FASHION ― 百“靴”争鳴

北欧の名店も扱う、サンタリというブランドについて〜後編〜

2020.11.28 2020.11.28
2020.11.28
百靴争鳴。日夜美しい靴作りに情熱を燃やし合う、異色の靴職人たちへのインタビュー集。

矢沢永吉の『成り上がり』と純と蛍の『北の国から』を足して二で割ったような時代を経て独り立ちした舘さん。下請けのメーカーとして実績を積むと、2018年にサンタリと名づけたブランドを立ち上げました。ローンチからまだ日が浅いにもかかわらず、今年、納期は2ヶ月から4ヶ月に延び、そして北欧の有名店に並びました。

伝説の靴職人のもとに

わたしは 店のおやじさんの口利きで関さんのもとに通うことになりました。関さんとは、わたしも2冊、そのノンフィクションを買った日本最高峰の靴職人といわれる関信義さんのこと。すでに高齢でしたので、一から教わるというのではなく、つくった靴をみてもらう、というかたちでした。

わたしは自分の実力を示すべく、ライトアングルステッチの靴を持っていきました。関さんは「これじゃあなぁ……」と語尾を濁しました。おそらく血気盛んなころだったら、投げ返されたに違いありません(笑)。わたしは関さんを見返したくて、いっそう熱心にライトアングルステッチに取り組みました。その甲斐あって、おしまいには「これだけ縫えれば上等だよ」といっていただきました。うれしかった。

関さんの教えは わたしの血となり肉となっています。

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関さんは「針は刃物だ。刺すもんじゃない」とおっしゃった。ちゃんと研いだ針は力を入れずとも肉を切り裂く、というわけです。以来、針研ぎはもっとも大切な下準備のひとつです。

針でいえば もうひとつ。「ほんものの職人は針が指の一部になる」とも おっしゃっていました。そのころはわからなかったけれど、いまならわかる。針が革のどこを通っているかも、革の繊維が切れる感覚もわかるようになりました。

どうにかこうにか食べていけるのは、ひとえに関さんという職人がいたからです。工房にお邪魔したときは一挙手一投足を穴があくほど みつめ、関さんが監修している製靴本は食い入るように読みました。道具の持ちかたひとつとっても徹底して盗みました。

いよいよ独立の道へ

ようやく自信らしきものが芽生えたとたん、わたしは思いもかけない事態に見舞われました。店のおやじさんに給料を下げるといわれたんです。不景気だし、半人前のころから給料をいただいていたのだから文句はいえませんが、いろいろできるようになった わたしとしては、それはないんじゃないかと思った。

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そんなときに出会ったのがセントラル靴の専務。グッドイヤーウェルト製法の名門老舗であり、名だたるブランドの靴をつくっています。わたしは矢も盾もたまらず働かせてほしいと頼みました(条件のいい職場に移るのは、いまも昔も腕一本で生きる職人の当然の権利である)。ところが専務はわたしの再三のラブコールに うんともすんともいわない。途方に暮れていたら、よそから底付けの依頼が舞い込んだ。専務も雇うことには うんといわなかったけれど、ライトアングルステッチの外注仕事なら出してくれるという。

わたしは靴関連の機械屋さんの一角を借りて独立することになりました。すると、それからしばらくして専務がやってきて、「家賃払うなんて馬鹿らしいだろ、うちでやれよ。いま受けている仕事もやっていいからさ」っていうんです。釈然としない思いもありましたが、渡りに船とその申し出を受けることにしました。

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2016年7月。仕事が増えて手狭になったわたしはセントラル靴を出て、工房を構えました。

武器はライトアングルステッチ

独立にあたり目標に掲げたのは、世界一のアウトワーカーになるというもので、それはいまも変わりません。おかげさまで 現在はライトアングルステッチで知られる国内のブランドなら たいていのところを手がけています。しかしまだ、満足していません。わたしはジョンロブやエドワード グリーンからライトアングルステッチの注文がくることを夢みています。

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わたしのスキンステッチの強みを挙げるとすれば、まずは均一性です。革は生き物ですから、厚みも違えば柔らかさも違います。もとより革は部位によってテンションが異なります。ぐるりと半周、均一に仕上げるというのは なかなか難しいものです。

それと、ミスがない、ということ。現在は均せば日に一足強は縫っています。まさに継続は力なり、ですね。

みなを輝かせる靴を

独立を視野に入れて水面下で温めてきたプロジェクトが、メイド・トゥ・メジャーのオリジナルブランド、サンタリでした。

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あぁ、いま履いているのもサンタリです。汚くてすみません。この1年、雨の日も風の日も履きつづけてきたもので。そうやって仕上がりを確かめてきました。ディズニーランドもこの靴で遊びにいきました。すこぶる快調でした。(あらたな家庭を築いた舘さんには小さなお子さんが ふたりいる)。

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技術の粋を集めた靴を、求めやすいプライスでエンドユーザーに届けたい。それが第一義ですが、経営者としての判断もありました。人を使うようになれば彼らに給料を払わなければならないし、鍛えてやらないといけない。それには継続した仕事があることが大切になってきます。

