ファッション業界の賢人が編集長・干場に買わせたい逸品を価格帯別に紹介する人気連載。今回ご登場いただくのは、日本を代表するスタイリストとして数々の雑誌を手掛け、この数年では日本を代表するモンスターバンドの「Mr.Children(ミスターチルドレン)」のスタイリングも手がけてきたスタイリストの坂井達志さんです。

27年前、17歳だった干場少年を、この業界に見出した方でもあります。ファッション雑誌で「TOKYOみやげ」や「手土産特集」がヒット企画になっていますが、FORZAで坂井さんが取り上げるのは、ずばり「外国人への日本の手土産」。「これまでは僕たちが海外へ出かけることが多かったけど、最近は為替レートの関係もあって、外国からこっちに仕事と観光を兼ねて知人が来ることが多くなった。個人的にも東京の美味しい店を教える代わりに奢ってもらったりして、お返しを探すことが増えたので、これは干場編集長からの松竹梅のオーダーにちょうど良いな」と坂井さん。ということで、まずは2人の出会いの話しからスタート!
干場少年17歳、表参道でナンパされる
干場編集長(以下敬称略):坂井さんとは雑誌『エスクァイア』のファッションページでのお仕事で最後にご一緒してからになるので、もう15年ぐらい経ちますね。ご無沙汰しております。
坂井達志さん(以下敬称略):そんなに経ってる? いや~、でも、全然変わらないね、干場クン。
干場:っていうか、坂井さんこそ80年代に『POPEYE(ポパイ)』で活躍されていた頃とスタイルも変わりませんね。坂井さんと初めて会ったのは、僕と宮下(貴裕/TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.デザイナー)が表参道を歩いていたときで……。
坂井:『POPEYE(ポパイ)』の街角スナップ撮影で素人のオシャレさんを探していたら、表参道で抜きんでて目立つ少年が歩いてきて、僕がナンパしたんだよね。
干場:17歳の高校生でした。坂井さんが確か28歳で。
坂井:二人ともめっちゃオシャレで。特に干場クンは高校生なのに大人顔していて。
干場:ということで、実は、その当時の『POPEYE(ポパイ)』の切り抜きと、電車の中吊り広告を持ってきました(笑) これ、すべて坂井さんとご一緒したものです。
(2人でしげしげとビジュアルを見つめる)

干場:そのスナップが載ったあと、2~3ヵ月してから坂井さんから「また撮影したいけど来てくれない?」と電話がかかってきて……。スタジオに行ったら洋服が、たくさん用意されていて。それが、巻頭のファッションページだったんです。しかも、1ページ裁ち落としの、12ページぐらいの巻頭ファッション特集(笑)


坂井:当時、どのメンズ雑誌を見てもモデルの顔が同じで、自分の中ではつまらなかったんだよね。だから、フレッシュな人、そして読者が同じ目線で見れる人を使いたくて干場クンを起用した覚えがあります。
干場:坂井さんのスタイリングで、僕と宮下と3人のカットもあるんですよ! 坂井さんに声をかけて頂いてから、確か2年ぐらい『POPEYE(ポパイ)』に読者モデルとして出して頂いていたと思いますね~。
坂井:面白いことがいろいろできたね、あの頃は。
坂井さんのアシスタントになりたかったんです!
干場:坂井さんはどうしてスタイリストになられたんですか?

坂井:大学を出てファッション関係のインポート会社でプレス業務も兼任していて、『POPEYE(ポパイ)』編集部とも付き合いがあった。その後、色々あって会社を辞めることになり、世界一周旅行にでも行こうと思い立って、お世話になった編集の方に旅行ルートの相談をしているうちに、「うちでやってみない?」と言われたのが27歳のとき。結局、旅には行かず、『POPEYE(ポパイ)』でお世話になることになりました。
干場:そんなことがあったんですね。
坂井:そして入ってすぐの仕事がファッション特大号。スタイリストの仕事の内容は知っていたけど、当然やったことはなくて、でもスタイリストとしていきなり絵コンテを描かされたり。
干場:坂井さんの絵コンテはタイトルなども丁寧に書いてあって、スタジオでそれを見て「あ、この人が監督総指揮なんだ」と思いました。

坂井:80年代の『POPEYE(ポパイ)』は編集方針が独特で、いろんなフリーランスの方が編集会議に参加させてもらいページ作りを任されていた。本当にいろんな人が出入りしていてエキサイティングだった。
干場:「坂井さんのアシスタントにしてください!」とお願いしたこともありましたね。でも運転免許(坂井のアシスタントの必須条件であった)もなくて悩んだこともあって……。
坂井:干場クンはビームスに入って、それから編集者の道を進んだ。
干場:現場をご一緒させていただいたのが糧になっています!
マルジェラのあのシューズよりクッション性が良い「梅」の日本土産

干場:ということで、いよいよ今回の松竹梅のテーマなんですけど……。坂井さんが選ぶ「外国人への日本の手土産」ということで楽しみにしてきたんですが、これは何ですか? 初めて見たんですけど……(笑)。

坂井:マルジェラじゃないよ(笑)。今でも『POPEYE(ポパイ)』をやっていた頃の“面白いモノを探すクセ”が抜けていなくて、ついその道の専門店とかに入ってしまうだんよね。そのときに見つけたのが、踵(かかと)にエアークッションを搭載しているこの「エアージョグ」。

干場:うわ~、本当だ。エアークッションが見えますね~。
坂井:僕が外国の方にプレゼントするものを選ぶとき、3つの基準があって……。その一つが日本の伝統に何か革新的なニュアンスをプラスしているものかどうかということ。これはまさにそう。日本の伝統的な履物にエアクッションという今(スニーカーテイスト)を搭載。普通の足袋だったら、多分どこでも買えるからね。

