山村奈々子は、高校時代からクラスの女王様だった。
由貴たちの町は田舎なので、幼稚園から一緒の幼なじみも多いのだが、奈々子はそうではない。
彼女はいわゆる帰国子女で、外国育ち。この町で過ごしたのは、高校3年間だけだ。
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おっとりと育った由貴たちの中で、奈々子は異彩を放っていた。実家は代々資産家なので、ただでさえ目立つ。さらに、美人であか抜けているのだ。
テレビで見るような外国風の家に住む、オシャレな家族。奈々子一家は、たちまち憧れの的になった。
さらに、同級生になってみると、奈々子は本当に優秀だとわかる。成績が良く、スポーツもこなす。帰国子女らしく語学に堪能で、英語はもちろんのこと、中国語とスペイン語の日常会話もできるそうだ。
そして教師や上級生相手でも、堂々と意見をのべる奈々子は、すぐにみんなの心をつかむ。クラスの女王様になるまで、時間はかからなかった。
ガキ大将気取りの暴れ者たちまでが、奈々子に「飼い慣らされて」しまったのは伝説だ。彼らは今も奈々子のグループにいる。
のんびり屋の由貴は、奈々子との接点は多くなかったが、いくつか覚えている会話内容はある。由貴が、いつも注目されてて大変だね、と言うと、奈々子は笑って答えた。
「慣れてるから平気だよ。日本人が珍しい国にいたからね」
「そうなんだ。自分の意見をはっきり言えるし、いつもカッコいいと思う」
「それも、外国にいたからかな。おとなしくしてると、なめられてバカにされるのよ」
奈々子は気さくで、決して威張ることがなかった。非の打ち所がない彼女をやっかむ者はいたが、陰口を言うくらいしかできない。
由貴を含めた多くの同級生は、素直に奈々子の優秀さを認め、そのリーダーシップに導かれていった。
高校卒業後、同級生の何割かは町を離れた。奈々子もそのうちの1人で、東京の大学に進学し、みごと一流企業に就職した。今も、町では出世頭として語り継がれる。
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さらに奈々子は、早々と社内結婚をして一人娘にも恵まれ、すべての幸せを手に入れたそうだ。
奈々子と両親がそうだったように、オシャレで美形の幸せ家族。
その奈々子が、一体どんな不幸に見舞われたというのだろう…
このところ、由貴は息子の体調不良で、友人たちとの女子会に参加していなかった。そのため、奈々子の話題でもちきりだったことを知らない。
「先生の還暦祝いもあるのに、大丈夫なのかしら。奈々子さんに不幸って、何があったの?」
由貴が友人たちにたずねると、言いにくそうに話し始めた。
「ご主人がね、事故で他界されたらしいんだけど……」
それは確かに、同窓会どころではない不幸だ。それに、奈々子の夫の親族は国内外にいるらしいから、告別式を行うだけでも大変だろう。
「それだけじゃないみたいなの。他にもいろいろあるらしくて」
友人たちは話し続ける。奈々子が今、不幸のどん底にいる理由について……。
なぜクラスのマドンナは同窓会に欠席したのか。衝撃の次回で明かされる理由