裁断からすくい縫いまで、すべて手で行っています。(出し縫いのみ機械で行う)九分仕立てにこだわったのは、履き心地の良さもさることながら、自由度が増すからです。ベベルドウエストにしたいというリクエストにも簡単に対応できますからね。

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直接ご注文いただくか、トランクショーでのオーダーがベースとなっていますが、縁あってノルウェーのスコマーケー・ダゲスタッドにも置いてもらっています。こちらでは九分半仕立てというリクエストでエクスクルーシブ・モデルをつくっています。土踏まずのみ、出し縫いも手で仕上げているんです。よりグラマラスに絞り込めるこの底付けは、九分仕立てをベースにしているからできる芸当です。

木型に入れて寝かす期間は2週間。一般的には2〜3日がいいところですが、それだとどうしても痩せてくる(靴のかたちが保てなくなるという職人用語)。いろいろ試して、出した答えが2週間でした。

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デザインはオーソドックス。ラウンドトウをベースに足型の変化を踏まえてスマートな木型も用意しました。婦人靴を得意とする木型メーカーにつくってもらっています。羽根で調整できる紳士靴と違って、パンプスは繊細なフィッティングが求められます。ポテンシャルが高いだろうという読みは みごと当たりました。

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1152通りの選択肢があるというのも自慢。革やデザインだけでなく、シャンクも選べます。一般的な金属に加えて、樺の木も用意しています。樺の木は軽く、粘りがあり、水に強い特性があります。税関を通るときにブザーが鳴ることもありません。うちの顔であるライトアングルステッチを(ボディに対して)大きくしたり、小さくしたりすることもできます。1152というバリエーションは少し前に計算した数字で、いまはもっと増えていますね。

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オーソペディ(整形外科)の技術に則ったインソールも制作しています。この春から働いてくれる藤山(大樹)がいるからできることです。藤山は神戸医療福祉専門学校でその技術を習得しました。

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おかげさまで好評でして、生産が追いつかないのでそれまで2ヶ月だった納期をことし4月には4ヶ月に延ばしました。すでに5足納品させていただいたお客さまもいらっしゃいます。

サンタリとサラナリ

年明けから値上げします。それは深化を目指した結果です。

ポイントは中底。まず、部材を変えます。新たに採用したのは、ビスポークシューメーカーのあいだでもポピュラーなクロスタショルダー。繊維が密で、耐久性にすぐれる中底です。

つくりかたも変えます。これまで中底のエッジは なだらかに削っていました。日本でおなじみの構造で、作業しやすい反面、アッパーの立ち上がりに隙間が生じやすいというデメリットがありました。今後はL字型にエッジを落とすヨーロッパのスタイルに移行します。

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これはまだ検証段階ですが、シャンクの位置を変えることも考えています。従来のシャンクって、一律に中央に敷いていました。シャンクは足裏を支えるパーツです。スポーツ選手のような土踏まずが発達した人もいれば、扁平足の人もいる。本来は、その足の形状によってシャンクも考慮してしかるべきでは、というのがわたしの仮説です。

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この12月には先んじてマッケイ製法のコレクションを発表します。見どころは、底付け。ソールは一枚で、まくり上げるように叩いて成型しています。付属物がないので軽く、返りがいい。包み込まれる履き心地が味わえます。ミシンが通る部分がまくられているので糸切りの問題が発生しにくいメリットもあります。

木型も新しくつくりました。これまで以上に華奢な足に合うようコンパクトにまとめつつ、鼻先を少し伸ばしています。

お披露目の場についてはサイトで案内していますので、興味があるかたはご覧になってみてください。

お膳立てが整えば、遅かれ早かれビスポークにも挑むことになるでしょう。じつは、名前はもう決めているんです。サラナリっていいます。由来は、古文に出てくる“更なり”。“いうまでもなく よい”といったニュアンスを込めています。ビスポークにぴったりの名前だし、サンタリと響きが似ているってのもいい。

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そうそう、サンタリはこれも古い言葉で“燦たり”からとっています。文字どおり、履かれたかたが輝くことを祈って名づけました。

Photo:Shimpei Suzuki
Text:Kei Takegawa
Edit:Ryutaro Yanaka

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舘篤史(たて あつし)
1983年、福島県生まれ。ミュージシャンを目指して21歳で上京するも挫折、パチンコ店で働きながら進むべき道を模索する。レザーグッズづくりに出会い、ほどなく靴の世界へ。製靴教室で学んだのち、靴店専属の職人を経て2015年に独立。2018年にオリジナルブランド、サンタリをローンチ。北欧を代表するノルウェーのスコマーケー・ダゲスタッドで扱われている。

【問い合わせ】
Tateshoes
東京都台東区橋場1-30-1
03-6321-6561
https://santari.jp

 

Author profile

竹川 圭
竹川 圭
Takegawa Kei

エディター
ライフスタイル誌を経て独立。下町の人情と赤提灯に惹かれ、社会に出てからはイースト・トーキョーを転々とする。近著にノンフィクション『至高の靴職人』(小学館)がある。

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