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FOOD 日本独自のカレーを探れ

カレー界の次期大統領!? ミシュラン常連が新たに仕掛けるポークビンダルー専門店

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現地完全再現の本格インドカレーからご当地カレーまで、百花繚乱な日本のカレー事情。そんななかから、いまも進化を続ける日本独自のカレーを「カレーライス」と定義し、個性溢れる「今食べるべきひと皿」とその作り手を、気鋭のカレーライター 橋本修さんが追いかけていきます。

今回は渋谷「副大統領」

今回橋本さんが訪れたのは、渋谷・宇田川町エリアに今年6月オープンした「副大統領」。ミシュランガイドのビブグルマン掲載店としても名高いポルトガル料理の名店「クリスチアノ」で知られる佐藤幸二さんがプロデュースを手がけていることもあり、食通からも注目される話題の新店です。

まるで大衆居酒屋のような店名ながら、インドカレーのなかでも比較的マニアックなポークビンダルーを専門に扱うという、異色のカレー店。ここではいったい、どんなひと皿を味わうことができるのでしょうか。

ハマっていたから、軽いノリで


渋谷駅から宇田川町方面に徒歩10分弱。かつ丼の有名店「瑞兆」と同じビルの2階に副大統領はあります。

ミシュラン・ガイドのビブグルマンにも選ばれたポルトガル料理「クリスチアノ」やタイ料理「パッポンキッチン」、そして独特な品揃えの惣菜ともんじゃが食べられる「おそうざいと煎餅もんじゃ さとう」など、渋谷~代々木八幡のエリアで次々に飲食店をヒットさせた佐藤幸二さん。

その佐藤さんがパッポンキッチンを閉店し、その跡地でカレー屋をはじめると聞いて期待が高まっていたのですが、そのカレー屋はなんと、ポークビンダルーの専門店とのこと。ポークビンダルーとは、インド南部に位置するリゾート地ゴアの名物料理で、インド全域でも珍しい豚肉を使った、辛みと酸味が特徴的なカレーです。

高まる期待とさまざまな疑問を抱えながら、オープン間もない副大統領へと足を運び、佐藤さんにお話を伺いました。

佐藤さん(以下敬称略)「パッポンキッチンは、はじめる前から3年で閉めるって決めていたんです。ビブグルマンをもらったときも(ミシュラン側に)そのことは伝えていました。それで店を閉めたあと、同じ場所でまた店をやるということは考えていなかったんですけど、物件のオーナーさんから『なにかやってくれない?』という打診があって。それで考えたのがこのお店なんです。お話をいただいたとき、ちょうど僕がポークビンダルーにハマっていた時期だったんですよね。


いかにも雑居ビルな雰囲気漂う廊下の右奥が副大統領。スパイスの良い香りが漂います。

ポルトガルにカルネ・デ・ヴィーニャ・ダリョシュっていう、豚をビネガーに漬け込んで煮込む料理があるんですけど、それが変化してポークビンダルーになったと言われていることを知って。もともと僕はポルトガル料理をやっていたので、カルネ・デ・ヴィーニャ・ダリョシュは食べたことがあったんですが、ポークビンダルーのことは存在は知ってる、ぐらいの感じだったんです。

そんなルーツ的なことで俄然興味を持って、曙橋にある『オフビート』ではじめてポークビンダルーを食べたんですが、これがすごくおいしくて。でも、こんなにおいしいのに、ポークビンダルーを出しているお店が当時はなかなか無かったんですよね。

なので、『じゃあ、自分で作ろう』とそこからハマって、自分で作ったものをたまにうちの店で出したりもしていました。そういう経緯があって、この物件の話があったときに、ちょうどいいんじゃないかなって思って、軽いノリではじめたんです」

小さな店だからこそ、コンセプトをわかりやすく


カウンターのみで、全10席に満たないコンパクトな店内。メニューはポークビンダルーのみなので、座ればカレーが出てきます。

近年提供する店も増え、レトルト商品まで登場してはいるものの、カレーとしてはまだまだマイナーなポークビンダルー。にも関わらず、その一品だけで勝負することに不安はなかったそう。そこには、数々の人気飲食店を手がけてきた佐藤さんならではの見通しがありました。

