和子は、最後に帰宅してきた長男にも訴えた。
「私が買ってきたヘルメットが、自転車用じゃないと言ってかぶらせないんだって。そうしたら息子、急に笑い出して」
長男は和子に、こう言い聞かせた。
「母さんがくれたヘルメットは、工事の人とかがかぶるやつだよ。確かに頭を守るって意味ではそれでもいいんだけどね、自転車に乗るときは自転車用のヘルメットをかぶるんだよ。自転車用ヘルメットは、どんどんオシャレなやつが出てきているしね」
孫が使っているヘルメットは、長男が購入したものだという。孫が乗っているマウンテンバイクとよく合ったシャープなフォルムのヘルメットだ。
「顔から火が出るほど、恥ずかしかったです。私が被っていたのが工事用のもので、自転車は専用のものをかぶるんだって。しかも3ヵ月近くもかぶっていたんですよ。どうして誰もそれは違うと教えてくれなかったのかって、苛立ちも感じました」
長男一家は、和子の行動を否定することにためらいがあったのだろう。その行動が、善意から来るものだとわかっていただけに。
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