「あの人、若い頃から外では教師として聖人の顔を守ってたの。仕事は本当に頑張っていたと思うわ。真面目で、私の知る限り浮気もなかった。でもその代わり、家での楽しみは…その…私と、そういうことをすることだけだったみたいなの。恥ずかしい話ね」
姑はできる限り舅の望みを叶えてやろうと努めたが、毎晩のように性行為を求めてくる夫に心身がついていけなかったのだという。
「私、それが苦痛で。あの人が寝室に来るのがだんだん怖くなってね。30年近く前かしら、ちょっと鬱のようになってしまって、それ以来医師の勧めで寝室を分けたの。そうしたら主人は欲求のやり場に困ったのか、遠方の花街っていうのかしら、そういう所で性サービスを受けることを趣味にし出したの。今でも行ってるんじゃないかしら。私、それはそれで嫌だったんだけど、自分が拒んだせいだと思って、見て見ぬふりをしてきたのよ。私の見える所に下着姿の女の子の写真がついた名刺みたいなものを置いたりして、あの人」
泣き出した姑の背中をさすりながら、とてもじゃないが録音データは聞かせられないと思った、と琴子は言う。姑が今でも導眠剤を飲んでいるのは、舅の頻繁な風俗通いを黙認せざるを得なかったことが原因なのかもしれない。そう考えると、姑が不憫でならなかった。
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