婚約者を無下にすることなど到底不可能だし、だからといって愛しい美花を手放す選択肢もなかった。美花と付き合ったときはまだ結婚をしていなかったし、その後も自分は独身であると嘘をついていたつもりはなかった。美花も今の妻も、ただそれぞれを大切にしているだけだった。無自覚ゆえの酷い傲慢だ。
美花自身も「他に誰かいるのかな」と感づきつつも優しく接してくれていたのだろうか。そんな中でも、美花がつくる手料理はよく遊びに来る美花のお母さんも手伝ってくれていたと聞いた時は、なにやらズキッと心が痛んだ気がした。
うなだれるように飲み会から帰宅した良助は大きなお腹を抱えて出迎えてくれた妻に初めて顔を背けてしまった。
「自分は何をしたかったんだっけ」
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