FASHION ― 百“靴”争鳴

【シューリペアラー 奥山武】
おんなじ作業の繰り返しだけど、毎日違う〜前編〜

2020.7.3 2020.7.3
2020.7.3

漫画『あしたのジョー』の舞台にもなった山谷。浅草の北にあるその街はドヤ街といわれた往時の佇まいをいまもとどめています。血気盛んな街をサバイブすべく、老舗の居酒屋には鉄格子で建物を覆っているところも。そんな街に実力に比して圧倒的に露出の少ない靴修理の工房があります。奥山武さんが主宰する福禄壽です。

狙って出したんじゃありません(笑)

山谷に店を出した理由は3つ。ひとつはお世話になったユニエイが隣町の清川にあって、土地勘があったこと。ふたつには 材料屋が自転車ですぐの距離にあったこと。そして家賃が安かった(笑)。商売を考えれば浅草や上野に出したほうがいいに決まっている。でも家賃のようなものに金を出すのが死ぬほどいやなんすよ。製靴機械とかブーツとかを買うのには なんのためらいもなく財布の紐を緩めるんですけどね。あぁ、いまだにブーツは買っちゃいます。バラしたことのないブーツは見たいし、かならず発見があるから。もはや何百足あるのか自分でもわかりません。

安くあげたいから一棟丸ごと借りて 上の階を住まいにしています。奥さんはいい加減、引っ越したいと思っているはずだけれど、こればっかりは仕方がない。

気取りのない、ざっかけない土地柄もいい。工房から響く音はなかなかにうるさいし、自分はバイク乗りですが、バイクはもっとうるさい。繁華街だったらいやがられるけれど、ここならそんな人はいない。苦情をいう人がいたら いったほうが石を投げられる。ま、総合的に肌にあったんでしょうね。

そんなわけで、"狙って出したんでしょ"っていわれるのが なによりもいや(笑)。だってそういうのって ださいじゃないすか。

アメリカもののヴィブラムに目をつける

靴がつくりたい。つくりたいけれど、学校に通うなんて かったるい。自分は修理屋で働くのが手っ取り早いんじゃないかって考えました。で、ユニオンワークスの門を叩いた。残念ながら採用にはいたらなかったけれど、面接してくれた人が「おれが前に勤めていたんだけど」って紹介してくれたのが知る人ぞ知る修理工房、ユニエイ。ハイブランドのオールソールを一手に引き受けていた工房です。

はじめの1年はソール剥がしと釘打ちばっかりやっていましたね。それでもちっとも苦にならなかった。いま思えば、自分はつくづくこの仕事に向いていたんですね。

職人ってのは つまるところ、おんなじ作業の繰り返しです。おんなじ作業だけど、一足一足──素材、構造、ダメージ──すべてが異なる。そうして昨日とおんなじものを仕上げる仕事です。はたから見たらなんにもわからない。ところがどっこい自分のなかでは毎度違う。当時は やみくもにやっていましたからね。そういうことはわかっていなかったけれど。

入って2年目にいきなりオールソールを任されました。担当だった職人が辞めてしまったんです。ところが苦労らしい苦労はなかった。初日からある程度できました。前任者の仕事を見るともなしに見ていたんでしょうね。ほどなくなんの問題もないところまでいきました。これがやっぱり面白かった。技術云々よりも、単純に直る、というのが うれしかった。

念願のハーレーを手に入れたのは そのころです。ローンを払うために自分は週末、バイク用品を扱う店でアルバイトをはじめました。辛くなかったのかって? ちっとも辛くありませんでしたよ。若いし、上京したてで友だちはいないから週末はヒマだし、好きなハーレーの世界に浸れる。いうことなしでした。

そのうちバイク屋の客からブーツの修理を頼まれるようになりました。そんなときです。ヴィブラムソールにイタリアものとアメリカものがあると知ったのは。当時 日本にはイタリアものしか入っていませんでした。自分のブーツと比べるとなんかいろいろと違うなぁと思っていて、それでアメリカでつくられているソールの存在を知ったんです。

