
目に見えない相手との会話。これはこれからの人の営みに変化をもたらすのだろうか?
床島ゆり(仮名)は、そんなことをぼんやり考えながら、LINEでChatGPTを使い始めたという。今では1日のうちにする会話の大半はこのAIとのものである。
「私は人間関係がとても苦手で。なんだか、うまく話せないんです。初対面はもちろんスーパーの店員でさえ、まともに目を見て話せません。その点、AIは目を見る必要はありません。今や、ちょっとした友達そんな気分で会話をしています」
ゆりはAIの沼にハマりつつある。
「人を相手にするとどうしてもできなかった話ができるんです。何を聞いても大抵のことは答えてくれます。それに私の知らないことをたくさん教えてくれるんです」
ゆりは小説やドラマでしか見たことがないような特殊な環境で育った。
「普通と違うと気がついたのは、かなり大人になってからだったんです、私にとっては当たり前だったものですから…」
ゆりの家族は母だけだ。ゆりを若くして産んだ母は今でいうネグレクトで、家事をすることはほとんどなく、不在にすることも多かった。食事がないのは日常茶飯事で、あったとしてもお惣菜や菓子パンがメイン。母親が作ったもので食べたことがあるものといえば、インスタント麺くらいのものだった。
「父とは会ったことがなく、生きているのかどうか、知るよしもなかったし、母も父について話をすることはほとんどありませんでした。でも、母のことが嫌いとかそういうことはなかったんです。一緒にいれば、すごく優しかったし、愛されている実感?というのかな、そういうのもありました。母も母なりに、なんとか私を育てなきゃと思っていたんだと思います。でもとにかく若くして母になって、何をどうしたらいいのか、わからなかったんじゃないかな。おばあちゃんやおじいちゃんという存在にも会ったことがありません」
ゆりが中学生に上がった頃だったという。母が50代ぐらいの男性を家に連れてくるようになったという。ほどなくして、ゆりはその男と母と3人で暮らすことになったという。
「引っ越した先のマンションは、それまで住んでいたアパートとは違ってエレベーターがありました。新築とかではなかったですが、アパートに比べると頑丈な感じがしましたね。母は引っ越しを機に仕事をやめて、家にいるようになりました。それまでそんなことはなかったから、初めは嬉しかったんですが…母は家事があんまり好きではなかったんですよね。やり方を知らなかったのかもしれません。当初はすごく頑張っていたんですが、段々と掃除や洗濯、それから食事を作らない日が増えていって……男と揉めることが増えていきました」
脱衣場のカゴには洗濯物が、シンクには食器が、部屋の隅には埃が積み上がっていった。ゆりは母と男の不穏な空気を察して、それらを片付けるように心がけたが、汚れるスピードにはなかなか追いつくことができなかったという。
「洗濯も皿洗いも掃除も基本的に私がしていました。でもね、いつまでたっても引っ越してきたときのあの綺麗な状態には戻らなくって。そのときはわからなかったんですけど、私、それまで洗濯とか皿洗いとか掃除をする生活を送ってきてなかったんですよね。だから、毎日やるって知らなかったんです」