干場:それからエアが見えないのが2代目の「エアージョグIII」。2代目なのにスリー(笑)。初代とはソールの仕様が違ってる。(写真中)それともう1足(写真右)は、ちょっと変わってますね。
坂井:エアージョグ(写真左)をちょっとカスタマイズしたもの。そのままだと地下足袋感が抜けないからね。

干場:凄いですね~。ソールをオールブラックに塗って、よりマルジェラ風に近づけ、OFF-WHITE風に小技をプラス。
坂井:マルジェラのメンズ“タビブーツ”は薄いレザーソールなので、クッション性はこっちのほうが圧倒的に良いよ。
干場:どうやって履くのがカッコイイんですか?
坂井:それはもうマルジェラを履いているぐらいの勢いと気持ちで(笑)。僕はブラックジーンズとジャケットの今日みたいな格好に、スニーカー代わりで普段履いてる。

干場:足首のサイズ調整も簡単にできるし、よくできてますねぇ。
坂井:カスタマイズしたのを履いていると、オシャレな子がチラ見してくる(笑)。スニーカーをプレゼントするのはかさばるけど、この地下足袋はコンパクトに纏められるから手土産にはちょっと大きいかもしれないけど、許される範囲かな。
干場:確かに、オシャレにうるさそうな方には喜ばれそうですね~。
日本人の発想力と技術力が結集した「竹」のお土産コンビ
干場:っていうか、次の「竹」もまた一風変わったモノですね。

坂井:この「空気の器」は、空気を包むようにカタチを自由に変えられる紙製の器で、さらにこの「空気の器 KIKU by仲條正義」は、日本を代表するグラフィックデザイナー仲條さんのデザイン。


干場:薄くて軽くて、かさばらないし、見る角度によって表情も変わって、ほんとプレゼントにいいですね。和のテイストも感じるし。
坂井:坂井の手土産選択基準その2。いかにコンパクトに纏められ持ち運びが楽にできるかということ。その点、この「空気の器」は日本人の技術の粋が集結した逸品。

干場:まさにそうですね。結局、スーツケースに詰めて帰国するのは外国の方ですからね。
坂井:それと、この器に入れるのに選んだのは、増田園の狭山茶の5種セット。

干場:日本に来る外国人は日本茶、好きですよね。
坂井:中身を説明すると、ゆったりお茶の時間を楽しみたいときの「花筺」、旨味たっぷりの狭山茶らしい「雨滴」、お菓子との相性が良い「薫風」、美しい緑色が特徴の「春霞」、焙じ茶の「若楓」の5種が楽しめる。
干場:日本人の心のようなものですね。パッケージもきれいでコンパクトだし。

坂井:お茶は「香りは宇治、味は狭山、色は静岡」といわれていて、狭山茶は日本三大銘茶の一つ。茶の形状より味を重視したお茶作りが特徴で、コクのある濃厚なお茶が味わえる。
干場:お茶は文化ですから、この器と手土産の合わせ技という心配りは外国人に伝わりますよ。
自然をカタチにした陶器が「松」の手土産

干場:さて、いよいよオーラス。「外国人への日本の手土産」の「松」ですが、これも何ですか?

坂井:ちょっと説明が長くなるけど、代官山のセレクトショップ「Lift étage(リフトエタージュ)」で見つけたのが、この渡辺隆之さんのやきもの。南伊豆の海に近い里山の村で窯を構えて暮らす作家で、これは、砂辺に掘った穴に素材を流し込んで、自然乾燥する過程で砂のテクスチャーが表面の表情を形成していく。そして、ある程度形になったところで窯に入れて陶器としての仕上げを施すというもの。
干場:なるほど。自然をカタチにした陶器ですか。面白いですね。

坂井:こういった制作背景を語れるものは、もらう方もどんどんイメージが膨らんでより価値が上がる。これが、坂井の手土産選択基準その3。

干場:確かにバックボーンがあるものは、そこから会話も弾むし、そのモノのストーリーも膨らむ。“価値を渡す”という感じですね。
坂井:器にしても良し。スタッキングしてオブジェにしても良し。逆さまにして石ころのように見立てて飾るも良し。独特の存在感があって、見る人にいろいろ想像させるのがいい。
干場:どういう使い方をしてもいいし、ゆがみが綺麗で、和でもなく洋でもなく、ナチュラルです。
坂井:プレゼントしてどう使ってくれるのかを考えるのが楽しいよね。だから3個以上纏めてあげることをお勧めします。大きさをチョイスできるから、スタッキングして渡せば荷物としてもかさばらないしね。
干場:いや~松竹梅の説明ありがとうございました。面白かったです。いつもはどれを買うか1つ決めるのですが、今回は「全部買い」ですね(笑) 東京オリンピックもあるし、外国のお客さんに買って持っていきたい。絶対喜ぶと思います。今日はご紹介ありがとうございました! またぜひ出てください。というか、FORZAでも、いろいろ仕事ご一緒してくださいませ。
坂井:こちらこそありがとうございました。今回は、勝手に設定(値段の松竹梅)を変えてごめんね…。


































Photo:Naoto Otsubo
Edit:Satoshi Nakamoto
Text:Makoto Kajiii

坂井達志さん当日のコーディネート。イタリアで購入し大手術を施したブリオーニのジャケットに、ユナイテッドアローズのカーディガンとTシャツ、「これで5本目」というバジュラのレザーテクスチャーのパンツに、ポインテッドトゥのドクターマーチンの靴。ハットは、カムズアンドゴーとレターズのコラボレーション。


































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