ブーツの修理はコンスタントにくるし、アメリカのヴィブラムを仕入れることができたら商売になるはずと踏んだ自分は工場長に掛け合いました。アメリカものを引いてブーツ修理をぶち上げましょうって。ときはスニーカー全盛。そんなヘビーなブーツの修理なんてニーズがあるわけないって判断された。だから、独立しました。アメリカのヴィブラムを引っさげて。

ブーツが好きでブーツ・リペアを謳ったのは間違いのない事実ですが、じつはそこにはもうひとつの思いがありました。それはユニオンワークスの主戦場であるドレスシューズには手を出さないってこと。ユニオンワークスのおかげでこの世界に入れたわけですから、そこは筋を通そうと。といっても会ったのは一回こっきりだし、自分のなかで勝手に決めたことなんですけどね(笑)。なんか品がないじゃないですか。そこまでして成功したいとは思わない。いや、格好つけじゃなくてね。

カスタムブーツで一気に火がつく

オープン当初はチョウヒマ。あんまり電話が鳴らないもんだから、自分でかけてみたことも(笑)。断線しているんじゃないかと なかば本気で思ったんです。

バイク雑誌のバイブズやフリー&イージーで取り上げられるようになってようやく一息つけました。そのうちあれほど鳴らなかった電話が鳴りっぱなしになった。カスタムブーツが当たったんです。

思い返せば、自分の♯8271(レッド・ウイング)にヴィブラムの100番ソールをつけたのがファースト・カスタム。ユニエイで働くようになったころ、あのウエスコが彗星のごとくあらわれた。喉から手が出るくらいほしかったんですけど、工員の自分には高嶺の花。ハーレーでローンも組んじゃいましたしね(笑)。100番はウエスコおなじみのソールで、彫りの深いトレッドパターンが特徴です。これつければそれらしく見えるんじゃないかなって思った。

古着屋で安く買ったウエスコのエンジニアブーツにクレープソールをつけたことも。まわりからはダサいとバカにされたけれど、クレープソールにはシフトチェンジしやすいってメリットがありました。

客の声に応えようと張り切るうちにカスタム熱はどんどんエスカレートしていきました。おっつけ新品をカスタムしてほしいというオーダーがくるようになった。そこで はたと立ちどまった。新品をわざわざバラしてつくり直すって、それって意味あることなのかと。いまは違いますよ。好みは人それぞれ。ほしい人がいるんなら それはそれでいいと思えるようになったけれど、そのときは若かった(笑)。

次第に自分は媒体への露出を控えるようになりました。そうして修理職人としての自分に向き合うようになっていきました。

カスタムは いまもやっていますが、最近はそのメーカーがやるならどうやるだろうと考えるようになりましたね。どう考えても使わないだろうと思うような部材は使わないし、どう考えてもやらないだろう仕上げもやらない。メーカーがやってきたことから外れないように。そこだけは意識しています。

Photo:Shimpei Suzuki
Text:Kei Takegawa
Edit:Ryutaro Yanaka

奥山武(おくやま たけし)
1979年三重県生まれ。高校卒業後、シューリペアのユニエイに就職。2002年、東京・山谷に工房兼ショップの福祿壽を創業。2017年にあらたな工房を茨城に開業。2019年、念願のオリジナルブランド、キーストンシューを立ち上げる。顧客は日本のみならず海外にも。ブーツ好きの有名人も虜にしている。

 

【問い合わせ】

福祿壽
東京都台東区日本堤1-13-8
03-3871-8262
営業:11:00〜20:00
定休:月曜
http://hukurokuju.com/top/

Author profile

竹川 圭
竹川 圭
Takegawa Kei

エディター
ライフスタイル誌を経て独立。下町の人情と赤提灯に惹かれ、社会に出てからはイースト・トーキョーを転々とする。近著にノンフィクション『至高の靴職人』(小学館)がある。

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