FOOD ― いま食べるべき“カレーライス”

老舗2店の味が勝手にフュージョン!? 自称「気難しいクソ店主」が創り上げた至極のカレーにあなたもトリコ

2019.4.26 2019.4.26
2019.4.26
現地完全再現の本格インドカレーからご当地カレーまで、百花繚乱な日本のカレー事情。そんななかから、いまも進化を続ける日本独自のカレーを「カレーライス」と定義し、個性溢れる「今食べるべきひと皿」とその作り手を、気鋭のカレーライター 橋本修さんが追いかけていきます。

今回は神田「カレーノトリコ」

今回橋本さんが訪れたのは、神田駅から徒歩3分ほどのビジネス街に位置する「カレーノトリコ」。2014年のオープンから秋葉原の行列店として名を馳せ、昨年に現在の場所へと移転しました。

2つの老舗有名カレー店で修行を積んだ店主、田邉周平さんが創り出す革新的な一皿は、一体どのように生まれたのか。その秘密に迫ります。

「数ある好きな食べ物のひとつ」を仕事にするまで

秋葉原時代から一転、築浅のビルに入居した新生カレーノトリコ。神田駅からのアクセスも極めて良好です。印象的なロゴと、守るべきマナーについての注意書きに迎えられます。

2014年、秋葉原と神田の間、最寄り駅でいうとちょうど岩本町駅から少し裏路地に入ったあたりにオープンした「カレーノトリコ」。老舗有名店からのインスパイア要素とオリジナルの要素がミックスされた、一風変わったカレーライスが食べられるお店としてファンを増やしていった人気店です。

そんなカレーノトリコですが、昨年の夏、手狭になった店内に限界を感じ、現在の神田の店舗へと移転。新天地で1年弱が経過したタイミングで、自称「気難しいクソ店主」の田邉さんにお話を伺いました。

「放送作家になりたくて入った大阪の専門学校を卒業したあと、作家見習いみたいな状態でフラフラしていたんですけど、その時期に居酒屋で働いていたんです。結局、放送作家になることはあきらめたんですが、その後アパレルで働くことになって、最初は調子がよかったんですけど、だんだん雲行きが怪しくなっていったときに、その居酒屋の店主が2店舗めにカレー屋をやるって聞いて、そこで働かせてもらうことになったのが仕事としてカレーに関わった最初ですね」


調理中の店主・田邉さん。移転後、自身の労働環境は劇的に改善されたとのこと。

結局、最初に勤めたカレー屋は半年ほどで店をたたんでしまい、田邉さんは再びアパレル業界に戻るため、大阪から東京へと生活のベースを移すことに。しかし、田邉さんにとって「数ある好きな食べ物のひとつ」というぐらいの存在だったカレーとのつながりは、東京でもまだまだ途切れることはありませんでした。

「もう一度東京のアパレルで働いてみたいと思ってやってみたんですが、そこで精神を病んでしまって。合わなかったんでしょうね。結果的に自分に合っていた飲食の世界に戻ることに決めたんですが、いまさら下積みからはじめるのもしんどい。だったら自分が武器にできるもので、ということでカレーを選んだんです。

半年とはいえ、ひとりで店を切り盛りしているうちに、よそでカレーを食べたとき、なにを使っていてどうやってこの味になっているか、ということがある程度わかるようになっていたんで。最初に『ボンディ』で働いたきっかけは、自分がつくるカレーがボンディのカレーに似ていたから。その次に働いた『エチオピア』は、メニューの野菜豆カリーが好きだったんです。

でも、まかないで食べるときにいつも『このカレーのベースに肉と野菜で食べたいな』と思っていたことが、うちのカレーの大きなベースになってます。仕上げのテンパリング(ホールスパイスなどの香りを油に移し、その油を料理に使うこと)の部分は、とくにそうですね」

目指したのはサラリーマンに愛される店作り

カレースタンドというよりもラーメン店的なカウンターは、近隣のサラリーマンに気軽に入ってほしいという、田邉さんの思いが込められたもの。

“好き”を職業にしたくてトライ・アンド・エラーを繰り返し、ようやくたどり着いたカレー屋という職業。名店での修行を経て、田邉さんはついに自分の店を構えます。開店前に決まっていたことは、かけ声とポイントカード。そして、明確なターゲット層の設定という3つだったそう。

