「それは聞かないでください。あるに決まってます。今日、ちょっと売上良かったんだよ、と人なつっこい笑顔で報告されたりすると、申し訳なくて胸が潰れそうになります。心の中でごめんねと呟きながらも、週に1度くらいは弟のマンションへ行ってしまうんです。弟からお金を借りているうえに体の関係を持っていると知ったら、夫はどうなってしまうだろう。そう思うと、いたたまれない気持ちになります。離婚されても仕方がないと思ってます」
目の前に夫がいる場面でも想像したのか、うなだれ、憔悴した様子で雪乃は言った。
「私が悪いんです。それはわかっていますし、夫と離婚すべきなのかもしれません。でも、会社は今も依然として苦境にありますので、夫を支えていきたい気持ちに変わりはないんです。かといって、弟とそうしたい気持ちも抑えられません。自分で自分がわからなくて、困っています…ごめんなさい…私は最悪な女ですね」
雪乃はこれまで出会ったことがない自分自身を知って戸惑っていた。不倫は絶対的悪だとしても、人にはキレイごとだけで片付けられない複雑な心理があるということか。雪乃が今後どんな決断を下すにしても、それが彼女と家庭にとって最良の選択であってほしい。
ライター 中小林亜紀
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