FASHION 百“靴”争鳴

【植村直己や三浦雄一郎をも虜にしたゴローの登山靴】古き良きノルウェイジャンのものづくり

百靴争鳴。日夜美しい靴作りに情熱を燃やし合う、異色の靴職人たちへのインタビュー集。

年間2000足の登山靴をつくりつづけて 半世紀

後編はゴローのブーツの魅力について。生産足数が年間2000足を超えるというそのブーツには、古き良きノルウェイジャンのものづくりが いまも息づいていました。

こんなにいいブーツはほかにはない

年間で 2000足、忙しいときは 3000足をつくってきました。職人は現在、6人。

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百名山を登ってきたといいましたが、実際に履いて あらためて思うのは、手前味噌ながら とてもいい靴だということです。しっかりとフィットしてくれるし、安定感、グリップ力、すべてがいい。

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木型は誰がつくったか、いつ つくったか、いまとなっては謎ですが、気になるところを都度直してきた、ゴローを語るときに欠かせないひとつです。他のメーカーのだと どこかしら当たるけど、それがない。ほんとう、よくできている(笑)。山用で3つ、街用で4つのバリエーションがあります。

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底付けはノルウェイジャン、ステッチダウン、セメントの3つ。用途に応じて使いわけています。グッドイヤーウェルトは やっていません。あの底付けは押し縁(ウェルト)がいるでしょ。重くなっちゃうし、手間も増える。ノルウェイジャンにも押し縁を使うタイプがありますが、ゴローのそれはアッパーの端が押し縁の役割を兼ねるオリジンの製法をいまも守っています。

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革はイタリアのスエードとドイツのスムースの二種類。ポイントは厚み。前者は3ミリ、後者は2.5〜2.7ミリを目安にしています。

スキーブーツのようにプラスチックブーツが出てきて ひやっとしたこともあったけれど、なんとかやってこられました。

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やっぱり革はいい。馴染みがいいし、耐久性もある。いま主流のナイロンは縫うと そこがウィークポイントになるが、革ならこの点も心配に及ばない。お客さんのなかには40年選手のブーツを履きつづけていらっしゃる方もおります。

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スリーシーズンのテント泊縦走から初級の冬山に使用可能なノルウェイジャン製法の「S-8」3万7000円(税抜)

デザインはオーソドックスのひと言。うちの看板商品のS-8もブーティエルもクラシカルなブーツのディテールを寄せ集めてつくりました。なんも、奇をてらっていません。

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チロリアンシューズ 3万円(税抜)

チロリアンもそれらに並ぶモデルですね。いまじゃ珍しくとも なんともないけれど、この被せモカは親父が考案したって ずっといっていました。真偽のほどは わかりません。ただ、早かったのは たしかです。

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資本があれば もっと大きなことができたかも知れないけれど、そんなものはないんだから、大きくしようなんて つゆほども考えませんでしたね。自分の手がとどく範囲でコツコツとやってきました。

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いまはもう十分に歳をとった。わたしはもう、古い人間なんです。これまでやってきたことを、いまさら変えることはできません。

昭和の時代から変わらないノルウェイジャン

大昔は手縫いでしたが、ほどなく機械に変わりました。といってもリブテープをつける すくい縫いじゃありません。大量生産の時代には日陰の存在だったけれど、じつは昔からドブを起こす機械があったんです。その機械をもっている外注の職人さんがいて、ゴローはずっと そこに出してきました。

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少しばかり説明が必要ですね。ハンドソーンウェルトの底付けを例にあげれば、まず中底と押し縁を縫い、次に押し縁と本底を縫います。前者がすくい縫い、後者が出し縫いといいます。

すくい縫いをするには中底を掘り起こして縫い代のようなものをつくってやらなければなりません。この工程をドブを起こす、といいます。ドブの代わりとすべく考案されたのが、リブテープというわけです。ハンドソーンウェルトを量産化することに成功したグッドイヤーウェルトの要のパーツです。

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リブテープは その分だけ重くなるし、屈曲に干渉する。中底を掘り起こすドブなら重さは変わらないし、底の返りを邪魔することもありません。リブテープのように剥がれる心配もない。

つまり、リブテープを必要としないゴローのノルウェイジャンは、手縫いの靴がそなえる性能をほとんど毀損していない、ということがいえる。

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くだんの職人さんは すでに高齢で、病気も抱えていた。彼が亡くなったらゴローの靴づくりはままならなくなる。これはまずいと思って ちょっとまえに機械を買い取ることにしました。使い方を教わってね。