佐藤「不安はあまりなかったですね。たとえば、お店のキャパシティが20席くらいあったら、ひとりで来るより数人で来るお客さんが多くなるので、メニューの選択肢が多くないと受け入れられないんです。でも、ここみたいな小さな店だと、一種類だけ専門的にやっている方がわかりやすいし、迷うこともないじゃないですか。

ただ、選択肢がない中でも、味の幅は持たせたかった。なので、卓上の調味料を充実させることを考えたんです。通常僕がカレーを作る場合、出汁を使うことのほうが多いんですよ。インド料理屋じゃないし、そのほうが得意。でも、今回はあえて出汁を使わずに水から作っているんです。

そうやって味を決めすぎず、できあがりが8割くらいのところを狙って、2割のバッファというか、余白を残す。その2割のなかで、お客さんがテーブル調味料やゆでたまご、パパドを使って自分好みにアレンジしながら食べてもらうというのが、今っぽさもあってウケる気がしたんです」

ポークビンダルーの「酸っぱさ」を有効利用


基本メニューはポークビンダルー(1,000円)のみ。クスクスとサラダ、アチャールが乗る他、カウンターに置かれたゆでたまごはひとつまで自由にトッピングできます。唯一のオプションとして、毎月第4週のみ月替わりのトッピングも用意。

ポークビンダルーは、とくに酸味が強いカレーです。そしてその酸味は、インド料理でよく用いられるタマリンドやトマトではなく、酢によるもの。インド料理のなかでもキャラの立ったカレーですが、それを壊すことなく、イタリアでの修行経験もある佐藤さんらしい、日本人の味覚に合わせたローカライズも行っています。

佐藤「『ポークビンダルー=すっぱいカレー』という認識になってしまうと、広く受け入れられるものにはならないと思うんです。なので、そこは少し考えて作っています。例えば、ビネガーの量は現地のポークビンダルーと同じくらい使っているんですが、そのビネガーの酸味と辛み、そして甘みのバランスをとるための工夫をしました。その部分の考え方が、うちはちょっと違うかもしれないです。

スパゲッティのトマトソースを作るときにビネガーをティースプーン一杯くらい使うと、トマトが甘くなるんです。クエン酸を加えることで、トマトが本来もっている甘みが立ったような感じになるんですけど、それと同じような考え方ですね」

何屋なのかわからないぐらいでちょうどよかった


取材時の月替わりトッピングが、ちょうどポークビンダルーのルーツとされるポルトガル料理、カルネ・デ・ヴィーニャ・ダリョシュ(500円)。やわらかく煮込まれた豚肉はビネガーの酸味とにんにくが効いていて、ポークビンダルーとの相性も当然抜群。

副大統領における佐藤さんの役割は、あくまでプロデュースとレシピ開発。店主として店を切り盛りする多田さんとは、今回のお店をはじめることになってから知り合ったそうで、「美味しそうなカレーを作りそうな人だな」と即オファー。取材中も息の合ったやりとりを見せるナイスコンビですが、そんな2人に店名の由来を聞いてみました。

佐藤「ゴア地方の料理だから、アル・ゴア(元)副大統領。ダジャレですね(笑)。この名前は物件のオーナーさんが考えたんですけど、僕はすごくいい名前だなと思ったんですよね。僕以外の全員に反対されたそうですけど(笑)。この名前でいったい何屋なのか、イメージできないじゃないですか。そこがよかった。ロゴの上に『ポークビンダルー食べる』って書いてますけど、それだけです」

多田さん(以下敬称略)「実際、カレー屋かどうかすらわからないまま入ってきてくれるお客さんが結構いるんです。で、僕はそういう人たちが大好きなんです(笑)。自分が正体不明の店でも果敢に入っていくタイプなんで、すごく共感できるんですよ」


