絶滅危惧種「町の洋食」を救え!
料理芸人のクック井上。です!
思い出の洋食、ヨシカミ訪問記の後編です。
まずはお店のお話……。
大正時代から、色々な商売をやってこられた『ヨシカミ』。戦争で焼け野原になったのち、昭和26年(1951年)、日本一の娯楽の中心地として繁栄を際めた東京・浅草で、わずかカウンター10席のお店として『洋食 ヨシカミ』が誕生。上野の闇市(今のアメ横)から色んなものを仕入れて、始めたそう。そして、昭和35年(1960年)に建て替えをし、今に至るとのこと。
この看板で『洋食 ヨシカミ』の事を覚えている方も多いのではないでしょうか。

下町・浅草ならではの洒落がきいていて、看板を見ているだけでワクワク、そして最高です!
それでは早速、昭和の戦後~高度経済成長期~平成~令和と、70年もの間、人々の舌に思い出を刻み続けてきた『洋食 ヨシカミ』のドアを開けてみましょう。

まず、目に飛び込んでくるのはこのカウンター。
カウンターの向こう側には、ベテランのコックさんから若手のコックさんまで、何人ものコックさんがいて、ランチ時などは、次から次へと入って来るお客さんの注文を、リズムよく作っていきます。
すでに店内にいい香りが漂っていて、腹ペコの鼻をくすぐりやがるぜ!
辛抱たまらんので、ここに来ると必ずこれを頼んじゃうってのをオーダーしたいと思います。
“すいません、「ポークソテー」お願いします!”
今回は取材という事で、カウンターギリギリまで身を乗り出して、その様子を覗かせて頂くの巻。

最高だな! 格闘技で言うところのスペシャルリングサイド、相撲で言うところの砂かぶり! カウンターは、臨場感が楽しめる特等席です。

まずは、豚のロース肉に下味と薄く小麦粉をまとわせ、多めの油で、カリッと焼いていきます。

表面を焼いたら一旦オーブンに入れて火を通し、そこからはクライマックス!

出ました、立ち昇る炎!
『洋食 ヨシカミ』のクッキングショーは食べる前から始まっているのです。
クック井上。流、正しいポークソテーの食し方とは?
そしていよいよやって参りました、愛しの「ポークソテー」。

なんたる食欲をそそるヴィジュアル! この濃い目の琥珀色を纏ったお肉の照り、反則だわ♡
ライスも到着いたしましたので、いざ、お肉入刀!

いただきまーーーーーーす!
いかん、意識が飛びそうなほどの美味さだ!
醤油の塩味+甘味、そこに白ワインの酸味や爽やかさ、豚肉の脂のコクが合わさったタレに、何万枚とポークソテーを焼いたフライパンから染み出した旨味が合わさった極上ソースが舌全体を包み込み、ここで1度目のダウン。

昇天しかけた脳みそを奮い立たせて肉を噛むと、ジュワッと一気に口いっぱいにひろがる、豚ロースの幸せのエキス! ここで2度目のダウン……。

そのまま天に召されそうなところをグッと我慢し、ご飯を口に運ぶ…くぅ、ご飯泥棒だ。

はい、ここで3回目のダウン。KO! 恐れ入りました。
そして気が付けば残りわずか……しかしバランスよくお肉とご飯を二口ずつ残せたことを、自分で自分をを褒めたい。

いや、ほぼ放心状態ながら、意図的にこの量を残したのだ。ズバリ、残したのお肉は端っこの脂が多い部分。皿に残ったソースを、できる限り肉に纏わせ、通常のふた口分のお肉をひと口で喰らう。

美味しい部分を最後に残し、しかも通常の2倍量を口に入れるという、いい歳の大人とは思えない暴挙。

正気を取り戻す為に、ご飯をひと口食べて、仕上げはわずかに皿に残ったソースをご飯に吸わせて完食。
御馳走様でした!
危うく無意識で皿を舐め回すところだった。心底、最高&最幸&最香の「ポークソテー」だ!
ここで、注意! 食べ終えた後、絶対に水を口に含むべからず。今まだ、口の中で幸せの味がガッツリ残って入り状態。その余韻を水で洗い流すなんて以ての外。

経験上、少なくとも半日(最長3日)は余韻を楽しめますので、「ポークソテー」の次と次の食事は、この余韻だけで白飯2杯はイケます。
いや、大袈裟じゃなく、本当にそれ程なんですから。
今度、まだ来たことのない我が子も連れてきて、家族の思い出を共有したいと思います!
最後に……。
僕が小さい頃、家の石油ストーブと灰皿の横には、必ず『洋食 ヨシカミ』のマッチがありました。

マッチの火は簡単に点きますが、老舗洋食の味はそうはいきません。
マッチの火は簡単に消えますが、『洋食 ヨシカミ』の灯りは、未来永劫いつまでも残っていて欲しい! そう思います。
皆さんにも、そういう“思い出の洋食屋”があるのではないでしょうか?
日本人みんなの憧れの「洋食」という名の和食文化、まだまだ東京のあちらこちらに有りそうですね。巡って、その想い、歴史、人、町を探りたいと思います。
追記
浅草『ヨシカミ』では、ほとんどのメニューをテイクアウトできるとの事。

店内で、そしてお土産として“うますぎて申訳けないス!”なお料理を是非。

洋食 ヨシカミ
電話 03-3841-1802
住所 東京都台東区浅草1-41-4
営業時間 11:45~22:00
日曜営業
定休日 木曜(祝日の場合は営業)
Text:Cook Inoue
Photo:Takuji Onda
Edit:Takashi Ogiyama
クック井上。プロフィール
お笑いコンビ「ツインクル」のクック井上。です! 芸人でありながら、食のイベントMC・料理教室講師・食のプロデュース等も! ●フードコーディネーター●ホームパーティー検定●食育インストラクター●野菜ソムリエ●BBQインストラクター●アスリートフードマイスター●こども成育インストラクター●パエリア検定 など食に関する資格も多々あり。
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