プライスも昭和のまま

現在の生産態勢が整うまでは手縫いもメニューに残していました。手で縫ったのは足の大きな人や扁平足の人の靴をつくるとき。つまり、ありものの部材が使えない場合です。アップチャージは6000円でした。信じられない価格設定だって? それは良心的なんじゃなくて、単に経営者がバカなだけです(笑)。

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そもそものブーツの値段が高くても5万円、オーダー料金はプラス3000円ですからね。オーダーは乗せ甲による木型調整にも、左右別サイズにも対応します。

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値段ってのは こっちの都合で そうそうあげられないでしょ。ま、つくって売ってを全部自分のところでやっているから できることですがね。卸があいだに入ったら、とてもじゃないけれど この値段では無理です。

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そんな呑気な経営者でも、ときには商売人としての勘が働くこともあります。左右で革の色を変えてくれ、というオーダーが入ったときが それでした。わたしは前金を多めに もらっとけとスタッフに指示を出しました。納品の日、その客が来たっていうんで売り場をのぞいてみた。「●●●ですよ。知っていますか」ってスタッフが囁くから、「それぐらい知っているわ。童話の名前だろ」と答えて恥をかきました。童話から芸名をとったタレントさんだったんです。わたしの勘は、あてになりません。

採寸しないと売りません

ゴローでは例外なく足を採寸しています。足の収まり具合を みないことには怖くて売れません。足が痛くて途中で山から降りるなんてことになったら かわいそうじゃないですか。そんなわけで、足を みせるのが恥ずかしいから靴を脱ぐのはイヤ、なんていう人がいたらお断りしますよ。採寸の30分が目安ですが、1時間、2時間になる人も ざらにいます。

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測るのは足長と踏みつけ部、土踏まずの周り寸。その人固有の癖のようなものもチェックしていきます。山(靴)なら裸寸のプラス7ミリ、街ならプラス5ミリが基本。最後は甘い、辛いの好みを聞いてサイズを決めます。紐の締め方も指導します。ギュッギュっと緩まないようにね。

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店に立つのは倅の嫁をのぞいて みな職人です。靴がつくれればいい、というのはダメです。なんでもできないといけない。製造現場は便宜上、底付けと製甲に担当がわかれているけれど、ほとんどの職人が丸ごと一足つくれます。ほら、なんでもできると独立したときにも困らないでしょ。うちから出てがんばっている職人も何人もいますよ。

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いまの現場は3年まえに入ったひとりをのぞいて20年、25年選手。それなりにやりがいがなければつづかないはずだから、有り体にいって、うれしいね。

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バディーステッチダウン 3万1000円(税抜)

最近は わたしが蚊帳の外になることも。モンキーブーツをベースにしたバディーはわたしが知らないところで売り場に並んでいた(笑)。おかげさまでよく売れています。お客さんの声をきちんと聞いて かたちにしたんだろうね。

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嫁はよくやってくれます。バディーのような靴が必要だと ずっといっていたのも嫁でした。倅は別の仕事に就いていますが、週一で店に来ています。

コロナ禍、ひっそりと引退

去年、事実上引退しました。緊急事態宣言で注文が激減してね。職人の食い扶持は維持しなければならないから、わたしが身を引いた格好です。

50年以上一緒にやってきた職人も去りました。わたしをブキッチョと からかった男です。歳は わたしと おんなじ78。

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辞めてからはスポーツジムで汗を流しています。定休日をのぞいて、毎日。工房にはその合間に顔を出します。復帰はあるのかって? それはありません。(両の手を広げて)ほら、胼胝(たこ)がきれいに なくなってしまった。この手では つくれません。でも大丈夫。若いのが すっかり育っているから。

胼胝はなくなったけれど、指はもう開きません。道具をつかんだ状態で かたまってしまったんですね。指を伸ばそうと思うと、指の腹が白くなる。

Photo:Shimpei Suzuki
Text:Kei Takegawa
Edit:Ryutaro Yanaka

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森本勇夫(もりもと いさお)
1942年東京・牛込生まれ。小学生のころから靴職人だった父の手伝いをはじめる。夜間高校に入学するも一学期で退学、靴職人になる。1973年、ゴローを東京・巣鴨にオープン。顧客リストには植村直己や三浦雄一郎ら日本を代表する登山家が名を連ねた。

【問い合わせ】

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ゴロー

東京都文京区本駒込6-4-2
03-3945-0855
営業:10:00〜18:00
定休:火
http://www.goro.co.jp



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