副大統領のプロデュースを手がける佐藤さん(写真右)と、マウンテンハットがお似合いの店主・多田さん(写真左)。コンビネーションもバッチリです。

佐藤「ここに来てくれたお客さんからよく言われるのが、座ると料理が勝手に出てくる、ということですね(笑)」

多田「それは、わざとそうしています。長浜ラーメンのスタイルですね(笑)。なにも言わずに準備をはじめると、知らないお客さんは不安になるじゃないですか。そういうミステリアスな感じこそが、お店の売りになるんじゃないかと思うんですよね」

佐藤「それくらいの距離感っていうのは最初に話し合った部分でもあるんで、あえてかなり情報を少なめにしてますね」

多田「店内には店名のロゴと、トッピングしか書いてないですからね。しかも、トッピングがどういうものか説明も書いていないし、外の看板にはトッピングの名前は書いてあっても、値段が書いてない(笑)」

ポークビンダルーの名前を借りたオリジナルカレー


副大統領のポークビンダルーを自分だけの味にできる、4種のオリジナル調味料。ネーミング同様、それぞれパンチの効いた味わいの名脇役です。

遊び心にあふれる副大統領ですが、それは「食を楽しむ」ということでもあります。とくに破壊力のあるネーミングが施された4種の卓上調味料は、そのどれもが、ポルトガル料理にもインド料理にも存在しない、味わいの幅を広げるために用意された唯一無二のもの。

そのオリジナリティゆえに、現地の味を知るマニアックな向きからは「本場の味とは違う」的なことを言われることもあるそうですが、そこには佐藤さんなりの確固たる思いがありました。

佐藤「ここの店の話をいただいたときに、幸いにも『本格的などこかの料理を作りなさい』っていうお触れがあったわけじゃないんで。副大統領で提供しているのは、極端に言えばポークビンダルーっていう名前を借りた、オリジナルのカレーだと思っています。ただ、食べてくれる人がイメージするときに、もちろん骨格はポークビンダルーなので、そう謳っているだけなんです。

いつも思うんですけど、イタリアンのお店に明太子スパゲティやたらこスパゲッティがあってもいいのに、他の国の料理だと『本場だと違う』とか言い出す人がいるんだろう、ってことなんです。ポルトガル料理屋をやってるんで、すごく言われるんですよね。そのたび、『なんでイタリアンには言わないんだよ!』って。イタリアでしらすも大葉も使わないのに、なんでだよ!って(笑)。

僕の解釈では、酸味と辛みと甘みのバランスがとれたポークカレーを、ポークビンダルーだとみなしているんですね。本当に美味しいものってそうだと思うし、そこをちょっと考えただけなんです」

多田「もうすでに2回くらい『本場のポークビンダルーと違う』って言われたことありますよ。『でも、おいしいでしょ?』って答えましたけど(笑)」

月替わりトッピングで単一メニューの可能性を追求


ライスとサラダはおかわり自由。ライスはカリフラワーライスに変更することもできます。

まだオープンからひと月弱の副大統領ですが、用意している食数を14時前には売り切ってしまうという盛況ぶり。これからは提供する食数を増やしていく他、唯一のオプションメニューである月替わりのトッピングを充実させていくそう。

佐藤「毎月第4週めだけ月替わりでトッピングを提供するんですが、その内容は誰かとコラボしたものになる予定です。いまインド料理や中華をはじめ、いろんな料理人さんたちにお声がけしていて、まだほとんど言えないんですけど、錚々たる顔ぶれなので楽しみにしていてください」

常に好奇心とチャレンジ精神を忘れない佐藤さんと、抜群の存在感とキャラクターで店を守る多田さん。ふたりの個性がいかんなく発揮された副大統領は、コンパクトな店の面積と反比例するかのような、大きな可能性に溢れています。

まずはトッピングを使いこなして自分なりのベストな味を探しに。そのあとは毎月第4週の月替りトッピングを楽しみに、足を運んでみてください。

Photo:Takuya Murata
Text:Osamu Hashimoto
Edit:Yugo Shiokawa

今回訪れた店
副大統領

住所:東京都渋谷区宇田川町41-26 パピエビル 2F
営業時間:11:00~売り切れ次第終了
定休日:いまのところ土・日・祝(今後無休になる予定)



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