すみれは怒りが込み上げてきた。思い返せば、彼女が翔と凛に触れたことはない。子どもと何が違うというのだ。気がついたときには、すみれは彼女に向かって歩き出していた。
「声をかけました。彼女はびっくりしているようでした。気持ちが昂っていたので、思いのままを吐き出してしまいました。翔と凛は家族同然の存在で、そんな子たちを家に連れて行ったくらいで、なぜ避けられなきゃならないのかと。私の剣幕にびっくりしたのか、子どもが泣き出してしまいました」
子どもと母親は、ここにいてはいけない……そんな気配を察し、その場からすぐに立ち去った。彼女は彼らを見送るように手を振り、すみれの方を振り返ってこういったという。
ー常識、だと思いますよ、他人の家にいくときに、ペットを連れて行っていいか尋ねるのは。しかも外を歩いた足をさっと拭いただけで家に上がられたら、誰だって嫌だと思うでしょう?あなたは土足で人を家に入れるんですか?私も昔は犬を飼っていましたから、家族だという気持ちはよくわかります。でもそれとこれとは別です。あなたのような人がいるから、ペットを飼っている人が非常識だと思われるんですよ。人類、みんなが犬を好きな訳じゃないんですよ?ー
すみれはあっけにとられて何も言うことができなかった。彼女はペコリと会釈をして、すみれを残し、そのまま遊歩道を歩いて行ってしまった。
「信じられませんでした。こんなに可愛い翔と凛を好きじゃない人がいるなんて、想像したこともなかったんです」
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