「東京のカレー屋で働くことにした時点で、独立は考えていました。それから具体的に30歳までの独立を目標にして、29歳のときにギリギリで間に合わせたんですが、オープンする前に決めていたことは、だいたいのカレーのイメージとポイントカードの導入。それと『おおきに!』っていう声かけですね(笑)。

あと、サラリーマンのお客さんをメインのターゲットに考えていたので、お店の内装をできるだけ馴染みやすい、ボロっちい感じにしようというアイデアはありました。おっさんって、基本的に知らない場所を怖がるじゃないですか(笑)。うちのカレーって、いわゆるカレーライスと比べると少し変わっているけど、見た目だけだったらまずは普通の定食屋みたいな感じで入ってくれるかなっていう狙いで、秋葉原の店はああいう内装だったんです」

インパクト大なハーブ使い

カレーノトリコ最大の特徴とも言うべき、ふんだんに振りかけられるカスリメティ。

カレーノトリコのカレーは大きくわけて2つ。具材を選べるインド風カレーと、牛すじを使ったドライカレーの2種類です。ドライカレーは単品では提供しておらず、インド風とのあいがけのみ。シャバシャバのベースにホールスパイスのテンパリングがバシッと主張するインド風カレーと、長時間煮込んだホロホロの牛すじを使った濃厚なドライカレーは、コントラストの対比が素晴らしく、最終的に混ぜてしまってもよいと思わせる取り合わせ。

そこにフライドオニオンと、普通のカレーライスでは滅多にお目にかかれない、カスリメティというハーブが彩りを添えます。修行した2つの老舗の味に、田邉さんならではの感覚が加わったハイブリッドなひと皿は、オフィス街というロケーションで狙い通りサラリーマン層のファンを獲得していきました。

「カスリメティは、もともと大阪の頃から存在は知っていたんですけど、うちで採用した理由は、パセリはダサいから使いたくなくて、それに代わるものを探した結果なんです。それにカスリメティの風味って、日本人に受けると思ったんですよね。テンパリングも同じ理由で受け入れられると思いました。そのかわり、うちはパクチーのトッピングが全然出ません。たぶん客層だと思うんですけどね。世間ではあんなに流行ってるのに、3日くらい注文がないときもあります。全然聞いていた話と違う(笑)!」

「気難しいクソ店主」を演じる理由

一番人気の「チキンのあいがけカレー(1,300円)」。カリッと焼いたチキンと、ドライカレーの上に乗せられたフライドオニオンが、単調になりがちなカレーの食感に最高のアクセントをもたらします。

オープンから5年を迎えるカレーノトリコですが、順調に人気店への階段をのぼっているさなか、大きなブレイクスルーを迎えます。TBS系列「マツコの知らない世界」に取り上げられたことで、すでに行列店だったにも関わらず、そこから加速度的に集客が増えていったのです。

もともとカウンターのみの狭小店舗にとって、それは決して手放しで喜んでいられるような状況ではなかったと言います。もともと気難しい店主“風”を演じてきた田邉さんですが、“気難しいクソ店主”というキャラクターを前面に押し出すスタイルは、このときに確立されました。

「きっかけはマツコの知らない世界に出たことですね。放送翌日の朝に店へ来たら、その時点で50人くらい並んでて。もう、お客さんをコントロールできなくなったんです。さらにみんな決まって(テレビで紹介された)あいがけのチキンっていう、一番手間のかかるオーダーをするから、回転も悪くて。そんな状態だから、近隣からもクレームが出始めたんです。それまでにもテレビや雑誌にいくつか出たことはあったんですが、あの番組だけは反応が桁違いでしたね。1年くらい続きましたから。

もともと常連さんの多い店を想定していて、実際そうなっていたので、非常識なお客さんなんてほとんどいなかったし、いたとしてもたまにだし、自分がガツンと注意すれば済むくらいだったんですよ。本当は注意書きなんて書きたくない。書くとなんかいやらしいじゃないですか。でもいろんなお客さんが増えたことによって書かなければいけなくなってしまった。いまとなっては、もう開き直って書きまくってますけどね。ついに携帯使用まで封じてしまったし(笑)。

