FASHION ― 百“靴”争鳴

【イタリア帰りのビスポークシューメーカー 島本亘】
世界的なシューメーカーの秘蔵っ子! 〜前編〜

2020.10.30 2020.10.30
2020.10.30

深谷秀隆さんの秘蔵っ子がコロナ禍のなか、ひっそりと帰国して、工房を構えていました。その名は島本亘さん。深谷さん率いるイタリアはフィレンツェのイル・ミーチョでおよそ10年にわたって右腕として活躍してきたシューメーカーです。独立の狼煙をあげるべく出品したコンクールではみごと栄冠を勝ちとりました。それも2年連続で。

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靴漬けの日々のご褒美に南伊へ

日本へ戻る前に一週間かけて南イタリアを旅してきました。ろくに調べもしないで行ったんですが、ついた翌日に青の洞窟が解禁、眼福にあずかれました。

イタリアにわたって10年。じつははじめての南イタリアでした。もちろん忙しかったのもあるんですが、イル・ミーチョは土日が休みですし、行こうと思えば行けないことはない。単純に、観光しようという気がおこらなかった。だって靴をつくりにきていたんですから。

そんなわけで、イタリア語もたいして話せるようになりませんでした。自分の生活は家と工房の往復で成立してしまいますからね。

2ヵ月遅れの帰国

7月に帰って、8月から内装をいじってようやく動きはじめた感じです。5月に戻るつもりだったんですけど、折からのコロナで身動きがとれませんでした。とはいえ、大家さんには すでに引き払うことを伝えていますから、いい加減引っ張れなくなって……。空港でPCR検査を受けて、そのまま実家で2週間、自宅待機しました。

工房は湘南モノレールの西鎌倉駅から歩いて数分。大船にある実家から毎日自転車で通っています。だいたい、15分くらいですね。

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この物件はうなぎの寝床のように細長い。変わっているけれど、ひとりで作業する分には問題がなかったし、奥に設けたフィッティングスペースが外から見えにくくていい。もとは隣のブティックが事務所として使っていたようです。

工房を構えるなら鎌倉って決めていました。実家に近いということもあるんですが、古い街並みがいまも残っていて、フィレンツェに通じるところがよかった。ほんとうは中心街に出たいんですが、先立つものもないし、まずは作業できる場所がほしかったから、ここにしました。都内から来られるお客さまにとっては少々不便かも知れませんが、注文は基本、受注会でって考えているので なんとかなるかなと思いました。

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受注会は原宿のマンションの一室で行っています。昨年の8月が一発目で、今年の3月、そして8月でかれこれ3回。インスタで告知したくらいだったんですが、おかげさまで悪くない立ち上がりです。

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あっという間の10年間

深谷さんは送別会を開いてくれました。口数の多い人ではないんですが、がんばれよ、困ったことがあったらなんでも相談しろよっていって 別れ際に握手してくれました。餞別にイル・ミーチョの名刺入れをいただきました。

もともと独立が夢でしたし、深谷さんのもとで働くことが決まったときも そのことは伝えていました。いよいよ辞めますと挨拶したのはいまから2年くらい前のこと。それからは後輩を育てることに専念してきました。

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気づけば10年。勉強することがいっぱいありましたから、いま振り返ればあっという間でしたね。

フィレンツェのものづくり

フィレンツェの職人は手を抜くところを知っていて、手を抜いているのに、いや、手を抜いているからこそ仕上がりが美しい。かれらが等しくものにしていた感覚が 自分のものづくりのベースにはある。その感覚を忘れないように、雰囲気の近い鎌倉を選びました。

であれば、そのままフィレンツェで独立する、という手もあったわけですが、その選択肢はそうそうに消去していました。どうにもイタリアの国民気質があわなかったんです。明らかに向こうが間違っていても、まくし立てて、自分は いいくるめられてしまう。口下手でカタコトとくれば勝てるわけないんですけどね。このストレスは市場のおばちゃんとやりとりするだけでも発生する。つまり日常茶飯事なわけです。終の住処としては辛いだろうなと思った。ものづくりにおいては あの気質が求められるわけですが、隣人としてはちょっと無理だった。

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革は向こうがいいんじゃないか、といわれることもありますが、そんなことはありません。たしかにフィレンツェで仕入れる革に比べれば、正味、ちょい落ちます。落ちますが、クオリティが落ちるということではありません。ちょっとキズが多くてとれる部位が小さいというだけです。工夫すれば、とくに問題はありません。

もはや、ヘンタイ

2018年にロンドンであらたに開催されたワールドチャンピオンシップ イン シューメイキングで4位に選ばれ、2019年に国際靴職人技能コンクール(3年に一度ドイツで行われる歴史的な大会)で金賞をいただきました。独立を前にせっかくだから腕試し、というわけです。

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ロンドンの大会に出品した靴は、シームレスヒールのロングヴァンプ。ちょっと専門的な話になるので読み飛ばしてもらって構いませんが、2枚のホールカット(一枚革)を釣り込んで、1枚目からはヴァンプ、2枚目からはレースステイを切り出し、製甲しています。要は大小ふたつのドーナッツ状のパーツからなるのがこの靴です。

つま先から かかとまでぐるりと覆うヴァンプを単体で釣り込むのは不可能です。どうしてもかかとまわりが収まらないんですね。

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表彰台に立ったのは、ガジアーノ&ガーリングや元ジョン・ロブ・パリのビスポーク部門の責任者だったフィリップ・アティエンザ。かれらは世界に名を馳せたシューメーカーではありますが、正直いえば、ちっとも負けていないと思った。だからまた出品するつもりだったんですが、コロナで機会を逸してしまった。

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ドイツの大会には日本の国民的なアニメの主人公をモチーフにした靴を出しました。シュータンが鼻、シューレースがヒゲ、パイピングが首輪、エプロンが口、トウキャップがポケットになっています。靴としてみたときにはエプロンのバランスがいまいちですが、それはリアリティを優先したためです。

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忠実につくるなら二頭身にすべきですが、自分がやりたかったのはあくまで靴。よくよくみれば、あのキャラクターがモチーフになっているという感じがよかったので、木型はスマートに。

こだわりはまだまだあります。

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右足の腰裏にどこにでもいけるドアをのぞき込むひとりと一匹を造形して、左足にはそのドアをくぐり抜けたふたりが入浴中のガールフレンドのところへ現れる、というおきまりのネタを。かかとには主人公の大好物のどら焼きをあしらいました。革の切れ端を詰めて膨らみをもたせています。あとはソールですね。片足3,000本の釘で主人公を描いています。一体3時間かかりました。

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Photo: Shimpei Suzuki
Text:Kei Takegawa
Edit:Ryutaro Yanaka

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島本亘(しまもと わたる)

大学在学中より靴づくりを始める。アルバイトとして働き始めた靴修理店、レザー・ドクターにそのまま就職。3年勤めたのち、渡伊。ビスポークシューメーカー、イル・ミーチョの深谷秀隆に師事。10年にわたってキャリアを積み、2020年7月、独立。鎌倉にアトリエを構える。37歳。

【問い合わせ】
ORMA
神奈川県鎌倉市西鎌倉1-20-10
https://orma-shoemaker.com

Author profile

竹川 圭
竹川 圭
Takegawa Kei

エディター
ライフスタイル誌を経て独立。下町の人情と赤提灯に惹かれ、社会に出てからはイースト・トーキョーを転々とする。近著にノンフィクション『至高の靴職人』(小学館)がある。

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