あと、Twitterを見るのもやめていたんですよ。でも、今年くらいから改めてちゃんと店のルールや考え方を発信するようにしたんです。それがお客さんにも伝わったのか、すごく変化を感じます」

「最後の食事」を提供したい

カレーノトリコがイチオシするドリンク、自家製レモネード(350円)。スパイシーなカレーとの相性は言わずもがな。丁寧に下処理されたレモンは、皮ごとおいしくいただけます。

「マツコショック」とでも言うべき状況を経て行われた移転。その際には、常連さんがなるべくこれまでどおり通えるエリア、ということをポイントに場所選びをおこなったそう。客商売である以上、そんなことは当然ーーーと言ってしまえばそれまでなのですが、田邉さんが思い描く常連さんとの理想のコミュニケーション像から、その真意が浮かび上がります。

「別け隔てているわけじゃないけど、常連さんは大切にしています。もちろん、新規のお客さんにもきて欲しいし、そこから常連さんになってくれる人もいるかもしれない。でも、常々言ってますけど、根底には(退職や引っ越しで去ることになった)そのお客さんの最後の食事を作りたいっていうのがあるんです。店をやっていると、どこまでいっても、その人たちのおかげで自分は飯を食べられているわけだし。

毎週何回もきてくれたら、たまには鬱陶しいとか思うこともあるかもしれないですけど(笑)、助けられているし、本当に感謝していて。そういうお客さんの最後の食事を、自分が作ることができたら幸せですね」

死ぬ3日前までカレーを作っていたい

カレーノトリコのBGMはいつでもウルフルズ。現在3代目というプレイヤーには、ウルフルズの楽曲データだけ入ったUSBメモリが挿されています。

この6月に6年目を迎えるカレーノトリコですが、田邉さんはこの6年を振り返ってどう感じているのか。また、今後はどうしたいのかということについて、聞いてみました。

「(カレー屋をやるということは)これでダメならごめんなさい、っていう感じなんです。最後のわがままですね。これでダメだったら、お金のためだけに他の仕事をします。僕は最終的に、大阪でお世話になった居酒屋の師匠みたいになりたいんです。あの人みたいになるには、自分でなにかをしないと同じところにいけないっていう思いが強かったんですね。

今回移転して、自分たちの労働環境はすごくよくなりました。だからといって、複数店舗展開とかも考えていないし、いまのスタンスでなるべく長く続けて、それで多くのお客さんの最後の食事を作っていけたらいいですね。死ぬ3日前までカレーを作りたいと思っているんで。正直、ここ以外に自分の居場所がないんです。ここでカレーを作っているとき以外は、大体飲み歩いてるから(笑)」


この後ろ姿を撮りたい人は、必ず田邉さんに一声かけましょう(笑)。

師匠と呼べる人との出会い、そしてその師匠がつないでくれたカレーとの出会いは、田邉さんにとって一生をかけるべき天職となりました。そして今日も田邉さんは「気難しいクソ店主」を演じています。守るべきマナーは守りつつ、その店主が作り出す、唯一無二のカレーをぜひ味わってみてください。

Photo:Takuya Murata
Text:Osamu Hashimoto
Edit:Yugo Shiokawa

今回訪れた店
カレーノトリコ

住所:東京都千代田区神田鍛冶町3-5 一八ビル 1F
営業時間:
平日 11:00~14:00、18:00~21:00
土曜 11:00〜15:00
定休日:日曜日
https://www.facebook.com/currynotrico
https://twitter.com/currynotrico

Author profile

橋本 修
橋本 修
Hashimoto Osamu

スパイスディーラーとしてストリートで名を馳せ、2017年からはカレーに特化した食ライターとしての活動を開始。ライムスター宇多丸氏がパーソナリティを務めるTBSラジオの人気番組「アフター6ジャンクション」のカレー特集にも出演し、電波の上でも日本のカレー事情をスムースにオペレートした。DJ、音楽ライターとしても活躍中。(イラスト:@animamundi_)

KEYWORDS
カレー

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